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李大統領がNATO首脳会議への出席を見送ったのは正しかった【寄稿】

登録:2025-06-30 06:43 修正:2025-06-30 09:16
ムン・ジョンイン|延世大学名誉教授 

常識と道理に基づく極めて合理的な選択だった。外交的慣例はもとより、周辺の強力な出席要請を退け、出席見送りの決定を下した外交的勇断が目を引く。日本、オーストラリアの指導者も李大統領の決断に賛同したのではないか。これは米国に与える含意も大きいだろう。
李在明大統領が19日、ソウル龍山の大統領室で国務会議を開いている=大統領室写真記者団//ハンギョレ新聞社

 24~25日、オランダのハーグで開催された2025年NATO首脳会議に李在明(イ・ジェミョン)大統領が出席を見送ったことをめぐり、国内外で大きな議論になっている。「国民の力」中心の野党議員たちはこの決定が「外交的惨事」であり「北朝鮮の顔色をうかがう外交」だと批判し、ナ・ギョンウォン議員は「同盟の信頼を傷つけ、外交、安全保障の立地を弱体化させた決定」であり「戦略的連帯の放棄」とまで悪評した。一部保守メディアも「NATO首脳会議不参加、国益損ねる懸念も」などの批判的論調を展開した。

 ワシントンの朝鮮半島専門家たちもこれに加勢した。米国戦略国際問題研究所のシドニー・サイラー上級顧問は、今回の決定が「欧州との防衛協力を拡大しようとする意志が弱まった」ことを示すと分析した。一部の保守派は、韓国が自由民主陣営から離脱し、非同盟国のように行動しようとする兆候だと懸念を示した。ジョージタウン大学のビクター・チャ教授は「NATOが中国牽制を強めようとする時期に、革新(進歩)系の国内勢力が李大統領の訪問を阻んだ可能性がある」という荒唐無稽な分析まで出した。

 このような主張には同意しがたい。第一に、NATO首脳会議は北大西洋防衛のための32の加盟国首脳が一堂に会して主要な懸案を取り上げる会議だ。韓国はNATOと同盟関係を結んでいない。2022年のマドリード首脳会議にインド太平洋4カ国(韓国、日本、オーストラリア、ニュージーランド)首脳が招待されたのも、ロシアのウクライナ侵攻という緊急事態に対応するために急遽行われた措置だった。この4カ国はNATOの議題に何の影響も及ぼさないオブザーバーにすぎない。そのような集まりに、韓国の首脳が脇役として毎年義務的に出席する必要があるのかという疑問がある。新政府の国内事情、イラン事態、そして今回のハーグでの首脳会議の全般的な性格から見て、ウィ・ソンラク安保室長の派遣でも差し支えなかっただろう。

 第二に、名目の面でも李在明大統領の出席を正当化するのは難しかっただろう。NATOは基本的にロシアを最大の脅威とし、中国、北朝鮮、イランをその同調勢力とみなしている。また、自由民主陣営の連帯という名目の下、NATOは韓国のようなインド太平洋地域の国との多角的な協力を強化し、ロシア、中国などに対する包囲戦線を構築しようとしてきた。尹錫悦(ユン・ソクヨル)前大統領は価値観外交の旗印のもと、こうした動きに積極的に同調し、2022年以降3年連続でNATO首脳会議に出席した。ところが、当時野党だった「共に民主党」は尹大統領のこのような決定について「外交的実益はなく、中国、ロシアとの関係悪化の可能性など中国リスクを抱えて帰ってきた」と批判した。価値観外交やNATOとの過度な軍事協力は、北東アジアの新冷戦を刺激し、韓国経済に悪影響を与えかねないという理由からだ。北東アジアでの新冷戦の台頭を至極懸念する民主党の政策路線から見て、今回の不参加決定は十分予測可能だった。

 第三に、李在明政権は国益に基づいた実用外交を掲げている。名目も重要だが、実利があれば、李在明大統領は出席しただろう。だが、今回の首脳会議は「得」よりも「損」が大きいように見える。一部では同盟強化、ひとまず有事の際のNATOの韓国支援、防衛産業協力、原子力、そして首脳外交の機会など様々な利点を挙げているが、これは原則的な希望事項に過ぎない。実際、尹前大統領のNATO首脳会議出席の成績表を振り返ると、韓国の利益になったことはあまりない。そのうえ、今回の首脳会議の主要議題はNATO加盟国の国防費増額問題だ。結局、スペインを除くNATO加盟国は2035年までに国内総生産(GDP)の5%を国防費として支出することをドナルド・トランプ米大統領に約束した。おそらく、李大統領が現場にいたなら、そのような圧力は避けられなかっただろう。さらに、ウクライナへの支援やイランへの糾弾など、他の議題においてもNATOと歩調を合わせざるを得なかっただろう。 これは李在明流の実用外交と相いれない内容だ。

 最後に、もしトランプ大統領との2国間会談が確実だったとすれば、名目や実利とは関係なく、李大統領は出席しただろう。ところが、トランプ大統領は25日、たった1日だけ会議に出席し、オランダを離れるとされていた。トランプ大統領との会談が不透明な状態でハーグを訪れる理由はなかっただろう。万が一、韓米首脳会談が実現しなかった場合、激しい国内政治的非難を避けられないためだ。

 李在明大統領の決定は正しかった。常識と道理に基づく極めて合理的な選択だった。外交的慣例はもとより、周辺からの強い出席要請を退け、出席見送りの決定を下した外交的勇断が目を引く。日本、オーストラリアの指導者も李在明大統領の決断に賛同したのではないか。これは米国に与える含意も大きいだろう。久しぶりにまともな外交ができる大統領が選ばれたと思う。

//ハンギョレ新聞社
ムン・ジョンイン|延世大学名誉教授(お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1205315.html韓国語原文入力: 2025-06-29 18:35
訳H.J

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