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[ニュース分析]「李永吉処刑説」流布し言い逃れる大統領府と国家情報院

登録:2016-05-11 23:44 修正:2016-05-12 07:21
対北朝鮮情報の加工がもたらした失敗
統一部が配布した「李永吉粛清」文書 //ハンギョレ新聞社

国家情報院が作った「でたらめ諜報」
統一部は「当たるも八卦」で流し
工業団地閉鎖による世論悪化をぼかし

朴槿恵政権「北崩壊論」認識
政治用に使おうとして「誤報」再生産

 開城(ケソン)工業団地が閉鎖されてから3カ月。 北朝鮮の李永吉(リヨンギル)前人民軍総参謀長も開城工業団地の門が閉められた日に「死んだ」。 ところが9日に終わった朝鮮労働党第7回党大会で「復活」した。 朴槿恵(パククネ)政権はでたらめな北朝鮮諜報を報道機関に流し大恥をかいた。 問題は今回の事態が朴槿恵大統領の「北朝鮮崩壊論」の認識と政策に歩調を合わせようとする大統領府と国家情報院など国家機関の「対北朝鮮情報誤用・悪用」の構造的結果という点だ。

 2月10日午前11時48分だった。 政府は「開城工業団地全面中断」を最終決定し報道機関に発表すると知らせた。 開城工業団地閉鎖で大騒ぎだったその日の午後3時頃、統一部は「北朝鮮、軍総参謀長の李永吉を2月初めに電撃粛清」というタイトルのPDFファイルを記者らに「非公式」に提供した。 「対北朝鮮消息筋を引用」せよとの条件が付いていた。 この文書には「北朝鮮は2月初め軍総参謀長である李永吉(61歳、大将)を『分派分子』および『派閥勢力・不正』容疑で処刑した」という内容と共に、李永吉が「大酒飲みで肝機能が悪化し健康が良くない」という「特記事項」まで具体的に記されていた。 しかしこの「情報」は、李永吉が朝鮮労働党中央委員会第7期第1次全員会議で中央軍事委員と政治局候補委員に選任された事実が10日付の労働新聞に報道されたことででたらめであることが判明した。

 李永吉処刑説の公開はそれ自体が異例だった。 「統一部が対北朝鮮情報をこのような形で公開するのは創設以来なかった」というのが1990年代初期から統一部を取材してきたある記者の話だ。 統一部は「北朝鮮関連情報」を分析はするが生産する部署ではない。 例え国家情報院から情報を受け取っても外部には公開しなかった。 だが李永吉処刑説をはじめ、最近になって「関連機関の情報」として内容を流す例が現れている。 中国の北朝鮮式レストラン従業員の集団脱北の時も同じだった。 こうした時、「関連機関」とはほとんど例外なく国家情報院を指す。

 ところで、李永吉処刑説が事実無根であることが明らかになったという記事がハンギョレ11日付に載ると、国家情報院関係者は記者に電話をかけてきて「国家情報院は該当情報を公開したことはない」と抗弁した。 開城工業団地の閉鎖を決めた朴槿恵大統領の大統領府が、「李永吉総参謀長処刑説」という国家情報院が生産した「情報」を統一部を前面に立てて公開したのだろうというこれまでの推定が事実上「確認」されたわけだ。

 最も正確で迅速な情報が必要な瞬間、韓国の情報機関は「役立たず」になることが多かった。 代表的な事例が2011年12月の金正日国防委員長死亡時だ。 金委員長は2011年12月17日午前8時30分(北朝鮮公式発表基準)に死亡したが、李明博(イミョンバク)政府は2日後の12月19日昼12時に北朝鮮の朝鮮中央テレビが「特別放送」で公表した後、この事実を知った。 50時間を超える重大な情報空白だった。 2008年に脳卒中で倒れた金委員長が「歯磨きできるまでに回復した」(2008年9月12日キム・ソンホ当時国家情報院長の国会答弁)として「恐るべき対北朝鮮情報力」を誇った李明博政府の「素顔」だ。

 「李永吉処刑説」誤報事態は開城工業団地の閉鎖と無関係ではない。 開城工業団地閉鎖決定によりまき起こるやも知れない世論悪化を「暴悪な北朝鮮政権の不安定性」を拡大再生産することによってぼかそうとした公算が高い。 該当文書は「核心幹部に対する金正恩の不信と不安感」を強調し、何よりも「金正恩の恐怖統治」のために「北朝鮮の高位幹部は表面的には盲従しているが、内心は懐疑的見解が次第に深刻化」し「北朝鮮政権の不安定性を増大させる要因として作用するものと予想」できると書いている。

 朴槿恵大統領の“長期に亘る”北朝鮮崩壊論の認識が「情報失敗および不正乱用」事態の構造的原因だという指摘が多い。 政府部内で北朝鮮情報を扱った経験が多いある関係者は「情報機関の実務者は情報でイタズラをすることはない。 情報失敗と言われる事例の大部分は、最高権力者とそれに媚びた部や室が国内政治目的で「北朝鮮問題」を活用しようとして招いた惨事」と指摘した。

 大統領府をはじめとする朴槿恵政府は、今回の「李永吉情報の失敗」を重大な反省の契機にしなければならないという声が強い。 元政府幹部は「張成沢(チャンソンテク)、玄永哲(ヒョンヨンチョル)、李永吉など北朝鮮の軍・党高位幹部の粛清または処刑を金正恩政権の不安定性と崩壊の兆しだと解釈したい朴槿恵大統領の偏向した認識が問題」として「政府が処刑されたと事実上発表した李永吉が堂々と生きているということが確認された今回の事態は、朴槿恵政権の対北朝鮮政策と関連して深い省察の必要性を雄弁に語る重大な情報失敗・誤用事例」と話した。

 韓国統一部のチョン・ジュンヒ報道官は11日、定例ブリーフィングで「(李永吉処刑説と関連して)別に申し上げることはない。 北側が写真と共に李永吉事項を報道したので、それをそのまま受け入れなければならないようだ」と明らかにした。 政府高位関係者は「李永吉がしばらく姿を見せなかったのでそのような判断をしたし、ヒューミント(人的ネットワーク)情報は合っているのが半分程度」と話した。

キム・ジンチョル、イ・ジェフン、チェ・ヘジョン記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/politics/defense/743409.html 韓国語原文入力:2016-05-11 19:14
訳J.S(2542字)

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