北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長は21日、李在明(イ・ジェミョン)政権の対北朝鮮政策に対する不信感をあらわにしつつ、「韓国と再び向き合うことはなく、何も共にすることはないだろう」と語った。一方で米国に対しては、「非核化の排除」という条件つきで「米国と向き合わない理由はない」と述べた。一種の「通米封南」政策の方向性を表明したものとみられる。たとえ北朝鮮がこのような態度を取ろうとも、韓国政府は忍耐の心をもち、対話とコミュニケーションの意志を捨ててはならない。
金委員長はこの日の最高人民会議での演説で、核、朝米関係、南北関係に対する自分たちの「原則的立場」を明らかにした。金委員長の主張は(1)非核化は「絶対にありえない」(2)「米国が非核化に対する執念」を捨てるなら、「向き合えない理由はない」(3)「韓国と向き合うことはな」く「統一は不要だ」と要約できる。2023年末に掲げた「敵対的二国論」を金委員長が改めて強い口調で表明したため、南北関係の早期改善は容易ではなさそうだ。
ただ、北朝鮮は韓国との対話を否定しているが、米国とは対話しうると余地を残したことは注目される。もちろん、北朝鮮の要求どおりに米国のトランプ政権が「核を容認する朝米交渉」を行えば、それは朝鮮半島を含む東北アジア全体の災いとなる。したがって、ひとまず北朝鮮を対話の場に引っ張り出すにしても、非核化を放棄することはできない。
北朝鮮は今後、強まった中国とロシアとの関係をテコとして、核保有国としての地位確保に向けた米国との対話の機会をうかがいつつ、韓国を徹底的に排除する「通米封南」政策を展開していくとみられる。そのため、李在明政権が表明したように、現状では南北の直接対話よりも米国を通じた間接的対話の方が有効である可能性がある。また、段階的な方式などの柔軟なアプローチに努めることも必要にみえる。李在明政権は発足以来、南北関係の「厳しい現実」を反映した柔軟な北朝鮮に対するアプローチに苦心してきた。李大統領が21日のBBCのインタビューで明らかにした、北朝鮮の核問題の解決に向けた「現実的代案」は、「凍結」だった。先月21日の読売新聞とのインタビューでも、「凍結-縮小-非核化」という3段階の解決策を提示している。それを現実のものとする努力を続けていかなければならない。
あわせて、北朝鮮の核に対する対応もさらに強化しなければならない。米国の拡大抑止の強化など、北朝鮮との「核の均衡」を保つ努力を続けていくしかない。その過程で、時によっては軍事的緊張が高まる恐れがある。些細な誤解による不必要な紛争を防ぐためにも、軍当局同士の協議チャンネルを早急に構築すべきだ。金委員長も、韓米同盟と北朝鮮が衝突する「危険な事態の発展は絶対に望まない」と述べている。ならば、偶発的な軍事衝突を防ぐ「安全装置」である9・19軍事合意の復元が急がれる。南北軍事共同委員会の開催も必要にみえる。北朝鮮もこの点については前向きな態度を示してほしい。