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[ニュース分析]あなたの会社、ブラック企業じゃないですか?

登録:2015-02-22 20:48 修正:2015-02-23 14:49
韓国版ブラック企業運動を始めた青年ユニオン
ファッション業界の“情熱ペイ”に抗議するファッション労組のある労組員がプラカードを持っている。//ハンギョレ新聞社

青年労働者に非合理的労働を強要する企業
インターン3カ月 きっちり満たすと
あきれた理由で解雇
「こんな風に使い捨てられるとは…」

 ケーブル放送会社の契約職として働くK氏(34)は今年4月に正社員への転換審査を控えている。 正社員転換を疑わなかったが、最近の人事異動で自分と業務が重なる人が同じ部署に来たので、どうも気になる。 放送製作の仕事をしている彼は夜勤が多い。 退勤時間はいつも不規則だ。 それでも出勤時間は午前9時で固定だ。 夜遅くまで残業しても翌日には出勤時間が弾力的に調整できた以前の会社とは違い、今の会社は午前4時に仕事が終わっても9時には絶対に出勤しなければならない。 だからといって休日手当や残業手当をくれるわけでもない。 給与明細書の固定給以外に手当は一切ない。さらに同意もしていないのに、給与口座からは毎月寄付金名目で5000ウォン(約550円)ずつ引かれている。 様々な不当さを感じながらも、彼は一度も口に出すことはできなかった。これまで一方的に解雇を通報されて出て行く人々をしょっちゅう見てきたためだ。 不安定な雇用に一方的な企業文化までが加わって彼は転職を考えている。

明け方までの勤務でも9時出勤厳守
長時間の残業手当も払われず
賃金の支払いが滞り
正社員への転換を前にして文句も言えず
セクハラ・暴言、排除にもじっと我慢
文化芸術、ファッション、IT小企業が多く
青年ユニオン、報告書出し全面戦
「7月に『青年搾取大賞』を選定」
ブラック企業法案準備も検討中

 昨年11月9日、民主労総と共に『韓国版ブラック企業運動』を始めた青年ユニオンに寄せられたブラック企業の事例だ。 日本から渡ってきた表現であるブラック企業は、青年労働者に非合理的な労働を強要する企業を指す。正社員希望拷問、低賃金、人格冒とく、無手当残業、契約職差別、長時間労働を日常的に行う企業のことだ。 最近、見習い社員の甘い汁だけ吸って解雇し、採用物議をかもしたウィメプ(wemakeprice)、“情熱ペイ”だけで労働力を絞り取ったデザイナーのイ・サンボン氏の会社はブラック企業と見ることができる。

 青年ユニオンはブラック企業運動の開始を知らせると同時に、ブラック企業告発サイトを開設し、青年たちの事例を集めた。 3カ月間に63件の告発が寄せられた。 業務不適応という名目での不当解雇、賃金未払い、人格冒とくなど、青年たちを泣かせるブラック企業の手法は極めて悪辣非道で且つ多岐にわたっていた。 特に長時間労働、雇用不安定、職場内でののけ者扱いが主な類型として現れた。 青年ユニオンは、ブラック企業告発事例と青年たちの働き口アンケート調査などの分析を経て「青年の労働経験に基づいた韓国型ブラック企業指標開発研究報告書」(ブラック企業報告書)を出した。 ソウル市青年ハブからの受託研究で作ったこの報告書によれば、指摘された問題のうち最も多いパターンは長時間労働(69.8%)だった。 次いで残業手当未支給(36.5%)、賃金未払い(31.7%)、暴言(23.8%)の順だった。

 ブラック企業として申告された企業は、主に文化芸術、ファッション、情報技術(IT)分野の小企業が多かった。 大企業では通信業者や通信業者との間接雇用形態企業等が目についた。 小企業であるほど、また青年労働者が幼いほどブラック企業の暴力は目についた。 基本的な勤労契約書さえ書いておらず、青年労働者が労働法の死角地帯に置かれているケースが多かった。

韓国のブラック企業指標。//ハンギョレ新聞社

 イベント企画会社で働いたK氏(27)の主な業務は事務室清掃、郵便物整理、ポスター配布、公演会場でのチケット確認などの雑用だった。 公演企画の仕事を学ぶために入ったのに殆どが雑用だった。 正社員が5人しかいない会社はインターンに月給として90万ウォン(約10万円)を支払った。インターンが終われば正社員として採用するという言葉を信じて勤労契約書も書かなかった。 正社員になる日だけを待っていたが、インターンの3カ月が満了すると会社は彼を解雇した。 解雇の理由は「君のために会社の雰囲気が悪くなった」だった。あきれた解雇通知を受け取った彼は数日泣いて過ごした。「こんな風に使い捨てるんだなと思って」悔しくて、そして佗びしかった。

 解雇されてみて、それまで分からなかった一連の事が理解できた。社員は特別な理由もなく彼をのけ者にした。食事の時も主要業務の時も彼を排除した。事務室の壁のカレンダーには3カ月毎にそれぞれ違うイニシャルが記されていた。 後で分かったことだが3カ月の時限付き人生を過ごしたインターンのイニシャルだった。 K氏は「5人以上の社員を置けば税金が変わると言って、会社が社員を増やさないようインターンを3カ月ごとに使い捨てた」として「インターンはどうせ出て行く人だからと正社員たちが情を抱かないようだ」と話した。 K氏は会社を辞めた後、ずっとフリーランサーとして働いている。 強烈だった就職の苦痛のために小規模芸術公演企画会社には入社するつもりは全くない。

 生涯最初の労働の挫折は、青年時期に必要な教育を受け経歴を積む上で傷となる。 チョン・ジュニョン青年ユニオン政策局長は「ブラック企業はインターンや契約職の青年を生涯最初の労働現場で希望を失わせる」と話した。 19~34歳で就職しているか一時的失業状態にある青年302人を対象に青年ユニオンがアンケート調査した結果、労働者の勤続平均期間は1年2カ月でかろうじて1年を越していた。 現在または最近の職場と類似業種で働いた期間は2年4カ月だった。 彼らの平均離職回数は2.8回だった。 チョン局長は「職場生活で反復的に傷を体験して離脱を経験した結果、不当な権利侵害にもじっと沈黙するようになり、傍観者となってしまうために組織が個人の問題を解決できなくなる」と話した。

 雇用状態が不安定な彼らは性的暴行などの人権侵害にも露出されやすい。 照明を製作し販売する中堅企業に入社したDさん(29)が会社に通った1年2カ月は地獄のようだった。 精神的ストレスが激しく下血までして、これではダメだと思い会社を飛び出した。会社は性的暴行に関する問題意識が全くなかった。 会食は彼女にとって拷問にも等しい時間だった。 隣の部署のチーム長は、会食の度に近寄ってきて「君は誰に似ている」と言いながら色目を向けた。 「お前を見ていると、姦通罪がなくなってくれればと思う」という言葉もはばからなかった。 さらにそのチーム長の奥さんからの電話を受けたこともある。 こんなことがあった。 ある男性社員が女子社員に卑猥な動画をメールで送った。 女子社員が問題提起すると、懲戒を担当すべき人事チームは「女子社員が普段からどうだったから…」と男性社員の肩を持った。Dさんは会社のことを思えば、「いっそ失業者になった方がマシだと思った」と話した。

 R氏(仮名・26)は初めての職場で一カ月にわたり暴言を浴びせられた。 新生エンターテインメント会社で一人で広報マーケティングの仕事を任された彼に向かって、関連部署のチーム長は常にケチをつけ大声を上げた。 「これ、人間が書いたのか?」と口にすることすら憚られるほどに激しくののしった。 胸元を掴まれたこともあった。 地方からソウルに上京し初めて就職した会社でなんとか上手くやっていきたいと思った彼は、あらゆる侮辱にじっと耐えていた。 なんとかして学習の機会にしようと不断に努力した。 しかし返ってくるのは「月給がもったいない」といった相変わらずの言語暴力だった。自尊心が完全に傷つけられた彼は、4カ月で会社を辞めた。 自身の能力がそれしかないように思え、憂鬱さを長く引きずった。 今は宗教だけが唯一の慰労だ。

 ブラック企業は悪徳企業だろうか。 チョン局長は「ブラック企業を悪徳企業と言ってしまえばそうでない企業を見つけるのが難しくなる」とし、「だからブラック企業指標研究を通じたチェックリストを作っている」と話した。 青年ユニオンはブラック企業の指標として、雇用不安定、長時間労働、職場内のけ者、閉鎖的疎通構造の4分野を挙げて、正社員希望拷問、勤労契約自体の無秩序、実績管理のための圧迫など、具体的な10項目をその中に入れた。 ブラック企業チェックリストを上半期に市民に配布して、構造的に状況を認識できる道具として提供する計画だ。 指標としてあえてチェックしなくとも、就職時の収入を誇張したり虚勢を張る企業は当然疑ってかかる必要があると青年ユニオンは説明する。

 万一、あなたが通う会社がブラック企業ならばどのように対処しなければならないのだろうか? 「我慢しないで口に出せ」と青年ユニオンは助言する。 チョン局長は「各種の市民団体に労働相談を受けてみなさい」と薦める。 賃金未払いなど法律内の問題ならば行政的手続きを踏むことができ、法律外の問題ならば社会に知らせるやり方で問題を解決できるためだ。 一人で我慢して耐えていても、個人、企業、社会の変化を引き出せない。 チョン局長は「韓国の経済を支える産業の未来を作っていく青年労働者が否定的な経験によりめちゃくちゃにされ、成長の可能性を作り出せない状況に至っている」として「個人が一人で我慢して耐えて自殺する極端な状況は、今後さらに大きな絶望へ向かう兆候」と説明した。

 青年ユニオンは事例受付サイトを労働申告センターに切り替え、今後も持続的にブラック企業労働事例の受付と相談を行っていく予定だ。 7月にはブラック企業を業種別・分野別に分けて「青年搾取大賞」授賞式も行う計画だ。 ブラック企業を量産する労働市場を規制して、社会構造を変えるためのブラック企業法案の準備も検討中だ。

キム・ミヨン記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/economy/working/679108.html 韓国語原文入力:2015/02/22 10:47
訳J.S(4278字)

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