欄干作業は安全装備が不備のまま
ビル内壁の階段にぶらり、14メートル下へ落下
遺族ら「会社側は謝罪せず暴言」
妻の病気の治療のために脱北した40代の男性が、仁川(インチョン)で保護帽も身に着けずビルの清掃をしていた最中、墜落して死亡した。男性は北朝鮮では医科大学を卒業した医師であった。
仁川市南洞(ナムドン)区のキム氏(48)は13日午前8時30分頃、仁川市延寿(ヨンス)区松島(ソンド)国際都市にあるポスコR&Dセンターのビル内壁のガラス清掃をしていた最中に地上2階から14メートル下の地下1階に墜落して死亡した。
17日の遺族の話によると、キム氏はビル内部の階段を使って長さ3メートルの竿を使用し建物内部のガラス窓を拭いていたが、前が遮るもののない空間であることを知らずに足を踏みはずして墜落した。当時キム氏は、保護帽をはじめ欄干作業をする際に着用する命綱のような安全装備を全く備えないまま作業した。遺族は「作業前の安全教育は非常に形式的だった。ビルの構造上、墜落する危険のある空間には安全ネット網などがなければならないのに、それすらなかった」とし、「最近、会社の方からは唯一キム氏にもう一度掃除をするように要求していたが、このような重圧感のなかで事故が起こった」と話した。
キム氏は咸鏡北道(ハムギョンブクド)清津(チョンジン)市で医科大学を卒業し、医師として働いた。妻が肝臓疾患、高血圧などに苦しんでおり、妻の治療のために脱北を決心した。キム氏は妻と娘を連れて2006年8月に韓国に入国した。キム氏は就職のためにショベルカーやフォークリフトの運転等の資格を取った。しかし就職が容易でなかったため、仁川地域の工事現場で力仕事をし、妻の治療費や生活費を稼いだ。2010年、松島のポスコR&Dセンターとポスコ建設ビルの清掃と駐車管理のためにポスコが出資して作った社会的企業「松島SE」に正規職で就職した。
キム氏は駐車管理チームの管理職として働いたが、今年4月に業務が外注化されると清掃員に移り、ビルの清掃業務を担当したという。駐車管理チームで働く時は月給が180万ウォン(約16万3000円)だったが、清掃員に変わってからは月給140万ウォン(約12万70000円)となった。キム氏は給料で生活費や妻の病院費の調達が難しくなると、休みの日には工事現場で働いたが、2000万~3000万ウォン(約181万~272万円)の借金を残したままこの世を去った。
キム氏が普段使っていたメモ帳には、職場の大切さや自負心、北に置いてきた両親の恋しさ、娘への愛情が込められている。
遺族は「当初は15日午前に葬儀を行おうとしたが、常務が来て『道義的責任だけだ』と言い逃れし、班長は遺族らに暴言を吐くなどし無視したため、会社側の謝罪と再発防止対策などが出されるまで葬儀を延期した」と明らかにした。
仁川/キム・ヨンファン記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr)
韓国語原文入力:2016-08-17 23:41