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内乱以降、韓国社会はより安全になったのか【寄稿】

登録:2025-11-26 09:31 修正:2025-11-26 10:38
シン・ジヌク|中央大学社会学科教授
「自由大学」や「不正選挙防止隊」などのメンバーたちが10月3日、ソウル地下鉄1・4号線の東大門駅を出発し鍾路区光化門方面に行進している/聯合ニュース

 先日、筆者が参加した世論調査の結果に大きな衝撃を受けた。「文化放送」(MBC)ラジオがKスタットリサーチに依頼し、10月に2014人を対象に実施した電話面接調査で、「昨年の総選挙と今年の大統領選挙に中国が介入したという一部の主張」に対し、全体回答者のうちなんと30%が共感を示した。特に18〜29歳の41%、保守層の52%、野党第1党「国民の力」支持者の61%がこれに含まれる。この結果が特に懸念すべきなのは、不正選挙論を名目に掲げ、内乱を起こした尹錫悦(ユン・ソクヨル)が弾劾された後、むしろ社会の状態がさらに悪化したためだ。

 「時事IN」が依頼した韓国リサーチの2025年2月の調査では、2024年の総選挙で選挙不正があったと信じる回答者が27%であり、不正選挙に中国が介入したという主張に20%が共感した。同じ調査を今年の大統領選挙直後の6月4~5日に再び行った際、6・3大統領選挙に不正があったとという回答が19%、中国が介入したという回答が18%に減ったのは鼓舞的だった。ところが、当時、不正選挙論を信じる20代は26%で、多くの年齢層の中で最も高く、新しい推移の兆しが見えていた。それから数カ月後、不正選挙論と中国介入説に対する同意率は過去最高値に跳ね上がっている。

 このような不正選挙論はいつ、どのように生まれ、なぜ今再び拡散しているだろうか。ネイバー・データラボで2017年1月以後「不正選挙」のモバイル・PC検索頻度を分析してみると、最初に急増したのは2020年4月の総選挙時期であり、その後2022年3月の大統領選挙、2024年12月の戒厳、2025年6月の大統領選挙の時に再び急激に増えた。2020年が出発点になったのは、2019年以降韓米極右ネットワークが不正選挙論を大量に流布し、2020年のコロナ禍の中で各種陰謀論が広がったうえ、2017年の朴槿恵(パク・クネ)元大統領弾劾後に極右勢力の継続的な扇動が重なった結果だった。

 不正選挙論は12・3内乱の主な名目として動員されたことで、その致命的危険性が明らかになったにもかかわらず、内乱以降もとどまることを知らなかった。「不正選挙」全体の検索量は戒厳直後に急増し、大統領選挙時期には減ったものの、19~29歳の若者の間では大統領選挙時期にも検索量が減少せず、驚くべきことに12~18才は戒厳直後には少なかったにもかかわらず、大統領選挙時期に3倍近く急増した。陰謀論の影響が若者と青少年にまで急速に広がったということだ。

 このように揺れ動く世論の推移は、長期間続く特定の構造的要因では十分に説明し切れない。これまで社会的孤立、経済的不安、剥奪感、過度な競争などの影響が言及されてきた。だが、それは人々を過激な思考に対して弱くする条件にすぎず、その上でインターネットとソーシャルメディア、オンライン・プラットフォームの影響を看過することはできない。一例として、韓国リサーチの今年2月の調査で、保守系のユーチューブチャンネルを1日1時間以上視聴する回答者の66%が不正選挙論に同意し、9%だけが同意した非視聴者と克明な対照を成していた。

 ユーチューブ、インスタグラム、X、スレッドなどソーシャルメディアではフェイクニュースと扇動、嫌悪の言葉が溢れている。また、ディスコード(Discord)、スラック(Slack)、ツイッチ(Twitch)のようなコミュニティ・プラットフォーム、ハイブリッド・コミュニケーション・プラットフォームも同様である。5・18光州民主化運動は北朝鮮軍の仕業だ、李在明(イ・ジェミョン)大統領は中国スパイだ、差別禁止法の背後には同性愛で韓国を滅亡させようとする中国共産党のビッグピクチャーがあるなどの文が出回っているが、これらに時には数千個の「いいね」が付き、数百万人が視聴する。

 若者や高齢者など特定の人口集団がソーシャルメディアにより夢中になりやすく、虚偽の情報に特に脆弱だという推測は事実に合致していない。韓国言論振興財団の「2024ソーシャルメディア利用者調査」によると、利用中のソーシャルメディア数は20代が6.95、70代が1.79で、年齢が低いほどはるかに多く、ニュース・時事情報を入手する方法として「アルゴリズムが推薦するニュースを視聴する」割合が20代で最も高く、脆弱性を示している。

 しかし、他の面では年齢が高いほど脆弱だ。例えば、ニュースを作成・提供する報道機関を認識している比率は、60代(25.5%)と70台以上(4.8%)が20代(55.8%)、30代(45.6%)よりはるかに低く、報道機関を確認する比率も高齢者の方が若者よりはるかに低い。つまり、陰謀論と虚偽の情報の問題は、特に高齢者や若者に限った問題ではなく時代的問題であり、ただし世代と性別によって問題の源泉と性格が異なるだけだ。

 ソーシャルメディアとオンライン・プラットフォームが悪性コンテンツの温床になったのは、単にユーザー一人ひとりの認識や心理の問題ではなく、構造的要因がある。供給の側面から見ると、このような産業部門はユーザー中心のシステムによって大衆性と収益性が生まれる構造であり、アテンション・エコノミーの原理は他のユーザーを誘引する刺激的なコンテンツの生産を誘導するものだ。また、再生回数と視聴時間が広告収入に大きな影響を及ぼすため、人々の関心を引いて集中させる過激な内容が「お金」になる。

 需要の面で、ユーザーたちがこのような世界に参加して得る利益は様々だ。情報獲得もあるが、面白さ、楽しさ、感情の排泄のような個別的効用もあり、集団内の絆と所属感の形成という関係的効用も大きい。「極右」色の人の多くは何か奥深い信念を持っているわけではない。ただ面白くて、興奮するから、親睦のために、「スパイ」動画をシェアし、「滅共チャレンジ」に参加しているだけだ。ただし、問題はその皮相的な刺激と遊びが実際の独裁と殺戮につながりかねないということだ。

 誰も悪魔(devil)ではないが、誰でも悪(evil)を行い、悪の構造に加担することができる。ある日中学生の子どもが、中国人が韓国で人身売買をしていると口にする時、高齢の両親が大統領はスパイだとして共産化を恐れる時、まともな知人が前回の大統領選挙結果は捏造されたと言って関連ウェブサイトのリンクを大量に送ってくる時、そのような瞬間がまさに罪なく純粋な人々が無道な権力者たちの「回収」計画、「ノアの洪水」の幻想を実現させていく過程だ。

 私たちはこれまで、12・3内乱以前の韓国社会において何が間違っていたのかを問うてきた。だが、これからは12・3以降の韓国社会において何が間違っているのかを共に問わなければならない。まるで開いてはならないパンドラの箱が開かれたかのように、危険な変化が起きている。「アカは殺しても良い」というジェノサイドの言語が「右派のグッズ」となり、「共に民主党」、中国人、労働組合、左派、フェミニスト、同性愛者など「殺しても良い」リストがオンライン空間にあふれている。内乱以後、韓国社会はより安全になっただろうか。真の内乱の終息は、社会の底辺、私たちの日常で行われなければならない。

//ハンギョレ新聞社
シン・ジヌク|中央大学社会学科教授(お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1231219.html韓国語原文入力:2025-11-25 19:44
訳H.J

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