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[寄稿] 安保法制と戦後日本の総括

登録:2015-06-22 06:06 修正:2015-06-22 06:35

 安倍政権が目指す安全保障政策の転換は、日本の戦後の歩みをどう評価するかという問いと密接に関連する。70周年の敗戦の日に向かって、我々は戦後史の意味と、日本の国家路線とを合わせて考える必要がある。

 安倍首相は、5月の訪米の際、議会で演説し、米国の政治家や国民に向かって、戦後日本の民主政治の安定と繁栄を誇り、それは米国と価値観を共有し、協力してきたから可能になったと述べた。彼の指摘は正しい。日本は、事実上米国が原案を作った憲法の下で、民主主義と繁栄を実現した。この筋書きは、ポスダム宣言で示された日本再建の路線そのものである。党首討論で、安倍は志位和夫共産党委員長の質問に答え、ポツダム宣言を審らかに読んでいないと言った。読んでいないのは勉強不足だが、自分が米国で誇らしげに語った戦後日本の歩みがポツダム宣言に由来することくらいは認識しておくべきである。

 安倍はかつて、現行憲法を「みっともない」と呼び、憲法改正こそ自らの使命という信念を持っている。彼が自己の確信に忠実であるなら、米国で憲法を押し付けられたことに抗議し、いち早く自主憲法を作ると宣言すべきである。しかし、彼にはそのような度胸はない。米国に向かっては戦後の民主体制を作ってくれたことに感謝し、日本に帰ったら憲法改正を唱える。まさに安倍は不誠実この上ない政治家である。安倍における分裂症こそ、白井聡氏の言う永続敗戦体制の本質である。

 集団的自衛権の行使容認に対して、日本が他国の戦争に巻き込まれる恐れがあるという批判がある。これについて、安倍は5月14日の記者会見の中で、過去の安保条約をめぐる論争を振り返り、巻き込まれるという批判が的外れであることは、歴史が証明していると言った。この点でも彼は戦後史を正確に理解できていない。

 彼が尊敬する祖父、岸信介が日米安保条約の改定ののち、宿願であった憲法改正と国軍設置にまで成功していたら、日本は1960年代末から、韓国と同じようにベトナム戦争に米軍とともに参加する羽目に陥っていたに違いない。日本が戦争に行かなくて済んだのは、1960年の安保闘争で市民が岸信介首相を退陣に追い込み、戦後憲法体制を守ったからである。60年の市民の運動は、それ以後の自民党政権にも大きな教訓をもたらした。自民党も国民もイデオロギー闘争ではなく、現行憲法が保障する民主政治と市場経済の体制の中で、経済発展に専心することで、繁栄は実現できたのである。

 昨年7月に、安倍政権が憲法9条の解釈を変更し、集団的自衛権の行使を可能にした時、首相は日本人の生命、安全を守るために必要な限りで、武力行使を行うと説明した。しかし、今回の安全保障法制では、話がすり替えられ、「平和」を作り出す作業について日本も一端を担うことが武力行使の目的とされている。安倍政権は積極的平和主義というスローガンの下、後方支援、つまり兵站を通して米国等の友好国が繰り広げる平和の敵を成敗する戦いに参加し、地球上のどこへでも出かけると意気込んでいる。しかし、歴史を振り返ればベトナム戦争からイラク戦争に至るまで、米国が平和のためと称して始めた戦争は大義のない武力行使であった例がある。だから、米国と一蓮托生で武力行使をすることは、日本自身の安全とは無関係である。

 結局、安倍首相の頭の中では、戦後憲法体制を破壊することがそれ自体目的となっている。安全保障法制はそのための手段である。だから、防衛政策の枠組みとしては矛盾に満ちたものなのである。自分の主観的満足を目的とする安倍首相は、矛盾を指摘されても何ら痛痒を感じない。国会審議における安倍首相や閣僚の答弁は、矛盾と不誠実に美知恵いる。あまつさえ、首相は野党の質問者に「早く質問しろ」とヤジを飛ばした。このような状態こそ、日本の立憲民主主義にとっての存立危機事態である。

 安全保障法制をめぐる国会審議は、これからの日本の民主主義の命運を左右する大きな分岐点となる。「戦争は平和だ」というジョージ・オーウェルの言う新語法が定着すれば、今後日本で民主的な討論は成立しなくなる。与党の圧倒的な数的優位の中、法案成立を阻止することは難しい。しかし、結果はともかく、法案審議の過程で政府指導者の思考能力喪失と不誠実さを暴き出すことには意味がある。このような政権を持続することが、日本人の生命と安全に資するかどうか、国民に真剣に考えさせることこそ、野党とメディアそして言論人の責務である。今のところ、野党とメディアにおける知識人の奮闘で、国民の関心も高まっている。政府与党が描いた法案成立のシナリオは崩れている。

山口二郎・法政大学法学科教授(お問い合わせ japan@hani.co.kr )

韓国語原文入力:2015-06-21 21:00

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/696847.html

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