本文に移動

[コラム]終戦と平和だけが長期不況を防ぐ

登録:2022-07-05 06:32 修正:2022-07-05 07:27
ウクライナ戦争が続けば、デカップリングがロシアに対する制裁と重なって暴力的に進み、長期不況が訪れるのは火を見るより明らかだ。国際社会は今、夢遊病者のように戦争と長期不況に向かって歩いている。
最近、世界的経済学者の「不況」予測が相次いでいる。左からヌリエル・ルービニ、ポール・クルーグマン、ローレンス・サマーズ/AP・ロイター・聯合ニュース

 昨年初め、ローレンス・サマーズ元米財務長官とノーベル経済学賞を受賞したニューヨーク市立大学のポール・クルーグマン教授は、物価上昇をめぐって論争を繰り広げた。サマーズ氏は、コロナ禍に対処するための金利引き下げと量的緩和に続くジョー・バイデン政権の1兆9千億ドル規模の米国救済計画法などの天文学的な資金供給が、持続的な物価上昇と不況を引き起こすと主張した。一方、クルーグマン氏はコロナ禍の衝撃によるサプライチェーンのボトルネックが主な原因であるため、物価上昇の勢いは一時的であり、不況はそれとは別の問題だと主張した。

 各国の中央銀行が先を争って金利を上げたことで、物価上昇傾向に対する診断はサマーズ氏の判定勝ちとみられるが、最近2人は意見が一致する。不況についてだ。

 サマーズ氏は1日、「ブルームバーグ」とのインタビューで「経済が今後6~9週間以内に低迷に入れば、物価上昇の圧力が弱まるだろう」と見通した。不況が始まれば需要が減り、物価上昇の勢いが衰えるという診断だ。同氏は、米国の景気が低迷すれば、政策立案者たちが引き締めを緩和すると予測した。

 クルーグマンも同日、「ニューヨークタイムズ」のコラムで、「経済が非常に急速に弱くなっていることを示す証拠が多くなったことから、第2四半期には経済が収縮するという予想もできる。物価上昇の勢いも急速に衰えるとみるのが妥当だ」と述べた。同氏は「持続する物価上昇傾向と景気低迷が重なるスタグフレーションが短い期間に生じる可能性が高い」としながらも、スタグフレーションで上昇傾向を意味する「プレーション」は持続的ではないと診断した。さらに、連邦準備制度理事会(FRB)が低迷を意味する「スタグ」に対処するために政策方向を変えるだろうと見通した。

 2人とも、今は物価上昇の勢いを懸念する時ではなく、不況の波が押し寄せていると主張しているのだ。2008年の金融危機を予め警告したニューヨーク大学のヌリエル・ルービニ教授は、その不況は厳しいものになるだろうと悲観的な見通しを示す。同氏は6月29日、「プロジェクト・シンジゲート」に掲載された「スタグフレーションと債務危機が見え隠れする」という題の寄稿文で、現在の物価上昇傾向はコロナ禍やサプライチェーンのボトルネック、ウクライナ戦争など供給サイドが決定的な要素だが、供給サイドによる物価上昇傾向はスタグフレーションの性格を帯びるため、金融引き締めを行った場合、ハードランディングのリスクが高まると警告した。また、景気のハードランディングの前では金融当局は量的緩和政策に再び転じざるを得ず、これは過酷なスタグフレーションと債務危機を引き起こすだろうと見通した。

 これは1970年代の債務危機のないスタグフレーションや2008年の物価上昇のない債務危機とは異なり、スタグフレーションと債務危機が重なったものだ。同氏はバブル気味の資産価格は半分近く暴落するだろうとも付け加えた。

 1970年代の長期不況は中東戦争に続くオイルショックに触発されたが、その根本原因は戦後資本主義体制であるブレトンウッズ体制の崩壊だった。米国ドルの力に頼っていた資本統制と固定為替レート制が崩壊すると、物価上昇と景気低迷が長期間続いた。これは資本自由化と変動為替レート制に基づいた新自由主義体制に移行した。新自由主義体制で起きたグローバル化は中国の低価格生産力を土台に物価上昇を防いだが、資産バブルを引き起こした。これは2008年の金融危機へとつながった。

 最近の物価上昇と襲ってくる景気低迷の根本原因が、ルービニ教授の指摘のように供給サイドにあるとすれば、その根本原因は中国を米国主導のサプライチェーンから排除しようとするデカップリングにあると言える。30年間おびただしい資金が供給されたにもかかわらず、物価上昇傾向がみられなかった根本的な背景は、中国が豊富で安価に品物を供給したためだ。代わりに供給された資金は株式や不動産など資産価格を暴騰させ、富める者はますます富み、貧しい者はますます貧しくなる現象を深化させた。

 そのような状況で米国が中国の制圧を狙ったデカップリングを施行し、コロナ禍とウクライナ戦争まで重なり、供給サイドのスタグフレーションが起き、債務危機まで重なっている。特にウクライナ戦争が決定的な影響を及ぼした。豊富な原材料を供給してきたロシアを封鎖しているため、1970年代のオイルショックのような危機が触発されざるを得ない。

 米国など西側諸国が8%台の物価上昇を受け利上げしている一方、中国は5月の消費者物価上昇傾向が2.1%にとどまり、地方債と国債をさらに発行して資金を供給しているのは示唆的だ。国外に輸出されるべき商品が国内にとどまっており、ロシアから安い石油など原材料供給を受けているためだ。

 ウクライナ戦争が続けば、デカップリングがロシアに対する制裁と重なって暴力的に進み、長期不況が訪れるのは火を見るより明らかだ。ウクライナ戦の終戦、そして米中対決ではなく建設的な競争構図に向けて妥協しなければならない。しかし、国際社会は今、夢遊病者のように戦争と長期不況に向かって歩いている。

//ハンギョレ新聞社
チョン・ウィギル|国際部先任記者(お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1049592.html韓国語原文入力: 2022-07-05 02:39
訳H.J

関連記事