ハン・ドクス大統領権限代行首相が8日、10日後に任期終了となるムン・ヒョンベ憲法裁判所長職務代行とイ・ミソン憲法裁判官の後任として、イ・ワンギュ法制処長とソウル高裁のハム・サンフン部長判事を指名したことで、任命職に過ぎないハン権限代行が「大統領任命枠(憲法裁判官は大統領と国会、最高裁長官がそれぞれ3人ずつ選ぶ)」の憲法裁判官を電撃的に任命したのは「越権」だという批判が高まっている。
■朴槿恵元大統領弾劾の際、ファン権限代行も大統領任命枠の憲法裁判官は任命せず
争点になっているのは、ハン権限代行が大統領任命枠の憲法裁判官を任命できるかどうかにある。憲法学界では、権限代行の権限範囲を「現状維持」とみなすのが、大方の見解だ。権限代行は国民が直接選んだ公職者ではないからだ。朴槿恵(パク・クネ)元大統領弾劾当時、権限代行を務めたファン・ギョアン元首相が大統領任命枠の憲法裁判官を任命せず、「大統領権限代行の職務範囲をめぐってはいろいろな議論がある」と述べた理由もここにある。
しかも、権限代行が大統領固有の権限を行使するのは控えるべきだと主張したのは、他でもなくハン権限代行自身だった。ハン権限代行は、昨年12月26日に発表した国民向け談話で、「大統領権限代行は、国が危機を乗り越えられるよう安定的な国政運営に専念する一方、憲法機関の任命を含む大統領の重大な固有権限の行使は控えるべきというのが、韓国の憲法と法律に込められた一貫した精神だ」とし、国会推薦枠の憲法裁判官候補3人の任命を拒否した。最も形式的な権限行使さえしなかったハン権限代行が、前言を覆し、最も積極的な大統領権限を行使したのだ。尹前大統領の罷免を境に、憲法的基準を変えたという批判の声があがっているのもそのためだ。
当時、ハン権限代行は「もしやむを得ず(国会推薦枠の憲法裁判官候補3人を任命する)権限を行使すべきなら、国民の代表である国会で与野党合意が先に行われるのが、これまで韓国憲政史で一度も崩れたことのない慣例」だと主張した。その論理通りなら、最も積極的な大統領権限を行使する際、たとえ大統領任命枠で国会の同意が必要でなくても、事前に国会の意思をうかがうか考慮すべきだったが、ハン権限代行はこれを全くしなかった。
■「イ・ワンギュ候補は尹前大統領の義理の母親の弁護を担当した第2の尹錫悦」
最大野党「共に民主党」のパク・チュミン議員はこの日、フェイスブックへの投稿で、「ファン元首相さえも大統領任命枠の憲法裁判官は任命しなかった。ファン・ギョアン氏でも最小限の憲法的ラインは守ったという話」だとし、「今、ハン権限代行はそのラインすら越えようとしている。形式的な任命権ではなく、実質的な指名権を行使しようとする試みは、憲法が明らかにする民主主義の原則そのものを損ねることだ」と批判した。同党のミン・ヒョンベ議員もこの日、フェイスブックへの投稿で、「大統領選挙の時にハン・ドクスに投票された方はいますか」としたうえで、「主権者である市民が与えたことのない権限を、何の権利があって行使しようとするのか。直ちに撤回せよ」と批判した。
野党では、政権交代の可能性が高い状況で、ハン権限代行が罷免された前大統領の息のかかった前代未聞の人事を断行したと声を高めた。代表的な親尹錫悦派として知られるイ・ワンギュ法制処長を憲法裁判官に指名した点がそうだ。イ処長は尹前大統領の司法研修院同期で、尹前大統領が検察総長だった時代、法務部による停職2カ月懲戒処分取り消し訴訟で代理人を務めた。また、12・3内乱事態の翌日に尹前大統領と安全家屋(隠れ家。秘密維持のために使用する一般家屋)で会合を開いた4人衆の一人として、内乱に関与したのではないかという疑惑も持たれている。
パク議員は、「イ処長は、尹錫悦の義母であるチェ・ウンスン氏の弁護も引き受け、『第2の尹錫悦』と呼ばれる人物。国民分裂を助長するための人選ではないかと疑念を抱かせるほどだ」とし、「国をどこまで滅ぼそうとしているのか。生きる違憲、憲法クーデターの首謀者であるハン・ドクスは必ず処罰を受けなければならない」と綴った。