1兆ウォン(約1千億円)はどれくらい大きなお金だろうか? 経済学者のチョン・ウンチャン元首相が、私席でした話が長く記憶に残る。「イエスが生まれて今まで生きていたとして、一日に100万ウォンずつ毎日使っても、まだ使いきれないだろう」。計算してみるとその通りだ。2017年間、一日に100万ウォンずつ使っても7362億ウォン、まだ723年間使えるお金が1兆ウォンだ。
韓国に財産が1兆ウォンを超える人は何人もいない。そのうち唯一目につく人がサムスン電子のイ・ジェヨン副会長だ。財閥ドットコムが昨年末に集計したイ副会長の保有する上場企業株式の価値は6兆7千億ウォンに達する。現代自動車のチョン・モング会長よりも2兆ウォンほど多い。
労働に対する対価を貯めてもそんな巨富を蓄積できる人はいない。もちろん資本主義は“投資”による報賞を正当なものと受け入れる。私たちは企業が創造的破壊を通じて生産性を高め、利益を増やし、その企業に投資した人の保有株式の価値が上がって金持ちになることを肯定する。ところが、イ副会長はそのような事例にも該当しない。
私が知るところによれば、イ副会長が投資が上手くて金を儲けたわけではない。情報技術(IT)産業ブームが起きた時期、e-サムスンに対する投資はみじめな失敗に終わった。イ副会長の財産は父親のイ・ゴンヒ会長から61億ウォンの贈与を受けて16億ウォンの税金を払い、余ったお金でサムスンエバーランドの転換社債を安値で譲り受けたことから増え始めた。これで1兆ウォンを超える金を儲けた。その後、サムソンSDSの新株引受権付社債を安値で譲り受けて、再び大金を儲けた。
他の株主のお金を横取りしたのと同じだが、法秩序は無力だった。イ副会長は何の制裁も受けなかったし、彼の手に入った株式(お金)は合法的なものになった。単にサムソンSDSの新株引受権付社債の件でサムスンのイ・ゴンヒ会長が背任と租税脱漏容疑で有罪宣告を受けただけだ。それすらも刑の執行は猶予された。
イ副会長が最近拘束された。サムスンの経営権継承に対する国家の支援を受ける対価としてわいろを渡した疑惑だ。サムスン物産と第一毛織の合併過程で、イ副会長のサムスン支配権を強化できるように、第一毛織に有利な合併比率を定め、国民年金の賛成で合併を成功させたところで事故が生じた。
裁判所がどんな判決を下すかは分からない。しかし、国民の胸の中ではイ副会長はすでに有罪だ。勤勉な労働、誠実な自己啓発、禁欲で資本を形成して創造的破壊を作る投資で報賞を受けることとは、あまりに距離が遠い富の蓄積にこの国の人々はうんざりした。イ副会長が無罪ならば、この体制は悪辣で醜悪だ。
しかし、イ副会長が有罪判決を受けたからと言って、世の中がすぐに大きく変わるとは期待できない。お金は一定規模を超えれば権力になる。財産よりも巨大財閥グループに対する支配権の方がさらに大きな権力だ。イ副会長が率いるサムスンは、この国の権力側を思うままにできるだけの力を持っている。イ副会長に対する拘束令状実質審査に前後して、韓国の多くのマスコミがイ副会長の肩を持つ社説とコラムを吐き出した。今後、裁判が公正になされるという確信は私にもない。
イ副会長とサムスンが自ら大きく変わることを私は期待する。変化を拒否したとしても長くは持ちこたえられないだろう。この国に希望をなくした人々が、これ以上は我慢していないためだ。先週、江原道太白(テベク)に行って、久しぶりに夜空を見て驚いた。まだ星が浮かんでいるんだ!そうだ。街の灯で遮られているだけで、星はいつも空に浮かんでいる。周囲が暗いほど、星はさらに多く浮かぶ。