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第2の尹錫悦を目撃する恐れもある土壌【コラム】

登録:2025-09-25 09:40 修正:2025-09-25 11:09
リュ・イグン|ハンギョレ経済社会研究院長兼論説委員
今年1月20日午後、ソウル麻浦区のソウル西部地裁の裏門に設置されていた西部地裁の看板と、破壊された建物の外壁=チョン・ヨンイル先任記者//ハンギョレ新聞社

 米国のドナルド・トランプ大統領のメンターとして知られるニュート・ギングリッチ氏が最近、旧統一教会の所有する新聞である米ワシントン・タイムズに投稿した。米議会下院の議長まで務めた彼は、韓国で宗教の自由と民主主義が脅かされているとして、韓米関係は重要な瞬間を迎えていると警告した。尹錫悦(ユン・ソクヨル)夫婦の不正請託疑惑などを明らかにする過程で旧統一教会に対して行われた捜査に、宗教弾圧のレッテルを貼ったのだ。親衛クーデターで韓国の民主主義が真の危機に陥った時には沈黙していた彼の脅しは、考えれば考えるほど不快でぞっとする。

 彼の投稿は韓国の保守メディアとユーチューバーを経て拡大再生産され、弾劾反対を旗印として結集した過激主義勢力に対する応援メッセージとして作用した。ただでさえ保守勢力は戒厳失敗後、米国側の力を借りて反転を図るため、ワシントンに対する求愛作戦を展開してきた。

 韓国社会の分裂にも一役買ったギングリッチは、1990年代から米国に政治の両極化の種をまき、成果を上げた主役でもある。民主党から議会第一党の地位を取り戻したが、妥協を嫌った彼の言動は乱暴だった。彼は相手に向かって「反逆」、「反愛国的」という言葉を呪符のように用いた。

 ギングリッチの登場以降、米国の政治は急速に両極化へと突き進んだ。1981年には接点が多く、一つの大きな楕円形のように見えた米下院議員同士の「距離地図」(クリオ・アンドリス)は、1991年には中央ががらんとした無人地帯となり、2つの円に分かれた。2001年以降は2つの円の距離はさらに広がりはじめ、今や互いに異なる銀河系となっている。

 興味深いのは、所得階層間の距離が広がれば広がるほど、すなわち不平等が深刻化するほど、政治の両極の距離も広がっていったということだ。米下院の政治の両極化指数と所得の不平等の程度を示すジニ係数は、1970年代末から似たような軌道(ノーラン・マッカーティー)を描いてきた。広く知られているように、米国の所得不平等は1980年代から急速に悪化したが、その土壌において政治の両極化も急速に進んだ。反対政党について「非常に敵対的」だと回答した米国人の割合も、この30年間で3倍近くに増え、今は60%前後に達する(ピュー・リサーチセンター)。結局のところ、それは民主主義の地盤の深刻な侵食として表れた。

 2021年1月6日に米議会で起きた暴動が代表な例だ。政治の両極化のおかげで2016年に政権獲得に成功したトランプは、4年後に不正選挙で勝利を盗まれたと主張し、両極化をとりでとして暴動をあおった。マイケル・サンデルは、トランプ当選は数十年間にわたって深まってきた不平等に対する怒りの判決だと考えた。スティーブン・レビツキーは『少数派の横暴:民主主義はいかにして奪われるか』という著書で、所得の停滞と不平等の深化にきちんと対処できなかったせいで急進的右派ポピュリズムが登場したと語る。そして、両極化は相互寛容と制度的自制という規範を弱め、民主主義を崩壊させる恐れがあると警告する。

 暴力で議会を占拠したトランプ支持者たちとは、果たして何者なのか。パズルをはめてみれば、米国社会の不平等な現実と過激主義のつながりが見出せる。ミュンヘン大学のジョン・コムロス名誉教授による、暴動への関与で起訴された933人の分析結果は、それをよく表している。関与者に極貧層や高所得層は少なく、83%が1人当たりの年所得が2万~5万ドル(約300万~750万円)ほどの中下位階層の居住地の住人だった。同氏は、下位中産階級が右派ポピュリズムに動員されやすいのは、彼らの社会経済的地位が年々下落し、それによる経済的不安が膨らんできたからだと判断している。

 今年1月19日にソウルで起きたソウル西部地裁暴動は、4年前の米議会暴動と様々な面で似ている。いずれもうそによる扇動と陰謀論にもとづいており、憲政体制を否定する暴力として噴出したものだ。ただ、西部地裁暴動の関与者が何者なのか、そのパズルはまだきちんとはめられていない。明らかなのは、韓国も米国に劣らないほど両極化が深刻で、資産と所得の不平等も悪化し続けているということだ。過激主義が育まれる土壌は日増しに肥沃になっていっている。

 尹錫悦(ユン・ソクヨル)が弾劾され、彼と共謀した親衛クーデター勢力の何人かが処罰されたからといって、過激主義勢力が減るわけではない。議会暴動から4年でトランプは再び大統領に当選し、米国社会はさらに極端な分裂へと突き進んでいる。民主主義も急速に後退している。李在明(イ・ジェミョン)政権が所得と資産の分配をより均等にできなければ、肥沃な両極化の土壌の上で民主主義を脅かす「第2の尹錫悦」のような人物の出現を再び目撃するかもしれない。そうなってはならない。

//ハンギョレ新聞社

リュ・イグン|ハンギョレ経済社会研究院長兼論説委員 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1217433.html韓国語原文入力:2025-09-07 19:19
訳D.K

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