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[コラム]韓国大統領候補がウクライナの悲劇から学ぶべき教訓

登録:2022-03-04 03:02 修正:2022-03-04 07:24
ウクライナの首都キエフ(現地読みキーウ)のテレビ送信塔が1日(現地時間)にロシア軍の爆撃によって炎に包まれている様子を、ウクライナ内務省が公開した=キエフ/AFP・聯合ニュース

 いま繰り広げられているウクライナの悲劇は、1994年にその根がある。ソ連解体直後、ウクライナは突如世界第3位の核兵器保有国となった。核兵器作動ボタンは依然としてロシアが保有していたものの、ウクライナには核弾頭約1900発と戦術核兵器2500発が配備されていた。新生独立国の核保有に不安を感じた米国とロシアにとっては、ウクライナの核廃棄は共通利害だった。米ロの要求を数年間拒否し続けたウクライナは1994年、経済の崩壊と国際的孤立から脱するために米英ロといわゆる「ブダペスト覚書」に署名した。核兵器をロシアに移転・廃棄する見返りとして米英が経済支援を行うとともに、3カ国が安保を「確約」するという内容だ。「確約」は国際法的に安全保障を「保証」するものではなかった。だから合意の名称は条約ではなく覚書だ。当時、ウクライナが武力攻撃を受けた場合には米英が軍を派遣して主権と領土を守るということが保障されていたなら、今のような事態は防止できたかもしれない。

 その年、ウクライナの運命を左右するもう一つの出来事が起きた。米国は1990年にソ連に対してNATO(北大西洋条約機構)の東進はないだろうと口頭で約束したが、1994年の中間選挙を機として態度を変えた。「東進政策」を主張してきた共和党が上下両院を席巻したことで、ビル・クリントン政権(民主党)も態度を変え、NATOの中・東欧拡張を推進しはじめたのだ。NATOは1999年にチェコ、ポーランド、ハンガリーの3カ国、2004年に7カ国など、これまでに中・東欧の計14カ国を加盟国として受け入れている。米国はルーマニアとポーランドにはミサイル防衛(MD)網をも配備している。米ロの短いハネムーンは結局終わってしまい、NATO加盟国以外でロシアと国境を接している国はベラルーシ、ウクライナ、ジョージアの3カ国のみが残ることになった。旧ソ連の栄光を再現しようとの虚しい夢を見ているウラジーミル・プーチンは、2008年にジョージアに侵攻した。ベラルーシは今回の戦争で見られるようにロシアの事実上の衛星国だ。プーチンは2014年、ウクライナのクリミア半島を強制併合し、今やウクライナに親ロ政権を立てようとすらしている。こうした事態の展開は、冷戦後のユーラシアにおける秩序確立が未完であるという不安定な状況にあって、大国に挟まれた弱小国がどのような運命に直面しうるかを悲劇的に示している。

 ウクライナの悲劇から得られる教訓をめぐって、各大統領候補の見解の相違は明確だ。保守候補は、力による平和と強力な同盟の重要性を悟らせてくれると語り、進歩候補は、大国同士の戦略的バランスの維持の必要性を強調する。原則論的にみればいずれも正しい。しかし現実を冷静に見つめれば、韓国とウクライナの違いも明らかだ。まず、韓国は軍事力と経済力を基準に見ると、国力がウクライナとは比較にならないほど大きい。軍事力では韓国が世界6位、ウクライナは22位だ。経済力では韓国が10位、ウクライナは57位だ。また韓米同盟は韓米相互防衛条約によって、韓国が武力攻撃を受ければ米軍は法的手続きに則って介入することになっている。

 いっぽう地政学的な側面では、ウクライナと非常に類似しているか、むしろ韓国の方が危険かもしれない。韓国は4つの大国(米国と日本 対 中国とロシア)の利害が衝突する結節点に位置する。一方では米国の覇権主義と日本の歴史修正主義、もう一方では中国の中華民族主義とロシアの無謀な大国主義。これが向き合っている。これに北朝鮮の核冒険主義まで加わっている。このような地政学的位置にある国にとって、戦略的バランスの維持は生存の必須不可欠な要素だ。早くどちらか一方に立つべきだという主張は短見だ。貿易で生きる国として民主主義、市場経済、人権という普遍的価値を追求し、多国間主義を堅持しなければならない。

 このような点で、ユン・ソクヨル候補のTHAAD(終末高高度防衛ミサイル)追加配備と米国のMD(ミサイル防御)システムへの参加発言は、戦略的バランスを揺るがす危険な主張だ。朴槿恵(パク・クネ)政権末期のように、THAAD配備をめぐって米中の衝突が再燃することは火を見るよりも明らかだ。また、強圧外交で周辺国を管理しようとしている中国は、経済報復に再び打って出る可能性が濃厚だ。中国は早くも敏感に反応している。中国の王毅外相は先月28日、「敏感な問題を適切に処理し続け、中韓関係が不必要な妨害と衝撃を受けないようにしよう」と述べている。「敏感な問題」とはTHAAD配備を指していると解釈される。ユン候補の主張は韓国の安保を不安にさせるだけでなく、経済にも大きな打撃を与えうるため、責任ある言行に努めるべきだろう。

//ハンギョレ新聞社

パク・ヒョン|論説委員 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1033405.html韓国語原文入力:2022-03-03 17:06
訳D.K

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