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[インタビュー] 私たちは今日マクドナルドを占拠する

登録:2015-02-07 02:20 修正:2015-02-07 05:41
アルバ労組委員長ク・ギョヒョン氏
「アルバイト」という単語は現実に合わない。今食べていくためバイトを選択する労働者が増えている。ク・ギョヒョン氏は2013年から「アルバ労働者」の権利を守るアルバ労組の委員長を務めてきた。先月29日、ソウル麻浦区のアルバ労組事務室で。カン・ジェフン先任記者//ハンギョレ新聞社

 「アルバ」とは韓国人だけが使っている韓国語だ。ドイツ語「アルバイト」(Arbeit、労働)を語源とするが、ドイツでどう言われてこようが、1970〜80年代の韓国社会でアルバイトという言葉は、若者文化の一部だった。当時その言葉には「誠実な苦学生の夢」や「世の中に直接ぶつかってみようとする若者の覇気」といった情緒があった。国立国語院は外来語のアルバイトの代わりに「副業」を使うように勧告した。

 90年代の国際通貨危機を経て、アルバイトのロマンは失われ、アルバは副業ではなく生業となった。 10代から60代の壮年層まで飛び込むようになった資本主義の食物連鎖の最末端に位置する時間制労働。アルバは、過去のアルバイトの略語ではなく、2000年代以降に新しい意味を付与された新造語だ。最近「アルバ天国」が1万7774人を対象に行った調査によると、アルバ従事者は週に平均22.5時間働いて月に平均63万6000ウォン(約6万8400円、100ウォンは約11円)を受け取る。法定最低賃金も受け取れないアルバがほとんどであり、労働契約書を書かずに働いている場合も半数に近い。すべて労働法違反であるが、放置されている。

 労働権の辺境にあるアルバの権利のために2013年7月にアルバ労組が設立された。アルバ労組は最低賃金を生活賃金レベルに引き上げることを要求し、"時給1万ウォン(約1076円)”運動を展開する一方、アルバ労働相談、不当な慣行是正要求など、さまざまな活動を行ってきた。昨年末にはファッション労組、青年ユニオンとともに「青年搾取大賞」にデザイナーのイ・サンボンを選んだことで、デザイン業界の慢性的な賃金搾取慣行を告発し、まもなくデザイナーにモデルのような体型だけを要求する身体差別求人実態を集めて国家人権委員会に陳情書を提出した。組合員360人規模の新生労組だが、その活動は才気に溢れ猪突猛進だ。

 アルバ労組を導いている人々に会いたいと思った。新村(シンチョン)ロータリー裏通りにある労組事務室は思ったよりきれいだった。平和キャンプソウル支部、青年左派、青年緑のネットワークなどの団体と共同で借りた事務所のパーティションで区切られた2坪あまりの空間に7人の常勤者が働いていた。アルバ労組のロゴが書かれた黄色ベストを着た背の高い男性が、大股で近づいてきて挨拶をした。ク・ギョヒョン(38)委員長だった。

アルバしながら、数多くの惨めな経験
自己存在感を強烈に認識しようと
バイクの音を上げるようになった
「最低時給1万ウォン」過剰な主張じゃない
アルバしながら生活できなければ

呼び出し勤労、労働時間削減による賃金削減、最低労働条件...
マクドナルド不当な労働慣行を正すのが
今年の力点事業の一つ
新村店と延世大店の店舗占拠
明日夕方宣戦布告する
10代から60代までのアルバの人生年代記

‐ いくつかの事業を行っているが、財政はどのよう確保するのか?

 「組合員が毎月最低賃金だけ組合費を出す。今年(の最低賃金)は5580ウォンだから、毎月、その分ずつ」

‐それで運営費が足りるのか?常勤者の給料は?

 「組合費だけでは運営ができないので、『アルバ連帯』という後援団体を通じて会社員や労務士、学校の先生...非常に多様な人々に後援をしてもらっている。それで活動家たちに最低賃金水準で人件費を与えることができる状態だ」

‐青年ユニオンも労働組合だけど、アルバ労組とはどのような関係にあるのか

 「お互いに緊密に協力する。青年ユニオンは青年世代に焦点が当てていて、アルバだけでなく、インターン、契約、一時的失業者などの青年労働者全般の問題を扱う。これに対して、私たちはアルバの労働者の問題を扱っていて、青少年と若年層が多いものの、中年、壮年までの年齢層が広がる」

‐アルバは、学生や就職準備生がしばらくやってすぐ辞める仕事だと思っている人が多い。だからアルバ労働者とせずにひっくるめて「アルバ生」と呼ぶが、実際アルバの仕事に就いている人たちの年齢はどうなるのか?

 「若者から中高年層まで幅広い。青少年の場合は、私たちが会ったところでは、両親が非正規労働者である場合が多かった。生きていくのがやっとで、子供がやりたいことを後押しできない環境。単に携帯電話がほしくて働いているのではない。大学生になれば、授業料のために仕事をして、卒業しても就職ができないから、またアルバに出る」

‐あなたと同じ年齢層の人たちも多いか?

 「もちろんだ。私が2013年にロッテリアで働いていた時、一緒に働いている人の半分程度が30代だった。ある人はチキン屋が上手くいかず、一日に12時間〜15時間ずつ仕事をしていた。借金を返済しなければならないから。ある人は仕事を掛け持ちしていた。非正規雇用で働いているが、結婚して子供を産んで仕事の給料だけでは生活できないないから、アルバをする。 50〜60代にも、退職はしたが子供たちの就職がとても遅く、勉強を続けているから、何かやらなければならない。実はとてもいい仕事をしていて、3カ国語が喋れて、スペックもすごく立派なのに、コンビニで最低賃金も貰えずアルバする50〜60代のおじさんを何人か知っている。マクドナルドに行けば、このような様々な人たちを一つの店舗ですべて見ることができる。大学生、就活中の若者、青年と中年層、そして主婦社員...」

‐それなら年齢や経歴に応じて賃金が違うのか?

 「マクドナルドはだれもが最低賃金だ」

‐いや...(失笑)すごく平等だね!

 それさえも貰えない人が231万人、全労働者の12.6%に達する。ク・キョヒョン氏のいう通りなら、10代から60代までのアルバたちは、同心円のコンベアベルトに乗って回る消耗品だ。それぞれの理由は異なるが、時給労働者の所定の軌道から離れられない人生行路。一歩踏み出す度に一歩ずつ吸い込まれていくアリ地獄のように、アルバで始まってアルバで終わるアルバ人生がある。

アルバ労組が作成したマクドナルド売場占拠警告状。 //ハンギョレ新聞社

ファミリーレストランの「犬姿勢」

‐先月初め、梨花女子大学チョ・ギスク教授がツイッターに載せた文章が論議を呼んだ。デパートの駐車場でお客様の母娘の前でひざまずいたアルバイトに対し「日当を貰えない覚悟で堂々と不当に立ち向かう覇気もないのか。貧しいほど卑屈ではなく、自分自身を大切にしてほしい」と書いたが。

 「青年アルバ労働者をそのようにさせるのは韓国社会だ。ファミリーレストランに行けば注文を取るアルバがお客様の前にひざまずいて座る。これを「犬姿勢」というが、主人の命令を待っている犬にされているのだ。アルバは、いつでも簡単に切り捨てられることができ、他にところに行っても状況はあまり変わらない。これだから、どのアルバが“甲(カプ)ジル”(優越者による横暴)をするお客様に向かっていけるのだろうか。そんなことうしたらすぐクビになるのに。実際そのようなことで解雇されるアルバも多い」

‐そんふうにクビにされ、他に行っても、また屈辱を甘んじて受けるような現実を体験したことのない韓国社会のエリートたちは、よく知らないかもしれない。アルバ労組委員長であるあなたもアルバをしながら惨めな経験をしたことがあるのか?

 「一昨年だったか、ロッテリアで平日の午後1時から午後8、9時まで配達の仕事をしていた時だった。夕方になって配達が立て込むと、ご飯を食べる時間すら取れない場合が多かった。ある日、弘益大学の前に配達に行ったが、ふと悲しくなった。他の人々は恋人や友人に会って、この時間を楽しんでいるのに、パン一つを配達するためにバイクに乗っている自分は何だろう?そう思うとバイクを激しく、やかましく運転するようになった。パンパンという音を立てて」

‐ ああ、あれはそういうことだったのか。配達する人、バイクの騒音出すのを時々見かけたけど。

 「自分の存在が消えていくような感じ、楽しく動き回る人々の間に埋もれているような感じがした。私のような存在がいることを自分自身に強烈に認識させる方法がバイクの騒音だ。パーンって」

‐私はここにいる!と叫ぶように...。

 「そう。信号にかかってバイクが停止線の前に一列に並ぶ。マクドナルド、ロッテリア、チキン屋、ピザ...そんふうにい並んで信号を待っているとき、何故だか、彼らにとても深い感情的な連帯感を感じる」

‐個人的な話をもう少し聞きたい。今30代後半だからもうすぐ40代なのに、これまでアルバだけずっとやってきたのか?

 「そうじゃない。アルバ労組をする前に障害者団体で2005年から7年間働いた。そこで障害のある学生が教育を受ける権利、地域社会の中で一緒に暮らす権利を要求する仕事をした」

‐元々障害者問題に関心があったのか?

 「必ずしもそうではない…。障害の問題については若干”敏感”なほうだ。 70年代、私が2、3三歳の頃、父が工場で働いて左脚を怪我し、膝の下を切断した」

‐労災だったのか?どんな作業でけがをしたのか?。

 「わからない。これまで一度も訊いたことがないし、父も事故については語らなかった。私は上に姉が二人いて一人息子なのだが、幼い頃お父さんと銭湯に行くのが恥ずかしくて嫌だった。お父さんはなぜ(人と)違うのか、お父さんも二足でしっかりと走れるといいのに、と思いながら育ったが、後になって考えると、申し訳ない気がして...。だから、障害に関連する問題に触れると、人より興味を持つようになった」

 事故後、父は母と近所の雑貨屋をして三兄妹を育て上げた。 96年ク・ギョヒョン氏はソウルにある短大の情報通信関連学科に進学をした。そしてすぐに国際通貨危機が起きた。 2年生1学期を終えて入隊したが、「運がなかったのか」戦闘警察に選ばれた。

‐それは、金大中(キム・デジュン)政権の時代だったと思うが、デモ現場に出たことがあるのか?

 「たくさん出た。 99年度地下鉄労組ゼネストにも行き、FTA反対闘争にも行った。最も記憶に残るのは麗水(ヨス)化学団地の住民デモだった。麗水に新たに工業団地を拡張する際、住民を移住させたが、化学薬品の臭いがあまりにも強くてバスを降りする時は防毒マスクかぶらなければならなかったほどだった。ところがすぐ隣にお爺さん、お婆さんの家があった。沖に養殖場を持っていたし。それ横切って埋立て地、ごみ焼却場も建設する予定だというから、『生計手段捨てどこに行けと言うのか』と抗議をしたのだ」

‐そうした事情はどうやって知ったのか?住民たちがデモする理由を説明してくれたのか?

 「そんなことはない。私が知っている話は、すべての集会現場で聞いたものだ」

‐戦闘警察が集会現場に不動姿勢で立っていると、彼らが何か聞いているか否かの確認ができないけど。そんな話が全部聞こえるのか?

 「全部聞こえる。集会をしに三々五々集まるまでは敵意もなく孫みたいだと「夏なのに大変だろう?」と言いながら水や菓子もくださった人たちだ。そうするうちに、ある日、とても強く鎮圧に当たった日があった。お爺さん、お婆さんの足や手をもって押したりして...その過程でその人たちもすごく怒って。私たちに向かってレンガを投げたり、車で突進してきたりもした。優しかった人たちが殺気を帯びた目つきに変わるのを見てとても衝撃を受けた。『 あの人たちはどうしてここまで抵抗をするのか、あそこまで抵抗をしているのに、官庁と呼ばれるところがなんで彼らの前に立ちはだかっているのか?』。深刻な悩みは除隊したらそのような問題に関わる活動をしようと考えるようになった」

 除隊後バイトを始めた。情報通信分野は就業率が高いといわれているが、非正規雇用が急激に増えた時期だった。同期のほとんどが契約職で入社をし、今でもほとんど非正規労働者として仕事を転々としている。生きていくためにどうせやらなければならない仕事なら、非正規雇用の最底辺にあるアルバ問題を提起してみようと決心した。自ら「アルバイト生」ではなく「アルバ労働者」としてのアイデンティティを持ち始めた。 2013年1月を志を一つにする仲間たちとアルバ連帯を作ったのに続き、7月にはアルバ労組を作って招待委員長になった。

アルバ労組員が昨年11月20日午前、京畿道富川市のマクドナルド駅谷店前でアルバイト生不当解雇糾弾大会を終えた後、店舗内に入り不当解雇に抗議するプラカードデモを行っている。キム・ギョンホ先任記者 //ハンギョレ新聞社

アルバが無責任だと?
その裏側を見て

- アルバ労組で今年最も力点を置いている事業は何か?

 「二つある。一つは最低賃金を1万ウォンに引き上げる運動、もう一つは、マクドナルドの不当な労働慣行を正すことだ。マクドナルドは、非正規の雇用がすごく発達したらどうなるか見せてくれる典型的な例だ。例えば「呼び出し勤労」のような方式がそうだ」

-呼び出し勤労とは何か?

 「マクドナルドが打ち出しているのが『私たちの会社は、労働者が働きたいと思うとき働ける』ということだが、話にならない。実際には人材プールを作っておいて必要なときだけ選択的に呼ぶ。マネージャーに気に入ってもらわないと、1週間に2〜3時間しかないこともある」

- 労働契約書に勤務時間を明記するようになっていないか?

 「それを空白のままにして置く場合が多い。違法だ。また、店舗ごとにレイバー・コントロール(labor control)とし、対売上高人件費比率を予め決めておく。売上高が低下すると人件費も落とさなければならない。だからお昼や夕食の時は混むのだが、午後3〜4時頃にはお客さんがいないから、途中でアルバを帰らせる。その分の時給を減らすために。 「倒し」といって、超過労働手当を支払わないために勤務スケジュールを捏造する場合もある。たとえば、昨日10時間、今日4時間働いたなら、昨日8時間、今日6時間したことにして」

 1993年の社会学者ジョージ・リッツァが指摘したマクドナル化(McDonaldization)は、グローバル化時代の経営パラダイムだ。効率性と測定可能性、予測可能性、そして雇用統制を特徴とする。規格化された製造工程と販売戦略、一律的な味と価格、しかし、人間は規格化できる存在ではない。 2013年5月、国際食品労働者組合(IUF)の26カ国の代表は、マクドナルドの低賃金と労働組合弾圧に反対し、マンハッタンのマクドナルドの店舗の前でデモを行った。昨年11月に、アルバ労組のイ・ガヒョン組合員も韓国マクドナルドの不当な労働慣行を暴露して解雇されたが、マクドナルドは、適法な手続きによるものであったとアルバ労組の主張を否定している。

‐「最低賃金1万ウォン」というスローガンを最初に掲げたのがアルバ労組だ。これが現実的に可能なのか?零細自営業者の反発もありそうだが。

 「労働者自ら時給1万ウォンが過剰だと思うことが最大の障壁だ。ところが、時給が実際に生活できるレベルになると、赤字に苦しみながら無理やり自営業をする理由がないじゃないか?もはやアルバは一つの職業だ。これが現実だ。アルバを何か異常な状態、抜け出さなければあらゆるものとみなすのは、明らかな現実否定だ。アルバしながら生活できる基盤が確保されなければならない。そうすれば大韓民国の労働生産性も高くなる。

 2015年の最低賃金5580ウォンは前年度に比べて370ウォン引き上げられた。現在、韓国の最低賃金額は、OECD国家のうち上位のオーストラリア、ルクセンブルクなどの3分の1にも満たない。一人当たGNPが韓国(2万5977ドル)よりも少ないスロベニア(2万3289ドル)の最低時給6.0ドルよりも低い。

‐最後に、この記事を読んでいる読者に呼びかけたいことがあるか?

 「アルバ労働者に対して『無責任だ、出たい時に出てきて、店のことなんてどうでもいいと思っている』と言う社長が多い。実際にそのようなアルバもいる。バイトも人だから悪い人もいる。しかし、その裏面を見てみると、世の中がアルバの労働者をそんなふうに扱うから、アルバ労働者もそんなふうに出るのだ。アルバは、安価な人間、5580ウォンの人間であるという認識が広まっている。最低賃金の引き上げは、単にアルバの財布をより豊かにするためのものではない。多数のアルバ労働者をこの社会がどのように共同体の一員として受け入れて、同じ人間として接することができるかどうかを検討するきっかけになるだろう。

インタビューを終えてから数日後、アルバ労組がマクドナルドに公開警告状を送ったというニュースが流れた。

聞き手:イ・ジンスン言論学博士、元教授。家事と子育に追われる50代の主婦であり、勉強して文章を書く熱血市民でもある。ソウル大学社会学科とラトガース大学コミュニケーションスクールを卒業した。米国オールドドミニオン大学の助教授としてのインターネットを基盤とした市民運動を講義し、その前には「今なら言える」などのドキュメンタリー作家として様々な人物を取材した。世界の新しい地平を開く「開かれた人々とのお付き合い」を隔週で伝える。

録取:ハム・ギュウォン(世明大学ジャーナリズムスクール大学院)(お問い合わせ japan@hani.co.kr )

韓国語原文入力:2015.02.06 18:59

https://www.hani.co.kr/arti/society/labor/677260.html?_fr=mt2  訳H.J

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