本文に移動

[ニュース分析]韓米司法当局の連携で全斗煥元大統領の海外裏金を18年ぶりに没収

登録:2015-03-07 01:27 修正:2015-03-07 06:49
全斗煥元大統領の海外財産追跡
全斗煥元大統領の次男ジェヨン氏が2014年2月12日午前、ソウル瑞草洞ソウル中央地裁から出てく様子。1審はジェヨン氏に懲役3年、執行猶予4年、罰金40億ウォンを宣告した。2審も同様の判決を下し、最高裁で裁判が進行中だ。パク・ジョンシク記者//ハンギョレ新聞社

全斗煥(チョン・ドゥファン)。あまりに聞き飽きた名前です。だから批判にも新鮮さを感じられないことが多いです。しかし、注意深く調べてみると「全斗煥に関する事実」には聞き飽きません。批判は多かったが、調査は少なかったのです。韓米刑事司法共助を通じて全元大統領の隠匿財産の一部が追徴されました。彼の国外財産が正式に確認されたのは今回が初めてです。

 18年かかった。賄賂・内乱罪容疑で全斗煥元大統領が1997年に4833億ウォン(約52億8526万円)の追徴金確定判決を受けた後、初めて全元大統領の国外秘匿財産が追徴される予定だ。捜査機関と裁判所の判決などを通じて彼の国外隠匿財産の実体が解明されたのは今回が初めてだ。

 米国司法省は、全元大統領の次男のチョン・ジェヨン氏、夫人パク・サンア氏、、パク氏の母親ユン・ヤンジャ氏と彼らの投資法人である「ポートマンレイトラスト」などが、米国に保有する資産122万6951ドルに対しカリフォルニア中央地方裁判所などに提起した「民事没収」(civil forfeiture)訴訟で112万6951ドル(約12億3000万ウォン、約1億4746万円)を没収する調整に3人が合意したと、4日(現地時間)プレスリリースを出して明らかにした。司法省はホームページで公開した報道資料で「大統領在職当時、全元大統領の一連の腐敗・賄賂行為は韓国国民の信頼を裏切って政府の重要な財源を持ち出し、法治主義を弱体化させた」とし「外国の官僚が腐敗により形成した財産を隠すマネーロンダリング天国として米国が機能するのを、単にバカのように見守るわけにはいかない」と付け加えた。

ただの「没収」ではなく「民事没収」である理由

 2年ぶりの成果だ。米司法省の今回の「調整合意」(settlement agreement)は、韓国検察との刑事司法共助を通じて得られた結果だ。全元大統領は1997年に有罪確定判決後、2013年8月までに追徴金の1672億ウォン(約182億8461万円)を未納した状態だった。 2013年追徴時効の期限が切れる状況になった。チェ・ドンウク検察総長の下に未納追徴金特別捜査チームが作られた。 ハンギョレや『ニュース打破』などのメディアから隠匿財産の調査報道が続いた。国会で全元大統領の秘匿財産を狙って「公務員犯罪に関する没収特例法」が改正された。 犯人以外の者がその状況を知って取得した不法特性およびそれから由来した財産について追徴することができ、追徴金の執行時効を10年に延長するという二つの条項が核心的な内容だ。韓国法務部は2013年8月の法改正を契機に、米司法省に刑事司法共助を要請した。全元大統領の家族が米国に逃避させたと推定される財産の追跡と没収に協力してほしいという要請だった。

 二つの財産を見つけた。米司法省のプレスリリースによると、同省はジェヨン氏が2005年にカリフォルニア州ニューポートビーチに購入した住宅売買代金72万1951ドルを捜し出し、カリフォルニア州中央地方裁判所から押収令状を受けて、昨年2月に押収した。同省はニューポートビーチの住宅についてプレスリリースで「全元大統領のマネーロンダリングされた不正な資金で(住宅を)購入した」と明らかにした。韓国と米国の検察はもちろん、米連邦捜査局(FBI)も「国際腐敗クレプトクラシーユニット」とともに捜査に参加した。 「クレプクラシ―」(kleptocracy)は「泥棒政治」と翻訳される。権力者が莫大な富を独占する政治体制を意味する用語だ。米国土安全保障省捜査局(HSI)も重要な役割を担った。

 米司法省は資金を発見した直後、ジェヨン氏などを相手にカリフォルニア州中央地方裁判所に「民事没収」訴訟を提起したと、昨年4月24日明らかにした。民事没収制度は、韓国にはない独特の制度だ。韓国刑法(41条)で没収は犯罪に関与した財産を国家が持っていく刑事処罰だ。韓国刑法を基準に考えると、「民事没収」という言葉や「没収調整に合意した」という文章自体が形容矛盾に聞こえるかもしれない。

 民事没収制度は、警察と検察が犯罪や不法行為の容疑者を起訴するか、有罪の確定判決を受けずに犯罪に関与した財産を没収することができる手続きだ。もちろん、刑法上の没収型も共存する。民事没収制度は、数百年前、英国弁護士が海洋法上の脱税したものを没収した判例が起源とされている。 禁酒法時代だった1930年代に密造酒取り締まりの過程で民事没収訴訟が急増したと伝えられている。確定判決前に進行が可能となり、訴訟費用と時間があまりかからない特徴がある。米国内で議論になっているようだ。 米ワシントンポスト紙によると、「正当な法の執行手続き」を規定した憲法修正第14条に反するなどの理由で廃止意見が少なくない。ミネソタ州議会は昨年、民事没収制度禁止法を可決した。

 第二の隠匿財産も発見された。米司法省のプレスリリースによると、韓国法務部はジェヨン氏の夫人パク・サンア氏が「ペンシルバニア合資組合」(Pennsylvania Limited Partnership)に投資した金50万ドルを見つけ、ペンシルバニア東部地方裁判所に押収令状を昨年8月22日請求し、ペンシルバニア東部地裁は同年9月に押収令状を発行した。さらに同省は今年2月18日、この投資について民事没収訴訟を提起した。この投資は、再度、フィラデルフィアの「米国移民基金」(US immigration fund)に再投資された。ホームページによると、米国移民基金は、非米国人と彼の家族が米国で進行中の事業に投資して米国の永住権が許諾される「EB-5 」ビザを取得できるよう手伝う民間企業だ。5日の米司法省の発表は、両方が没収について民事訴訟のように「調整合意」に達した結果だ。米司法省は没収に合意した112万6951ドルのうち、訴訟費用などを除いた残りの部分を、ソウル中央地検追徴金収納口座に送金する予定だ。

 「公務員犯罪没収特例法」改正後
 米司法省に刑事司法共助要請
 結局、米国逃避させた財産見つけ
 カリフォルニア州裁判所に訴訟提起した後
 112万6951ドル没収に合意する

 国外財産の正式発見・押収は
 1997年の有罪判決以来初めて
 チョン・ジェヨン氏側は
 夫人パク・サンア氏の
 米国永住権の再申請に米国が
 反対しない条件で同意した
 ジェヨン氏はなぜ確定判決を待たなかったか

 

 米司法省が明らかにした調整合意決定文によると、「請求人(ジェヨン氏側)は、後に控訴などいかなる他の法的な争訟を提起せず、また、今回の没収を遮断したり、遅延させたり、干渉しない」と記載されている。決定文には、ジェヨン氏側が、なぜ確定判決を待たずに調整に合意したのか具体的な理由は書かれていない。

 今回の調整の合意でパク・サンア氏の永住権の申請問題が重要な要素として作用した事実が決定文で明らかになった。決定文によると、両方とも「没収が執行されてた後、2年以内に被請求人パク・サンア氏が米国務省にリターニングレジデント地位の申請訴訟を起こす場合、米司法省はこれに反対しない」と合意した。 リターニングレジデントビザとは、海外に1年以上居住した米国永住権者が再び米国に居住するとき取らなければならないものだ。パク・サンア氏は、子供の教育問題で米国を頻繁に離れているので、これを必要とすると推測される。ビザの問題を解決するためにジェヨン氏のほうも確定判決を待たずに調整に応じたものではないかという推測が可能な部分である。 5日ジェヨン氏を代理した米国の弁護士に電子メールで「没収に合意した理由」などジェヨン氏の立場を訪ねたが、答えは返って来なかった。

 韓国法務部国際刑事科は5日プレスリリースを出し「米国司法省との直接連携を通じた国内回収措置の最初の事例として、犯罪収益の返還の実効性の面で大きな意味がある」と明らかにした。チョン・ジヌ国際刑事課長は、「なぜ米国が刑法の没収型ではなく、民事没収訴訟を提起したのか」という質問に、「米国側の判断である。米国で最も効果的に(私たちの政府の)要求事項を反映できる方法を発見したと聞いている」とし「刑事司法共助慣例上、私たちの方で具体的にあれこれ要求するのは難しい」とハンギョレとの通話で明らかにした。「バク・サンア氏のビザの問題が調整案件だったのか」など、具体的な司法共助の内容については明らかにしなかった。

 全元大統領の国外秘匿財産が初めて公式に発見され没収された初の事例という点が注目に値する。彼の国内の財産は、1988年5共(第5共和国)聴聞会、1996年の暴動・賄賂罪捜査ときに、最初の調査を受けた。しかし、国外財産は、捜査余力上、調査対象ではなかった。当時捜査チームにいたキム・ヨンチョル、光州(クァンジュ)市教育庁監査官は、2013年ハンギョレとインタビューの時、「その頃はスイスの銀行が顧客情報を政府に提供していなかった時代である。 (国外財産の捜査が)事実上不可能だった」と述べた。 2004年当時、大検察庁中央捜査部所属だったユ・ジェマン弁護士がジェヨン氏の脱税事件で全元大統領の秘密資金を明らかにした時も、国外財産は調査対象ではなかった。

 「結局私たちは第5共和国と呼ばれる時代に対して、唾を吐いたたけで、その時代にもたらされた私たちの問題が本当に何だったのか明らかにする作業はほとんど失敗に終わったのだった。まるで一本の映画を見ながら、まったく何もわからないまま、画面に『終』が出てきたようだった」。1988年5共和国を取材していたイ・ジャンギュ元中央日報編集局長は『経済はあなたが大統領だ』で第5共和国の聴聞会をこう評した。18年かかった。

コ・ナム記者(お問い合わせ japan@hani.co.kr )

韓国語原文入力: 2015.03.06 19:29

https://www.hani.co.kr/arti/society/society_general/681193.html?_fr=mt2 訳H.J

関連記事