韓国だけでなく世界中を襲うファシズム的徴候は、新しい現象ではない。20世紀初めの「自由」市場資本主義の失敗は、報復的な関税の高い障壁を築く近隣窮乏化政策で大恐慌を悪化させ、最終的にナチズムと第2次世界大戦を招いた。痛ましい過去を繰り返さないために戦後、ブレトン・ウッズ体制の確立を通じて市場から社会を保護する「根を下ろした」自由主義が導入されたが、米国の利益のためにこれを放棄したニクソンに続き、レーガンとサッチャーが登場したことで、世界は再び新「自由」主義化した。ナチスのスローガンを叫ぶ米国の極右が支持するトランピズムは、症状に過ぎない。制御されていない経済的自由はファシズムと戦争をはらむ。時と場所を選ばず「自由」を叫んでいた尹大統領が内乱を引き起こしたのは、ある意味で当然のなりゆきだった。
米国の極右勢力の浮上を扱ったドイツ公共放送のドキュメンタリーは、トランプの当選を、共和党内の過激派が数十年間にわたって極右勢力を結集してきた結果とみなしている。そのはじまりは、1995年に下院議長となったニュート・ギングリッチ議員だった。私はこの議員のことを、未婚の母が福祉の恩恵を受けるのを一生禁止し、その金で孤児院を建て、彼女たちから子どもを奪って州政府が育てるようにしよう、という奇怪な提案をした政治家として記憶している。彼は民主党を腐敗した共産党だとして攻撃し、いかなる交渉も拒否して悪魔化した。当時は共和党でさえそのような彼を批判したが、そのような政治が一部の有権者の支持を得たことで、米国の政治的右派は急速に急進主義化しはじめた。
過激化した共和党がけん引した米国の極右市民社会は、幅広く深い。聖書の絶対的権威を信じる宗教的右派が新自由主義以降に生まれた多くの失業者を吸収しつつ、市場原理主義者と連合したのが、極右勢力の起源だ。連邦最高裁を極端に右傾化した連邦主義法律家協会、白人男性かつキリスト教徒の社会的地位の破壊で存在論的危機を感じ、トランピズムの歩兵部隊となったティーパーティー運動家、このような極右運動勢力と保守系のシンクタンクに莫大な資金を寄付するグローバルエネルギー企業コーク・インダストリーズのような自由至上主義の億万長者、常習的にうそを言うトランプに正当性を与えたFOXニュース、これらすべての力が結集してトランピズムは完成した。
韓国社会にもギングリッチよりひどい政治家がいるし、過激な宗教的、政治的信念の力で集められた資金がかなりあるだけでなく、FOXニュースをしのぐメディアも存在する。尹錫悦(ユン・ソクヨル)を輩出した与党「国民の力」は、これを信じていまだに弾劾に反対し、憲法裁判所を揺さぶっているのか。極右勢力に支えられてトランプを再び当選させた米国の共和党のようになれると「国民の力」が考えているとしたら、大きな勘違いだ。新自由主義の成熟によってファシズム勢力の拡大を同じように経験してはいるが、欧州ではなく米国のみで極右が政治の中心に立てたのは、欧州のようにファシズムを直に経験していないからだ。韓国は、欧州が経験した残忍な国家暴力の過去を共有している。極右勢力がどれほどうごめこうと、戒厳令があふれていた残酷な現代史を踏み越えて、彼らが再び主流になることはできない。
死者は生きている者を助けられるだろうか。過去は現在を救えるだろうか。心に響いた作家ハン・ガンさんの問いを通じて、私たちを救った過去が果たして現在をどのように変えるべきかを考えてみる。真の救いは変化する時にのみ得られる。ヒトラーとムッソリーニは大統領ではなく首相だった。改憲ばかりを叫んだからといって、ファシズム的な徴候、それを発生させた歪曲された経済構造と極端な不平等、次第に強まる保護貿易主義、終わりの見えない景気低迷が消え去るわけではない。罪がなければ受け入れられるはずの特検の拒否は、罪がありそうだという疑いと政権交代の熱望を強めるだけだ。内乱後の選挙では、全世界を揺るがす根源的な構造的問題に最もましな答えを提示する政治勢力が選ばれるだろう。変化の方向性を提示する能力がないせいか、破局に向かって走り続ける尹錫悦輩出政党を見ていると、警告を無視して太陽に向かって飛んでいった神話の中のイカロスを思い出す。蜜ろうがすさまじい勢いで溶け、翼が燃えている。
イ・ジュヒ|梨花女子大学社会学科教授 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )