韓国では、李在明大統領が誕生し、ようやく政治の混乱に終止符が打たれたように見える。世界が多難な今、日韓の連携の必要性は今までになく高まっている。李氏は、日本の一部メディアでは「反日」強硬派と喧伝されていた。しかし、大統領就任後は実務外交を標榜している。日本のメディアは、隣国の政治家について親日、反日などというレッテル貼りをやめて、先入観なしに付き合うことが求められる。
さて、日本では6月22日に東京都議会選挙が行われ、7月20日には参議院選挙が行われる予定である。今は、政治の季節ということになる。都議会選挙では、石破茂政権を支える自民党、公明党が議席を減らし、政権与党はショックを受けている。物価高が続くにもかかわらず、石破首相はそのまじめさゆえに消費税減税を否定し、国民の生活苦に対して冷淡というイメージが広がっている。また、自民党の都議会議員の中にも裏金をためていた者がいたことが発覚し、政治腐敗に対する怒りも続いている。
失敗した政府に対して国民が罰を与えることは、民主主義における選挙の意義である。ただし、都議会選挙に表れた罰し方を見ると、大きな懸念を感じる。敗北した自民党に代わって議席を伸ばしたのは、小池百合子都知事が作った都民ファーストという地域政党と、国民民主党、参政党である。東京都は潤沢な税収を使って保育や教育などについて手厚い政策を展開しているので、都民ファーストが支持を得るのは当然である。問題は、国民民主党と参政党が支持を集めた理由である。
実は今、日本でも排外主義の議論が広がっている。労働力不足を補う形で定住外国人は増加し、流通業、建設業、農業などで不可欠な労働力となっている。また、日本を訪れる外国人旅行者も急増し、場所によっては地元の人々と摩擦をおこしている。参政党は外国人排斥を唱える右派政党であり、3年前の参議院選挙から国政に進出した。国民民主党はもともと民間企業の労働組合を支持基盤とする政党だが、同党の玉木雄一郎代表は最近、税金を日本人のために使うと言い始めた。そして、これらの政党を支持する議論がSNSにあふれている。
これらのスローガンは、事実誤認、あるいは意図的なデマに依拠している点で、罪深い。人口当たりの犯罪件数について、日本人と外国人で違いはない。社会政策において外国人を優遇するものなどない。日本で働いている外国人も税金を払っている。むしろ、日本は難民認定をほとんど行わず、在留資格を失い出入国在留管理局に収容された外国人が必要な医療を受けられず死亡した事件も起きた。日本はもともと外国人に対して冷たい国である。
今なぜ一部の政治家が人気取りのために外国人排斥を唱えるのか。日本では製造業の衰退、雇用の規制緩和の結果、低賃金労働が増え、格差や貧困が拡大している。本来、政府は再分配を行って、こうした問題を解決しなければならないはずである。しかし、大企業や富裕層の抵抗を乗り越えてそうした政策を取ることは、容易ではない。一部の政治家は、世の中の問題の元凶となる「敵」を設定し、それを叩くことによって人々の支持を集めるという安易な方法を取る。外国人は政治参加の権利も持っていないので、最も敵にしたてやすい。
トランプ大統領が「アメリカ・ファースト」を唱えて以来、他の国でも自国民ファーストを唱える政治家が現れている。アメリカ人も日本人も、他の国でも、国民は一枚岩ではない。国内には様々な利害対立と格差がある。勇気ある政治家は、どのような境遇の人々のための政策を優先するのか明らかにして、国民を説得しなければならない。「○○ファースト」は、国民が一体であるかのような幻想を広げ、具体的な政策実施を怠ることを正当化する、有害なスローガンである。7月の参議院選挙に向けて、人間の尊厳を守るための政策論議を進めなければならない。
山口二郎|法政大学法学科教授(お問い合わせ japan@hani.co.kr)