米国の5月の消費者物価指数(CPI)の上昇率が8.6%(前年同月比)と、過去41年間で最高値を記録したことで、物価の「ピーク通過」の確認を期待した市場では、インフレの長期化とさらに攻撃的な通貨緊縮を予想する雰囲気がますます形成されつつある。今やスタグフレーション(不況の中の物価上昇)の懸念が改めて頭をもたげ、広がりつつあるのだ。輸入物価に多くを依存する韓国の消費者物価も、今月は6%台に突入する公算が大きくなっているほか、15日(現地時間)に米国連邦準備制度理事会(FRB)がビッグステップ(一度に0.5ポイントの金利引き上げ)を超える「ジャイアントステップ」(0.75ポイント以上の引き上げ)を踏む可能性すらあるとの見方が強くなっている。
10日に発表された米国の5月の消費者物価上昇率は、市場の予想値(8.3%)より高かった。1981年12月以降の最高値を更新した。4月の上昇率(8.3%)と同じであれば物価の「ピーク通過」が確認できたはずだが、むしろ高まった。前月と比べた上昇率(1.0%)も金融市場の展望値(0.7%上昇)を上回った。価格変動が大きいエネルギーと食料品を除く5月の消費者物価も、前年に比べ6%、前月に比べ0.6%上昇し、ウォール街の予想値よりそれぞれ0.1ポイント高かった。加えて10日のニューヨーク証券市場の3大指数は2.73%~3.52%の急落を示し、米国10年物国債の金利は3.17%台にまで急騰した。
金利引き上げは、様々な波及経路を通じて消費や投資に影響を与えるには約2年以上のタイムラグがあるため、「物価の安定を狙った」金利対応の効果を判断するのは、いまの段階ではまだ早い。しかし、高騰する物価に政策金利で対応するタイミングを少なくとも9カ月ほど逸したFRBは、ようやく5月初めに急遽ビッグステップを踏んだものの、金利という手段では物価急騰を止めるのは難しいとの分析が示されている。
今回の物価急騰は、新型コロナウイルス禍以降に抑えられてきた消費の噴出に、穀物と原材料の供給難が重なったために起きている。米中関係の悪化以降、世界経済が経済的なコストの効率を追求してきたグローバルな「バリューチェーン」から、より高いコストを支払ってでも安定化を追求するグローバル「サプライチェーン」政策へと明確に変わりつつあることも一因となっている。ウクライナ戦争は穀物と原材料の価格の一時的な急騰にとどまらず、数十年間のグローバル化のもたらした「低物価体制」を根本的に破壊している。世界最大の資産運用会社「ブラックロック」のラリー・フィンク最高経営責任者は「ウクライナ戦争で30年間続いたグローバル化に終止符が打たれた」と語った。
FRBが14~15日に行われる6月の連邦公開市場委員会(FOMC)の定例会議で、より攻撃的な通貨緊縮を断行し、9月以降も強力な金利引き上げを続けるという予想が広がっている。投資銀行「バークレイズ」と「ジェフリーズ」、経済分析機関「キャピタル・エコノミクス」は、今回FRBがビッグステップではなく予想外の「ジャイアントステップ」を踏む可能性を提起した。
経済協力開発機構(OECD)加盟38カ国の4月の消費者物価上昇率は9.2%で、1998年9月(9.3%)以来の最高値を記録した。5月には5.4%だった韓国の物価上昇率も、6月と7月には6%台に突入する可能性が高まっている。これに伴い、韓国をはじめ、主要国の中央銀行がさらに攻勢的に政策金利引き上げを行うことで、スタグフレーションまでは行かずとも景気の鈍化と物価高が同時に起こる「スローフレーション」が現実のものとなるだろうとの予想が多く提起されている。先日、世界銀行は「多くの国は景気後退を避けるのは困難だろう」との見通しを示した。