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「ノ・サンウォン手帳」の地獄絵図を望むのか【コラム】

登録:2025-02-17 08:20 修正:2025-02-17 09:36
パク・ヨンヒョン|論説委員
尹錫悦大統領が13日、ソウル鍾路区の憲法裁判所で行われた弾劾審判第8回弁論に出席している=写真共同取材団//ハンギョレ新聞社

 鋭い刀を抜いて大通りで市民を脅すヤクザがいるとしよう。警察がまずすべきことは何か? 刀を奪うことだ。負傷した人がいないからといって「何も起きていないのだから放っておけ」とか、「手続きに則ってまず押収令状の発行を受けてから刀を奪え」と主張したら、おかしな人間扱いされるだろう。このような現行犯も、刑事処罰を科すまでには長い裁判手続きを経なければならない。しかしまずはその手から刀を奪うことで市民の安全は守れる。

 12・3内乱は、大統領尹錫悦(ユン・ソクヨル)が大統領の権限を凶器のように振り回したものだ。国軍の統帥権と戒厳宣布権という大統領の権限を、まるでヤクザの手に握られた刀のように乱用した。国民を守るために存在する軍を利用し、国民を恐怖に陥れた。

 尹錫悦の内乱勢力が握っている凶器がどれほど危険なのかを、「ノ・サンウォン手帳」はまざまざと見せてくれた。「汝矣島(ヨイド)30~50人」、「報道機関100~200人」、「御用判事」など、500人あまりを1次対象にした「回収計画」は、10次まで言及されている。回収された人たちを「兵舎内の寝室爆発物使用」、「飲食物、給水、化学薬品」、船舶に乗せて「適正な場所で爆破」など、集団で殺害する方法も記されている。ノ・サンウォン氏(元情報司令官)一人の考えではないということの方が恐ろしい。彼は警察の取り調べで「キム・ヨンヒョン前国防部長官が言う通りに書き取った」と供述している。キム前長官は戒厳前に22回もノ氏を公館に招き入れていた。ノ氏は戒厳時、情報司令部に「射撃と爆破のうまい要員を推薦せよ」と指示していたことも明らかになっている。戒厳が成功していたなら、私たちの目の前にあの恐ろしい地獄絵図が広がっていた可能性が高い。加えて、野党と批判勢力の除去後は3選改憲を実行したうえ、後継者を立てる計画まであったのだから、地獄絵図は数十年間も続く可能性があった。

 これでも、尹錫悦に「大統領権限」という刀を再び握らせられるだろうか。弾劾は尹錫悦を大統領職から罷免することで、まずその手に握られた凶器を奪う手続きだ。刑事処罰に向けた裁判とは別の手続きだ。尹錫悦を死刑に処すか無期懲役に処すかを判断する刑事裁判は、十分な時間をとって裁判をおこなってもよい。しかし弾劾審判は、尹錫悦を大統領職に今後も据えておくことが正しいのかを判断するものに過ぎない。ところが尹錫悦と与党「国民の力」、一部の保守メディアは、弾劾審判を刑事裁判と混同し、憲法裁を傷つけている。証人や証拠の採用、尋問の方式などに刑事裁判と同様、刑事訴訟法をそのまま適用すべきだと無理を言っている。そのようなことをすると、弾劾審判は限りなく長引かざるを得ない。彼らの主張は、例えるなら、ヤクザの手に握られた刀を奪うために押収令状を取って来いと言っているようなものだ。

 弾劾審判のこのような性格は、外国の弾劾制度を見ればより明確になる。米国の弾劾制度は、司法府の裁判手続きとはまったく異なる。下院が在籍議員の過半数の賛成で弾劾訴追し、上院が3分の2以上の賛成で罷免を決定する。フランスでも上下両院の議員全員が「最高裁判所」を構成し、3分の2以上の賛成で大統領を罷免する。韓国の憲法裁と類似する連邦最高裁判 所(米国)や憲法院(フランス)でさえ、大統領の弾劾には関与しない。「弾劾は司法府のけん制を受けない特有の政治的過程」(米国議会による憲法の注釈)だからだ。

 韓国憲法が弾劾審判を裁判所ではなく憲法裁判所に任せているのも、似たような脈絡によるものだ。弾劾審判は三審制となっている裁判所の裁判とは異なり、単審制だ。迅速に決定を下すためだ。また弾劾審判は、憲法裁判所法に則って8人の裁判官の合意により決定が下される。尹錫悦大統領が選択したチョン・ヒョンシク裁判官、国民の力が推薦したチョ・ハンチャン裁判官も同意する方式で裁判は行われている。このような憲法裁の裁判の手続き的正当性を否定することは、もう一つの憲政否定だ。朴槿恵(パク・クネ)の弾劾審判では17回の弁論が行われたが、尹錫悦は10回に過ぎないため拙速だ、との主張も根拠がない。朴槿恵の弾劾審判はミル・Kスポーツ財団、チェ・スンシルの関連会社の得ていた特恵、セウォル号惨事での救助義務違反、言論弾圧、私人に国政を任せた行為など、数多くの弾劾事由を問わなければならなかった。一方、尹錫悦の弾劾事由は非常に明白で単純だ。憲法上の要件を満たしていない非常戒厳宣布だけでも弾劾事由としては十分だ。兵士が国会に乱入する場面は、全国民が目撃している。

 このような事情にもかかわらず、憲法裁を非難する主張がメディア各社の社説や現職検事の口からも飛び出している。嘆かわしい。そのように主張するなら、まず答えるべきだ。あなたたちは、尹錫悦に再び刀を握らせようというのか。ノ・サンウォン手帳の中の地獄絵図が現実において繰り広げられることを本当に望むのか。

//ハンギョレ新聞社

パク・ヨンヒョン|論説委員 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1182695.html韓国語原文入力:2025-02-16 16:02
訳D.K

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