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石破首相の「提灯」と「国益」【コラム】

登録:2025-06-30 08:10 修正:2025-06-30 10:08
オランダのハーグで25日に開かれた北大西洋条約機構(NATO)首脳会議に参加した米国のドナルド・トランプ大統領、英国のキア・スターマー首相、ドイツのフリードリヒ・メルツ首相ら加盟国首脳と代表が本会議に先立ち記念写真を撮っている/AP・聯合ニュース

 「昨年の7月であったかと思います。大統領になられる前でしたが、狙撃をされたときに、ひるむことなく立ち上がられ、拳を天に突き上げて、そのときの写真が非常に印象的でありました。そこの背後には星条旗がはためき、青い空が映っていた。あの写真はおそらく、歴史に残る1枚だったと思います。あの写真を見て私は、おそらく大統領閣下(はその)のときに、自分はこうして神様から選ばれたのだと、必ず大統領に当選し再びアメリカを偉大な国に、そして世界を平和に、そのように確信されたに違いないと思ったのでありました」

 2月7日(現地時間)午前11時55分。米国ホワイトハウスの大統領執務室で、ドナルド・トランプ大統領に相当な「提灯持ちコメント」(おだてあげる誉め言葉)を口にした日本の石破茂首相を見て、複雑な感情が交錯した。韓国メディアでも、「提灯」を日本式の発音のまま読む「チョウチン」という隠語をよく使う。召使いが暗い夜道を先に歩き、明かりで主人の前の道を照らすように、誰かの機嫌を取ったり、お世辞を言ったりする、あるいは、そのような記事を書くという意味で用いられる。

 恥ずかしくなるような接待の言葉を口にした石破首相が、そもそもどんな人物だったかを思い返してみる。安倍晋三元首相が絶対権力を確立した2010年代の日本政界において、一匹狼の孤独な挑戦を厭わなかった反骨の勝負師であり、「集団的自衛権」について単著を出版したことがある、自尊心の強い安全保障の専門家だった。そのために人間関係がうまくいかない「不器用さ」がむしろ魅力だと呼ばれた、やぼったい孤立無援の将軍だった。おそらく、予測不可能なトランプ大統領との間に円満な関係を形成し、日米関係を安定させることが日本の「国益」だと信じ、気の向かない称賛の言葉を口にしたに違いなかった。朝日新聞はこの光景について「首相の表情は一貫して硬く、普段よりもゆっくりとしゃべっていた」と描写した。

 もちろん、1期目のトランプ大統領と蜜月関係を構築した安倍元首相をはじめ、24~25日の北大西洋条約機構(NATO)首脳会議を無事に終えたマルク・ルッテ事務総長まで、「トランプ大統領のご機嫌取り」は全員がある程度は甘受しなければならない、一種の国際的な通過儀礼となった。北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長でさえも、北朝鮮・米国間の対話がなされた2018~2019年には、様々な甘い言葉でトランプ大統領の歓心を買おうと必死の努力をした。

 では、そのような試みは成功したのだろうか。石破首相は対等な日米関係を作るという長年の「持論」を曲げて米国にひれ伏したが、これまでのところ何を得たのかははっきりしない。まずは貿易だ。日本は「トランプ関税」問題を解決するために、赤沢亮正経済再生相を交渉代表として派遣し、29日までの間に米国と7回にわたって踏み込んだ閣僚級交渉を行った。特に16日の日米首脳会談では、中心的な争点である自動車の「品目関税」(25%)について目に見える成果を期待したが、そのようなことはなかった。石破首相は会談後、「わが国にとって、例えば自動車は本当に大きな国益だ」と悲鳴を上げざるをえなかった。

 安全保障も同じだ。日本メディアは22日、「米国が日本に防衛費(国防予算)を国内総生産(GDP)の3.5%まで上げるよう、具体的な数値目標を非公式に提示」し、日本政府は7月1日に予定されていた外務・防衛担当閣僚会合(2プラス2会議)を延期したと報じた。ウィ・ソンラク国家安保室長は4日後の26日、「米国が(国防予算5%の公約を引き出した)NATOと同様に、様々な同盟国に似たような注文を出している」と述べた。韓国と日本の双方に同じ圧力が加えられている以上、ここでも日本に対する「値引き」はなかったと断定できる。

 金正恩委員長が、トランプ大統領に対する「提灯」には期待とは違って大した効果がないという事実に気づいたのは、「ハノイ・ノーディール」から半年がたった2019年8月のことだった。米国のジャーナリストのボブ・ウッドワード氏が「失望した恋人の手紙」のようだと描写した5日付の親書で、金委員長は「私は明らかに気分を害し、それを閣下に隠したくありません」と書いた。石破首相もやはりこの事実を悟り、3日前には行くと言っていたNATO首脳会議への出席を出発直前(23日)に取りやめたのではないだろうか。

 意外にも「提灯」が通じないトランプ大統領の様子から、大統領が掲げる現実主義の厳しい実態がみえる。米国の利益だけを掲げるトランプ時代には、言葉でごまかして守れる国益はない。トランプ大統領は、われわれが考えるよりもはるかに難しい人物だ。トランプ大統領の存在は、われわれにとっての真の国難だ。

//ハンギョレ新聞社

キル・ユンヒョン|論説委員 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1205271.html韓国語原文入力:修正2025-06-29 18:33
訳M.S

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