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韓国に脱出しても保護対象外にされる脱北者 改善されない政府の非人道主義的措置

登録:2015-11-26 14:55 修正:2015-11-29 00:13
入国から1年過ぎ保護申請し 
国家補助が認められない“非保護”のチョ氏 
「自首すべき事実を知らなかったのに不公平 
せめて住居・医療の支援さえ」 
2003年の統計公開後に非保護は172人
18日昼、仁川市西区にある病院でアルツハイマー疾患と関連する病院診療を終えて帰宅する非保護脱北者のチョ氏=仁川/キム・ソングァン記者//ハンギョレ新聞社

 チョ氏(44)は20代半ばから国籍を3度も変えた。今は韓国籍だが、3年前まで法的には中国人だったし、生まれて1998年までは北朝鮮人として生きた。顔つきも話し方もまったく変わっていないが、チョ氏はまるで違う人になってしまったようだと語った。「何のためにここまで来て苦労しているのか分からなくなります」。彼女は2002年に中国の国籍を取得し、韓国人男性と国際結婚して韓国に入国した。韓国に来たくて中国の戸籍を買い、中国人として生きて4年が過ぎた頃だった。韓国人の妻として2人の娘を産んだが、子供は7年しか生きることができなかった。夫の暴力や姑のいじめには耐え難いものがあったという。

 離婚後の2012年に「豆満江(トゥマンガン)を渡った」と当局に申告する決心をした。前夫は「申告すれば捕まる」と脱北の事実を知らせないようにした。2人の娘を連れ、あくせく働いた末、「助けてもらえる」と聞きつけ「自首することを決心した」のだという。クレジットカード会員募集の仕事をしたり、一人でなんとか暮らしてきたものの、生きていくのがやっとだった。「結果は『非保護』でした。自首すべき事実も知らなかったし、それをいつまでしなければならないかも知りませんでした」。他の脱北者は韓国政府から賃貸住宅、住居支援金、職業訓練、就職奨励金、雇用支援金など様々な恩恵を受けることができるが、チョ氏には何も与えられなかった。「北朝鮮離脱住民の保護および定着支援に関する法律」(定着支援法)により、国内への入国後1年を過ぎ保護申請をした人は非保護扱いにされる。チョ氏はこの「非保護脱北者」だ。

 2003年以後に公開された統一部の公式資料によると、非保護脱北者は172人になる。しかし非保護脱北者の規模は公開されず、正確な数字は分からない。非公式には400~500人に達すると推定される。公式資料では2003~2009年までは年間1~4人に過ぎなかったが、2010年の11人から2桁に急増し始めた。チョ氏もこの時、非保護決定を受けた。

 定着支援法は、麻薬・テロなど国際刑事犯罪者、殺人など非政治的犯罪者、偽装脱出容疑者などと共に、滞在していた国が10年以上の生活根拠地になっていたり、国内入国後1年を過ぎて保護申請をした人などを非保護にするよう定めている。脱北者に対する保護決定は国家情報院と北朝鮮離脱住民対策協議会(脱北民対策協議会)が決める。国家情報院長は「国家安全保障に顕著な影響を与える恐れがある人」を非保護対象とする。脱北者に偽装したスパイなどの入国を防ぐ装置として国家情報院長が決めた非保護対象は、その内容と規模が外部に知られたことがない。

 チョ氏の場合、脱北民対策協議会が非保護に決めた。チョ氏は定着支援法が規定した「国内入国後1年を過ぎて保護申請した人」に当たり、非保護脱北者になった。統一部集計で2008年以後、非保護脱北者163人のうち77.3%(126人)が入国1年を過ぎたという理由で非保護決定を受けている。

 2010年以後に非保護脱北者が急増することになった理由も同じだ。脱北入国者が年間3000人に迫るピークだった2009年に定着支援法が改正され「入国1年後」の規定が設けられた。しかも脱北後に中国などを経由して「中国朝鮮族」の身分を偽装したまま入国するケースが増え、保護申請制度を知らなかったり、知っていても期間を過ぎてしまう人が多い。

 チョ氏は「悔しい」と繰り返し話した。「不公平」という言葉も何度も口にした。「生きていくのがあまりに辛くて、助けてもらおうと自首したのに…期間を過ぎてはいけないという決まりは知りませんでした。自首しなければならないということも知らなかったのです。自首すれば捕まると言われ、朝鮮族のフリをして暮らしてきました…。体の具合も悪いし差別はひどいし、いっそ朝鮮族になれたらとも思いました」。定着支援も与えられない経済的困難も吐露する。チョ氏は化粧品訪問販売業をしながら1カ月に100万ウォン(約10万円)ほどの稼ぎがあるといった。26平米(8坪)のアパートの家賃35万ウォン(約3万6000円)を払いながら二人の子供と生活してみると、健康は総合病院水準に通わねばならないほど悪化したが、病院で診療してもらうことは滅多にできない。チョ氏は「定着金をもらえなくてもせめて住居や医療の支援はしてほしい」と訴えた。

北朝鮮離脱住民の入国者数および非保護決定者数//ハンギョレ新聞社

 保護対象となる脱北者には、定着支援金700万ウォン(約73万円、1人基準)、住居支援金1300万ウォン(約136万円、1人世帯基準)、賃貸住宅斡旋などの恩恵があり、職業訓練履修期間により最大170万ウォン(約18万円)の追加支援金を受けることができる。また、就職後3年間勤続すれば首都圏勤務者なら1650万ウォン(約173万円)、地方勤務者なら1950万ウォン(約204万円)の就職奨励金も与えられる。しかし非保護脱北者は緊急生活安全資金100万ウォン(約10万円)だけだ。

 北朝鮮人権情報センター付設定着支援本部が非保護脱北者10人を面接調査した最近の結果では、彼(彼女)らの月平均の勤労所得は平均64万6000ウォン(約6万7000円)だった。脱北者全体の月平均所得147万1000ウォン(約15万4000円、2014北朝鮮離脱住民実態調査)の半分以下だ。 職業訓練・就職支援などで疎外された結果だ。非保護脱北者は食堂や工場などで仕事をする。韓国の生活に満足していると答えた人は10人のうち1人だけだった。脱北者の67.6%が満足していると答えた実態調査に比べ明らかに低い。しかも今年に入り女性の脱北者の比率が80%を超えた。定着支援本部の面接調査者も10人中9人が女性だった。今年の経済活動人口調査付加調査の結果によると、男性の正社員賃金を100とした場合、女性の非正規労働者は36.3に過ぎない。非保護脱北女性の賃金がこれよりいいはずがない。

 チョン・ジェホ北朝鮮人権情報センター定着支援本部長は「政府の北朝鮮離脱住民に対する政策の方向は、人道主義に則った特別な保護だと法律に明示してあるが、その範囲を保護対象で限定している。保護対象にだけ人道主義に則った保護と支援を提供するのであれば、非保護脱北者には非人道主義的処遇をしていると見るほかない」と指摘した。

キム・ジンチョル記者(お問い合わせ japan@hani.co.kr )

韓国語原文入力:2015-11-25 21:55

https://www.hani.co.kr/arti/society/society_general/719153.html 訳Y.B

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