ソウル市九老区(クログ)開峰洞(ケボンドン)で7年間焼肉屋を営むKさん(45)は、この頃深いため息をついている。来年最低賃金が大幅に上がる。彼は「厨房とサービングに職員6人とアルバイト3人を使っているが、来年から毎月の人件費だけで200万ウォン(約20万円)程度支出が増えることになった。周辺の食堂との競争のために食事代を値上げすればお客が減ることは明らかだ。まったく答が見えない」と訴えた。
来年の最低賃金16.4%引き上げ(最低時給7530ウォン=約750円)は、キム氏のように従業員を置く自営業者にとって影響が大きい。23日、統計庁の資料によれば、「営利目的の個人事業者」を意味する自営業者数は、昨年基準557万人で就業者全体の21.2%を占める。このうち「従業員のいない自営業者」を意味する「一人社長」が401万人で、彼らは最低賃金の引き上げにともなう直接的な衝撃を受けない。一方、「従業員のいる自営業者」である156万人は直ちに打撃を受ける。こうした自営業者は、ほとんどが飲食・宿泊業、卸小売業など競争が深刻な業種に集中しており、人件費が増加すれば相殺できる余地がほとんどない。特別な技術や資本を必要とせず、低熟練・低賃金労働に依存するので生産性を高めて売上や利益を増やすということは彼らにとっては虚しい言葉だ。結局、自ら事業をたたんだり職員数を減らすしかない。最低賃金引き上げの否定的波及効果は、従業員がいる零細自営業に集中的に及ぶ公算が高いと言える。
政府もこうした状況に備えて、人件費負担増加の一定部分である9%(過去の最低賃金平均引き上げ率7.4%超過分)を財政で補てんすると明らかにしたが、その効果には疑問点が残る。イ・ヨンミョン東国大学教授(経営学)は「零細自営業者が職員1人当り1カ月に10万ウォン程度を支援されても、種々の手続き的煩わしさを甘受するだろうか?財政健全性を考慮すれば、政府の賃金補てんは持続性がなく望ましくもない」と指摘した。
仮に政府の賃金補てん対策が成功を収めても問題は残る。政府は賃金補てんの他に追加対策を出した。小商工人振興基金をはじめとする政策資金支援規模の拡大と税制支援延長、各種公的負担金免除期間延長が主な内容だ。しかし、精密な実態も需要も把握せずに、デパート式に支援策を乱発することに対する憂慮の声が高い。ややもすれば自営業の構造調整を遅延させ、韓国経済の体質をさらに悪化させる可能性が大きいためだ。労働研究院のペ・ギュシク先任研究員は「過去10年余りの雇用構造変化推移を分析してみれば、自営業の比重は緩やかに減る一方で、賃金勤労者の比重が少しずつ増える傾向なのに、政府の今回の支援対策により自営業進出誘引が大きくなりかねない」として「最低賃金支払能力がない限界自営業従事者に対しては、別の雇用政策や社会的セーフティネットの強化に解決方法を求めなければならない」と話した。
経済規模と産業構造に照らして、韓国自営業の雇用比重は相当に過度な水準だ。自営業者に無給家族従事者まで含めた雇用比重は、2015年基準で25.9%であり、経済協力開発機構(OECD)加盟国平均の14.1%よりはるかに高い。その上、ほとんどが生計型自営業だ。構造調整や定年で退職したり、就職先を見つけられずにやむを得ず自営業に飛び込んだケースが大部分だ。その結果、失敗のリスクも高い。統計庁の「企業生命行政統計」によれば、自営業の3年平均生存率は30%水準だ。自営業に飛び込んだ10人のうち7人が3年以内につぶれるという話だ。
すでに飽和状態に至った市場で、過当競争のために廃業する店が続出する一方、ベビーブーム世代の退職などで新しい人々が自営業市場に大量に追い込まれている。国税庁国税統計早期報告によれば、昨年廃業した自営業者が84万人で、新たに創業した自営業者は110万だ。自営業過飽和問題がさらに深刻化したわけだ。こうした奇形的な雇用構造で、最低賃金の引き上げは「低賃金労働者」と「低所得自営業者」間の軋轢を煽る。文在寅(ムン・ジェイン)大統領の公約どおり、2020年までに段階的に時間当り最低賃金1万ウォン(約1000円)の目標を達成しても、自営業過飽和問題を解消しなければ人間らしい暮らしのために「最小限の賃金は受け取らなければならない労働者」を「最小限の生計費さえ稼げない自営業者」に委ねる格好になる。
中小企業研究院のキム・ジュンギ研究員は「最低賃金の引き上げは、予備創業者の自営業進入を抑制する効果もある。これを契機に雇用問題を生計型自営業創業で解決してきた悪循環を断ち切らなければならない」として「代わりに既存の自営業者に対しては短期支援策と共に、より根本的な競争力強化と構造調整方案も用意して推進すること」を強調した。