(1から続く)
外交・安保分野で白紙状態の大統領
問題は尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領です。尹錫悦大統領は外交・安全保障の素人です。経済分野については検事時代の捜査経験で基本知識がかなりあると自ら言いましたが、外交・安全保障は眼識や見識がほとんどない白紙状態で大統領に当選したといえるかもしれません。尹錫悦大統領の外交・安全保障分野の大統領選挙公約集を見ると、「南北関係正常化」という題名がついています。文在寅(ムン・ジェイン)政権の南北関係が異常だったという前提で書かれているのです。
「文在寅政権府は北朝鮮に屈従的な姿勢で南北関係を異常な形にし、国民の自尊心を傷つけた」としたうえで、「文在寅政権は軍事合意書、終戦宣言などを国民的合意なしに一方的に推し進め、国民の分裂を引き起こした」と主張しました。韓米関係については「韓米同盟の再建」を掲げました。「再建」という単語が刺激的です。文在寅政権時代、韓米関係が崩壊したということでしょうか。
国防については「韓米合同演習の縮小や機動演習の取り消しなどで韓米間の信頼が低下し、北朝鮮の核・ミサイルの脅威が増大して、国家安全保障に弱点が生じた」とし、「韓米軍事同盟を強化し、北朝鮮の核・ミサイルの脅威に強く対応する」と書きました。果たしてそうでしょうか。現実では今正反対の状況が起きているのではありませんか。
まあ公約は選挙で票を得るために掲げるものですから、そういうこともあるでしょう。それより深刻な問題は、哲学と戦略の欠如にあります。大統領選挙後、これまでに発表された政権引継ぎ委員会白書、大統領就任の辞、外交・安全保障分野の人事、尹錫悦大統領の様々な演説などをいくら読み返してみても、外交・安保に対する尹錫悦政権の「ビッグピクチャー」は見当たりません。北朝鮮が非核化に方向転換すれば経済的支援を行うという「大胆な構想」を示したが、北朝鮮の核問題を具体的にどう解決していくのか、長期的に朝鮮半島の平和と周辺情勢をどう管理していくつもりなのか、示されていません。今や韓米日対朝中ロの対決の時代ではありません。冷戦時代の構図では問題を解決できません。
尹錫悦大統領は外交・安全保障分野の素人だから限界があるかもしれませんが、韓国のいわゆる保守勢力の実力がこの程度なのでしょうか。私はとてもがっかりしました。哲学の欠如は、無理で過激な対応をもたらすものです。与党「国民の力」のチョン・ジンソク非常対策委員長はイ・ジェミョン代表の「親日国防」「旭日旗」攻撃に反論し、「朝鮮王朝は日本の侵略ではなく無能と無知によって滅びた」と大きな失言をしました。
発言が波紋を呼ぶと、今度は「北朝鮮が核実験を行った場合は、朝鮮半島非核化共同宣言を破棄すべきだ」と述べました。チョン委員長の発言は尹錫悦大統領や大統領室と調整を経た意見でもありませんでした。いくら焦ったとしても、政権与党の代表ともあろう人物が、親日をめぐる議論を鎮めるためならなんでも適当に言えばいいと思っているのではないか、本当に心配です。
チョン委員長の発言を機に核武装論、戦術核再配備を求める声が高まっています。今後尹錫悦大統領とチョン・ジンソク委員長がこの問題をどう片づけていくのか、見守りたいと思います。
いま野党第一党がすべきこと
野党「共に民主党」はどうでしょうか。韓米日共同訓練に対するイ・ジェミョン代表の問題提起は野党代表として当然かもしれません。しかし、「親日国防」など刺激的な言語で尹錫悦政権を攻撃するのはどう考えても行き過ぎです。いわゆる保守勢力による北朝鮮追従というレッテル張りが間違っているように、国民の反日感情を刺激する親日攻勢も間違っています。
文在寅大統領を今でも「金日成主義者」と呼び、「銃殺に値する」と発言した経済社会労働委員会のキム・ムンス委員長と民主党が同じレベルでも良いでしょうか。イ・ジェミョン代表と民主党の政治家がいますべきなのは、北朝鮮の核やミサイル挑発の局面で、韓国政府と国民が何をどうすべきかをじっくり話し合い、政策の代案をまとめることではないでしょうか。
金大中・盧武鉉・文在寅政権で朝鮮半島政策を担当していた有能な当局者たちがたくさんいます。 こういう人たちを呼んで意見を集めてみたらどうでしょうか。国民は朝鮮半島問題に対するイ・ジェミョン代表と民主党の眼識と実力についても注目しているはずです。