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[深層リポート] IBMが半導体労働者2世の疾患に巨額補償した理由

登録:2014-11-14 00:57 修正:2014-11-14 07:14

2003年60件…訴訟本格化前に補償
当時の弁護士“生殖毒性を知っていたということ”
消極的対応の韓国企業とは対照的

2003年にIBMに対する集団訴訟を率いた弁護人のなかの一人スティーブン・フィリップス弁護士。

 韓国国内半導体労働者の生殖毒性と2世の健康への影響はいまようやく問題が提起された水準だ。 サムスン電子などは半導体労働者の白血病、乳癌なども工程で取り扱う化学物質、環境との直接的因果性は認定できないという立場だ。 半導体労働者2世の健康に対する責任問題はまだ遠い争点だ。

 だが、アメリカではすでに10余年前に2世の疾病に対する素早い補償措置が企業次元で行われた事実が確認されている。 アメリカの代表的半導体企業だったIBMの‘2世奇形児訴訟’だ。

 2003年、奇形児を産んだIBM出身の労働者が会社を相手に集団訴訟を行った。ニューヨークとバーモントの生産工場で主に働いた労働者たちが主張した被害事例は60件余りだった。1980年代初期から1990年代後半までに生まれた子供たちの病気は多様だった。 目に癌(網膜母細胞腫)ができたり、脳の大きさに比べて頭蓋骨が過度に小さかったり、脳に水がたまっていた。 先天性奇形と中枢神経系の稀少疾患だった。

 IBMは訴訟が本格化する前に補償に乗り出した。 補償額は合意内容に対する秘密維持の約束のために現地マスコミにも今まで知らされていない。 ただし60件余りの集団訴訟に先立って行われた単独案件の奇形児訴訟価額が4000万ドル(400億ウォン程度)だったことから考えれば、これら訴訟の補償額が天文学的水準であったという推定が可能だ。

 労働者たちは自分たちが可妊期、妊娠期にエチレングリコールエーテル(EGE)などのソルベント類有機化合物やクロム・カドミウム・鉛などの重金属に露出したと主張した。 取り扱い物質の有害性を十分に告知されなかった点も争点になった。 半導体企業がすでに1970年代にエチレングリコールエーテルが2世奇形を誘発する可能性を動物実験を通じて知っていた。 カリフォルニア州政府と米国立職業安全健康研究所も80年代にこの物質が生殖毒性を誘発すると公式に明らかにしていた。 IBMはこのような点から訴訟は不利だと判断したわけだ。 会社が判決前に被害者と合意した理由のうち、懲罰的損害賠償を憂慮した影響も大きいかったと見られる。

 当時労働者側を代理したスチーブン・フィリップス弁護士は『ハンギョレ』との電子メール インタビューで「アメリカ半導体産業協会が会員会社にエチレングリコールエーテルが奇形児を誘発する可能性があると知らせたのが1983年だった」として「IBMはエチレングリコールエーテルの生殖毒性を知らなかった筈がない」と話した。

 エチレングリコールエーテルの有害性を把握していながら、1983年から10年余りにわたり保健安全管理と有蓋物質の代替を講じるなどの措置を取らなかった責任を認めたという話だ。 共同代理人のアマンダ・ホース弁護士は『ハンギョレ』に“企業は物質の安全性が不確かな場合、より安全な物質や工程に変えたり、妊娠女性を他業務に切り替えるなどの措置を取る義務がある。 裁判所もこれを幅広く認めている”として“IBM訴訟以後、現在まで半導体労働者2世奇形訴訟が続いている理由”と話した。 2003年IBMを相手取った集団訴訟以後にも数百件の類似訴訟がアメリカの多くの州でモトローラ、インテルなどを相手に提起された。 フランスやスコットランドなどでも似た訴訟が進行中だ。

 韓国半導体事業場では依然としてエチレングリコールエーテルが使われている。サムスン電子とSKハイニックスは半導体産業と生殖保健の間の因果性を認めていない。 特にサムスン電子は、2つの‘半導体会社’の子供(健康保険被扶養者0~19才)の先天奇形有病率が高いという事実すら受け入れない。“自社の役職員の40%だけが半導体職員”であるためだという論理だ。

オ・スンフン記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/society/labor/664478.html 韓国語原文入力:2014/11/14 00:26
訳J.S(1772字)

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