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今は世界大戦前夜なのか?第1次世界大戦を分析した世界的学者の返答

登録:2022-06-29 06:32 修正:2022-06-29 07:04
『夢遊病者たち』著者のクラーク教授、「ガーディアン」紙インタビュー 
「1914年とウクライナの状況に類似点はない」 
ロシアに慎重な態度を示すドイツのショルツ首相を擁護
第1次世界大戦の原因を分析した『夢遊病者たち:第一次世界大戦はいかにして始まったか』の著者であるケンブリッジ大学のクリストファー・クラーク教授=英国学士院のウェブサイトよりキャプチャー//ハンギョレ新聞社

 ロシアのウクライナ侵攻による現在の状況は、第1次世界大戦前夜に似ているのだろうか。

 ウクライナ戦争後、ふたたび新たな世界大戦が起きるのではないかという問いが出ている。列強が外交より力を誇示する対立を継続して勃発した第1次世界大戦の状況が取りあげられている。

 第1次世界大戦の原因を分析した著書『夢遊病者たち:第一次世界大戦はいかにして始まったか』の著者であるケンブリッジ大学のクリストファー・クラーク教授は、ウクライナ戦争を第1次世界大戦と比較すべきでないと述べ、主戦論の危険性も警告した。英国紙「ガーディアン」が27日に報じた。

 クラーク教授が書いた『夢遊病者たち』は、2013年の出版後、世界的なベストセラーになり、特に第1次世界大戦の敗戦国であるドイツでは35万部以上が売れた。ドイツのアンゲラ・メルケル前首相は、閣僚たちにこの本を勧めたことがある。ドイツの故ヘルムート・シュミット元首相は2014年、ドイツの雑誌「ディー・ツァイト」に、ロシアのクリミア半島強制併合の事態により触発されたウクライナ危機を第1次世界大戦前夜と比較する「米国の夢遊病者たち」と題する生前最後の寄稿をした。ドイツのオラフ・ショルツ首相も最近、オフレコを前提にメディアに対してこの本を引用し、無責任な政治家たちが好戦的な言辞で紛争を推し進めていると批判したとガーディアンが報じた。 ショルツ首相は、自分は第1次世界大戦時のドイツ皇帝である「ヴィルヘルム2世には絶対にならない」と述べたと同紙は報じた。

 しかし、クラーク教授は、第1次大戦勃発の背後にある動力とウクライナ戦争の状況とでは、似ている点はほとんどないと述べた。彼は「人々は前に出ることを、頭を手すりの上に突き出すことを、激化のリスクを甘受することを望んではいない」としたうえで、「1914年と現在のウクライナの状況には類似点はない」と評した。彼は「第1次世界大戦は信じられないほど複雑で、様々な場所が関わるかたちで始まった」とし、「一方、2014年と今年のウクライナ侵攻の場合、これは単に一つの列強による平和侵害の事例だ」と指摘した。彼は、現在の「欧州は二つの組織で構成された同盟システムに分かれていない」とし、「欧州では少なくともロシアは現時点で孤立している」と述べた。

 クラーク教授はまた、現在の地政学的状況と第2次世界大戦前夜の比較も一蹴した。西側には現在、ドイツがロシアに融和的な態度を示していると非難する世論がある。これは、第2次世界大戦前に英国などがアドルフ・ヒトラーに宥和政策を展開し、第2次世界大戦が勃発したという主張につながっている。

 クラーク教授は、第2次世界大戦直前の「1938年のようなものは見られず、プーチンはヒトラーではない」と述べた。彼は「ヒトラーには深刻な人種主義哲学があり、ヒトラーの哲学では、ドイツ人は欧州大陸全域に膨張可能な生物学的集団だった」としたうえで、「より良い比喩は、19世紀の時の日和見主義的なロシアの飽食だ」と述べた。彼は当時「ロシアはオスマン帝国を生けにえにした」とし、「世界は、全般的によりいっそう19世紀のように多極化され、予測不可能になっている」と懸念した。

 西側諸国がドイツの中途半端な立場に対する不満を抱くことも新しい現象ではないと指摘した。1853年のクリミア戦争に突き進む渦中に、当時のプロイセンに西欧列強諸国とのより強力な同盟を求めた英国紙「ザ・タイムズ」の社説などを取りあげ、「頭を掻いているドイツに我慢できないのは、新しいことではない」と述べた。

 フランスと英国との同盟を主張する知識人と、「ドイツあるいはプロイセンは、ロシアが好まないことは何もしてはならないと信じている」知識人との間の、何世紀にもわたる分裂がドイツにはあるという点がしばしば見過ごされているとも述べた。同教授は「外部からの脅威があれば、多くの政治システムはそれに対抗して結集し対応するはずだ」としながらも、「しかし、この問題においてドイツはそうではなく、ロシア問題はこの国を分裂させている」と評価した。

 同教授は、ロシアに対して慎重な態度を示しているドイツのショルツ首相を擁護した。「ショルツはインチキな物品販売員ではない」としたうえで、「ドイツの首相がドイツの力を誇示する機会を探るより、紛争に引きずり込まれることを敬遠する姿勢を示すことのほうが、はるかに正しいと私は思う」と述べた。

 しかし、ドイツ政府は歴史の重要な時期に欧州の信頼を失う危機にあると強調した。「私はショルツを理解し、ウクライナに対する支援を増やすという政策も理解する」としながらも、「そうであるのなら、これは長いゲームであり、大きなムチを振り回すよりは静かに語るほうがいい」と述べた。彼は「調整された行動が必要だ」と語った。

 「ウクライナでプーチンがやりたい放題に放置しておくことのリスクは非常に大きく、予測できない。プーチンが語った言葉がそれを明確に示している」とし、「プーチンは(北大西洋条約機構(NATO)への加盟を申請した)フィンランドについて(それにともなう)長期的な結果に言及したが、彼は何かを言った後でそれを忘れる人ではない」と指摘した。プーチン大統領が政権就任後、NATOの東進拡大、ウクライナのNATO加盟の試み、フィンランドのNATO加盟申請について警告したことは、決して放言ではないということだ。

 同教授は『夢遊病者たち』で、第1次世界大戦の原因はドイツだけにあるのではなく、外交より力の誇示と対決で状況を悪化させた西側列強すべてにあるという主張を展開した。当時の西側列強が夢遊病者のように戦争に近づいたということだ。これは、ドイツが第2次世界大戦だけでなく第1次世界大戦にも全面的に責任があるというこれまでの学説に対する挑戦であり、大きな反響が生じた。英国の歴史学者のジョン・ロール氏は、クラーク教授の本がドイツをふたたび誤った道に導くことがありうると批判した。

 クラーク教授は、そのような反論は自分の本を誤読したことによるものだと主張した。彼は「夢遊病は、状況を絶壁に追い込む危険な行動をするのはやめようという暗号だ」としたうえで、「戦争を挑発したという主張は、完全に要点から外れたものであることが明らかになった」と述べた。

 さらに「現時点では、いかなる夢遊病のリスクもあるとは思わない」としたうえで、「今はすべての人は目覚めているが、それはプーチンが私たち全員を起こしたからだ」と指摘した。

チョン・ウィギル先任記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/international/europe/1048782.html韓国語原文入力:2022-06-28 17:05
訳M.S

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