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“情熱ペイ”はもうたくさん…労働条件改善第一歩を踏み出した韓国ファッション界

登録:2015-02-10 20:31 修正:2015-02-19 07:44
額を突き合わせたファッション労組とデザイナー連合会
ファッション労組員が「一日14時間労働で月給はスズメの涙、これでどうやって暮らしていけというんですか」と書かれたプラカードを持ってデモをしている。//ハンギョレ新聞社

「青年搾取大賞」授与後22日目に顔を合わせる
連合会側「デザイナーたちは傷つけられた」
労組側「そうでもしなければ関心持たれない」

[はじめに]

ずっと「仕方ない」と思ってきた問題がある。 いわゆる「徒弟式労働」と呼ばれるファッション、美容、建築、映画、放送、芸術分野での青年労働力の搾取問題がその一つだ。“志望者”が溢れているので、その業界に“弟子入り”し、無給に近い低賃金と強度の不安定労働に苦しむ青年たちは、いつも声を殺して泣いていた。“先生”の位置にいる人たちは、「仕事を学べるだけでありがたいと思わなくては」と言い、世の中は「辛いのは青春の証」と言った。

 労働をしながらも、労働者として当然の権利すら認められずにきた彼らの怒りが爆発したのが、最近起きた“情熱ペイ”(「情熱」と「給与(pay)」を合わせた言葉で、若者に「情熱があれば金は必要ないじゃないか」と言う“大人”たちを皮肉った言葉)の論議だ。 ファッションデザイナー志望のID「バットマンD」がファッション労組のフェイスブックページを開設した。 一人で泣いていた彼らが、社会的ネットワークサービス(SNS)を通して声を上げ始めた。 ファッション労組は有名デザイナーのイ・サンボン氏に「青年搾取大賞」まで授与して、何とか問題提起をしようとした。

 そうして、2015年、韓国社会の熱い話題となった“情熱ペイ”問題をどう解決していくのかに関し、ファッション業界は重い問いを抱え込むことになった。 みんなが注視している試験台に上がった格好だ。 「青年搾取大賞」に名前の挙がったデザイナーたちが属している韓国ファッションデザイナー連合会の苦悩が深まった。 そしてついに、デザイナーたちは青年たちと一緒に解決策を模索することにした。

 1月29日、ファッション労組・バイト労組・青年ユニオンの青年3名と、韓国ファッションデザイナー連合会の運営委員3名が、国会の全順玉(チョン・スンオク)議員室で向かい合って座った。 相手を対話の相手として認めた“勇気”ある初会合だった。 被害事例の証言を通して現実的な不利益を被るかもしれない“弟子”たちが声を出したことも勇気であり、「青年搾取大賞」の汚名をかぶって22日目に会合の場に出る決心をしたファッションデザイナー連合会側の態度も勇気だった。

 その初会合の現場にハンギョレが同席した。「仕方ない」と思っていた韓国の労働問題も、意識ある雇用主や若者たちが手を握るなら、変えられるという希望を語る記録の第1ページだ。


青年労働問題の革新には双方が共感
全順玉議員、情報交換を含め討論会を提案
青年代表と連合会の周期的会合を約束

 「私は名刺がありませんので…。ファッション労組代表の“バットマンD”と申します」。名刺を差し出す韓国ファッションデザイナー連合会のチ・ジェウォン運営委員長に向かって彼がはっきりした声で言った。1月29日午後5時5分、ソウル汝矣島(ヨイド)の国会議員会館839号の全順玉(チョン・スンオク)議員室。ファッション界の“情熱ペイ(青年たちの情熱を利用して、搾取するという意味)”の問題を提起してきた青年代表たちとデザイナー連合会が初めて会う席だった。

 ファッション労組がソウル光化門広場で、デザイナー連合会会長でもあるイ・サンボン デザイナーに「青年搾取大賞]を授与してから22日目のことだった。 授賞式の2日後の9日、ファッション労組がイ・サンボン デザイナーと連合会を相手に「ファッション産業の労働環境改善のための社会的協議」を提案した。 14日、イ・サンボン デザイナーが謝罪文を、連合会が「革新する考えだ」という内容の立場表明文を発表した。 そして半月後、ついに顔を合わせた。

 こんなに短時間で、雇用主の立場である彼らが青年労働者たちを対話の相手と認めて直接会った事例は、いわゆる“徒弟式労働”に分類される他の業種では見当たらない。 映画界でもスタッフたちの低賃金・高強度・不安定労働が議論になって10年以上になるが、昨年の初めと終わりにそれぞれ封切りした『官能の法則』と『国際市場』が、新入りスタッフにまでちゃんと標準勤労契約書を適用した商業映画の事例となった程度だった。

1月29日、国会の全順玉議員室で、ファッション労組の「バットマンD」代表、 青年ユニオンのチョン・ジュニョン政策局長、アルバイト労組のク・ギョヒョン委員長の3人の青年代表と韓国ファッションデザイナー連合会運営委員たちが初会合を行った。全順玉議員室提供//ハンギョレ新聞社

 会議室の8人用テーブルの真ん中の席に全順玉議員(新政治民主連合)が座った。 右側に青年ユニオンのチョン・ジュニョン政策局長、ファッション労組の「バットマンD」代表、アルバイト労組のク・ギョヒョン委員長、左側にチ委員長と連合会運営委員のハム・ジョンフン弁護士、同徳女子大ファッションデザイン学科のチョン・ジェウ教授が座った。 ファッションデザイナー出身のファン・グミ補佐官、労働問題が専門のイ・サンホ補佐官も同席した。

 「青年たちが提起した問題は、40年前に私の兄である全泰壱(チョン・テイル)が語った話と同じだと思います。 これをファッションデザイナー連合会側で前向きに肯定的に受け入れていただいて、他の業界でベンチマーキングするようなよい先例を作ってみましょう。 ここに集まられた方たちが、十分に変えていけると思います。そうでしょう、皆さん?」チョン議員が快活な声で問いかけながら会議を始めると、皆が笑った。

 しかし、2時間近く続いた対話は、きわどい綱渡りのようだった。 チ委員長ら連合会運営委員たちは、ファッション労組など青年たちの問題提起方式のために多くのデザイナーが深く傷ついたという点を指摘した。 また、韓国のファッション市場で韓国デザイナーのブランドが占める割合が非常に少なく、経営状況が芳しくないという点も説明した。 ファッション労組に寄せられた被害事例がどれほどあるか、何故よりによってファッション界から青年労働問題を提起したのか、名前を明らかにせずに活動してきた「バットマンD」の正体は何かなどを尋ねながら、不信感をむき出しにしたりもした。

 「問題提起の方法がもっと柔らかければ、誰も関心を持たなかったと思います」「デザイナーブランドの経営状況が芳しくないという話は、今回提起した青年労働搾取問題とは何ら関係がありません。 勤労契約書未作成、不当解雇、低賃金労働、体型差別などの問題は明白な違法だから、協議の対象ではないのです」「私はフランスのパリでファッションの勉強をしたデザイナー志望者なので、ファッション分野で問題提起をしたわけです」。 青年たちの言葉に、連合会運営委員たちも頭を縦に振った。

 「私も青年たちに仕事をさせておいて金も出さない会社は、むしろ廃業する方がましだという立場です。 ファッション界が労務問題を革新するための機会を作った青年たちに、感謝の気持ちも持っています。 しかし、インターンや見習いなどが問題になるということで、デザイナーたちが最初から教育生も受け入れようとしないことが心配にもなります。 共存策を見つける必要があります」。チ委員長が言った。

 具体的な計画も提起された。 全順玉議員の提案で、青年たちとファッション界、政府省庁まで網羅した「ファッション界の“情熱ペイ”問題解決のための大討論会」を開催することにした。 これに向けた準備委員会として、青年代表たちと連合会が周期的に会合を持つことにした。 連合会は、内部で構想している<革新委員会>に青年たちも参加できるようにし、来る24日に開かれる総会で初めての「デザイナー労務教育」も実施する計画を明らかにした。

 「デザイナー連合会が労務問題解決を第一の課題として解決していくことを約束します」。チ委員長の言葉に「バットマンD」が答えた。「先ずは、こういう席に出てこられて対話して下さってありがとうございました」。 ファッションデザイナーたちがファッション業界全体を変えられるわけでもなく、ファッション業界だけが変わったからといって“情熱ペイ”システムの巨大な車輪が完全に止まるわけでもない。 それでも、ファッションデザイナー業界は革新の第一歩を踏み出した。 彼らは14日に2回目の会合を持つことを約束した。

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あなたは、インターン? それとも見習い?

 一つの会社に正社員として採用されるまでの労働を「過渡期労働」と呼ぶ。 過渡期労働が長くなれば、労働者は低賃金や不安に苦しめられざるを得ない。 内容によって試用、見習い、インターンがある。

1.試用

正式の労働契約を締結する前に、労働者の業務能力、職務適性などを評価するために試験雇用することをいう。 一般的に就業規則や団体協約で期間を3カ月と定めているが、これより長い場合もある。 あまりに長い試用期間は「評価」という趣旨に合わず、期間が明示されなければ労働者の地位が非常に不安定になる。

2.見習い

正式採用後、労働者の職業能力を養成するための期間だ。 見習い労働者には勤労基準法が全面適用される。 ただし、勤労基準法第35条による解雇予告は適用されない。 見習い期間には社会通念上合理的な範囲で勤務守則を厳しくすることが認められ、就業規則や労働契約などを通じて正式労働者より低い賃金を与えることができる。

3.インターン

法律用語ではない。 青年就業が問題になった2000年代以降、急速に広まった形態だ。 事業場で教育・研修・訓練などを受ける人を意味し、経歴にプラスになれば条件が劣悪であってもやるという人が多いのが特徴だ。「無給インターン」はそれ自体違法ではないが、会社がインターンに対し、業務を指示して残業までさせるなど悪用するならば、勤労基準法が適用されなければならない。 

イム・ジソン記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/culture/culture_general/676367.html 韓国語原文入力:2015/02/02 16:02
訳A.K(4314字)

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