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被爆15カ月後に白い斑点が…福島で見捨てられた牛を世話する「希望の牧場」

登録:2016-03-07 21:21 修正:2016-03-08 07:56
「畜産経営40年、こんなことは初めて」
吉沢正巳「希望の牧場・ふくしま」代表が世話している牛を見回っている。福島原発事故が起きた直後、彼があきらめれば飢え死にしたり殺処分にされる牛を世話することを決心し、これまで5年間募金活動等を通して農場を運営してきた //ハンギョレ新聞社

「捨てて避難しろ」 「殺処分しろ」
日本政府の指示を拒否して「瀕死の牛」見守る
同年7月から全国募金で運営

政府からは「原因不明」誠意なき返事
もう5年、運営を計画…「その時には自然死」

 「あの牛を見てください。全身が白い斑点に覆われているでしょ」

 先月25日、福島県浪江町。 福島原発の事故で見捨てられた牛を集めて5年にわたり世話をしている「希望の牧場・ふくしま」の吉沢正巳代表(62)が遠くにいる一頭を指さした。 10頭あまりが大小集まった群れの中で、全身が白い斑点で覆われた1頭が目を引き付けた。 吉沢氏は「今は冬なので毛足が長くてよく見えないが、夏になれば斑点の形がもっとはっきり出てくる。 畜産に40年携わってきたが、こんな斑点は初めて」と話した。 吉沢氏は被爆した牛のからだにできるこの白い斑点に「福島症候群」という名前を付けた。

おかしな斑点の牛…福島県浪江町にある「希望の牧場」の牛330頭のうち20頭の皮膚には原因不明の白い斑点ができている。 住民たちは原発事故以後の放射能被爆の影響だろうと推定している //ハンギョレ新聞社

 吉沢氏が「見捨てられ死んでいく牛を放ってはおけない」という気持ちで始めた「希望の牧場」プロジェクトはすでに5年目になる。 5年間にこの牧場は福島原発事故の悲劇を象徴する空間として、日本はもちろん全世界に名前を知られるようになった。

 福島原発事故が起きた時、吉沢代表は楢葉牧場を経営する畜産法人に所属する現場責任者だった。 牧場の後方に立って原発がある東の方角に視線を転じれば、今も福島第1原発の排気口と煙突が目に入ってくる。 彼は原発から14キロメートル程離れた牧場で、原発が水素爆発を起こす光景や、その後放射能物質を含んだ白い煙が周辺に飛散する光景を目撃した。 今でも牧場の一部地域では3~4マイクロシーベルト時(日本政府の居住制限地域基準は3.8マイクロシーベルト時)。放射線の強いところでは人が生きていけない5~7マイクロシーベルト時程度の空間放射線が測定されている。

 原発事故で村全体が放射能に汚染され、近所の畜産農家は牛を放って一斉に避難し始めた。 しかし、吉沢氏は無残に死んでいく牛を見捨てて立ち去ることはできなかった。 もしやと思って見て回った周辺の牧場で、牛たちはげっそりやせて泣いていたり、すでに死んでいた。 吉沢代表が勤めていた畜産法人は「取引先が契約を取り消してきた。 牛を置いて避難しろ」と指示したが、彼は「たとえ私一人になってもこの生命を見捨てはしない」という決心を固めることになる。

吉沢正巳代表は「原発一揆」という字句が書かれたトラックに乗って、日本全国で反原発活動をしている //ハンギョレ新聞社

 それから吉沢氏の長い闘争が始まった。 日本政府は事故が起きて1カ月が過ぎた4月、牧場が含まれる地域一帯を警戒区域に指定して人の出入りを禁止し、5月には残った家畜を全て殺処分しろと指示した。 吉沢代表はこのような政府の施策を正面から拒否し、7月から「希望の牧場」プロジェクトを始めた。 牧場は日本全国から送られてくる募金で運営された。

 先月25日、ハンギョレが訪問した牧場では、宮城県白石市から送られてきた豆かす、青森県から送られてきたリンゴジュースを絞ったカスなどが積まれていた。 吉沢氏は「この牛には国家に対する抵抗の意味が込められている。 ここは国家の指示に従わない治外法権地域」と話した。

 5年に及ぶ被爆は牛にどんな影響を及ぼしたのだろうか。 低線量放射能は生命体に対して長時間にわたり複合的な影響を及ぼすので、それによってどんな問題が発生するかを科学的に糾明することは容易ではない。 まず目につくのは、2012年夏頃から確認され始めた白い斑点だ。 現在このような症状を見せるのは330頭の牛のうち20頭だ。

 この斑点を確認した吉沢氏は日本政府に対して因果関係に関する調査を要求した。 日本の国立動物衛生研究所は牛の血液、尿、斑点が出た皮膚組織を回収し検査したが、「原因不明」という誠意のない回答を送ってきた。 吉沢氏は「政府は被爆が牛にどんな影響を及ぼしているか徹底的に調査しなければならないのに、そんな気持ちはないように見える」と話した。

 日本政府の誠意のない態度は人間に対しても同様だ。 原発事故が人間の健康にどんな影響を及ぼすかを調査している福島県健康調査検討委員会は、事故以後の5年間に県内の18歳以下の子供と青少年166人に甲状腺癌またはその疑いを持つ症状が発見されたのに「このような変化が放射線の影響だとは見難い」という見解を固守している。

 もちろん一部の専門家たちの見解は違う。 日本全国の19歳以下の児童・青少年に甲状腺癌が発見される割合は100万人に3人に過ぎない。 しかし福島では38万人に166人が発見されたので、その発病率は日本の平均に比べて数十倍に達するということだ。 岡山大学の津田敏秀教授の研究チームは、福島県の未成年者の甲状腺癌発病原因のうち相当部分は被爆のためであり、一部地域では発病率が日本平均の50倍に達しているという内容の論文を発表した。 だが、政府や福島県の公式見解は変わっていない。

 吉沢氏は今後5年程度はさらに農場を運営する計画だ。 15年ほどの牛の寿命を考えれば、今後5年ほど経てば牛がほとんど死亡すると見ているためだ。 彼は福島原発事故を体験しても、原発を再稼働してこれを外国に輸出までしようとしている日本政府に対する怒りを抑えられなかった。 「これら全部が原子力発電所のせいです。 私は原発が安全だという話は絶対に信じられません。 このような悲劇が起きていながら安倍晋三政権は原発を再稼働していて、日本政府は経済のためという理由で原発を世界に輸出しようとしています。 止めさせなければなりません」

 脱原発メッセージを日本全国に伝えるために、彼が全国を駆け巡るトラックには、意味深長な字句が書かれている。「原発一揆!」

 韓国でも日本でも原発再稼働を阻むために必要なことは、覚醒された市民の大規模蜂起なのかもしれない。

浪江町(福島県)/キル・ユンヒョン特派員 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/international/japan/733562.html 韓国語原文入力:2016-03-07 00:59
訳J.S(2864字)

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