本文に移動

米国はファシズムに歩みを進めている【コラム】

登録:2025-09-25 07:59 修正:2025-09-25 09:16
米国のドナルド・トランプ大統領が23日(現地時間)、ニューヨークで開催された国連総会の期間中に、フランスのエマニュエル・マクロン大統領との二者会談で発言している=ニューヨーク/AFP・聯合ニュース

 米国は現在、ファシズムに歩みを進めている。100年ほど前のドイツと現在の米国の光景はよく似ている。当時と今の国際情勢も似ている。

 欧州でファシズムが台頭した時期は、第1次大戦と第2次大戦の間である戦間期だ。戦間期は支配的な国際秩序が消失した時代だ。第1次大戦後に英国の覇権が衰退したが、これに代わる覇権は不在だった。英国は国際秩序を規律する意志はあったが、能力がなかった。新興国の米国は、能力はあったが、意志がなかった。

 英国は国力が衰退したうえ、欧州の勢力均衡を破壊する現実かつ差し迫った危機でないかぎり介入を避ける「名誉ある孤立」を維持した。ロシアはボルシェビキ革命のため、半ばは自己の意志で、半ばは他人の意志により、国際社会から撤退した。欧州の東側でドイツを、東アジアで日本を牽制したロシアの力も消失した。欧州では脆弱なフランスだけで不満に満ちたドイツに対処しなければならなかった。アジアでも日本への手綱が緩んだ。

 ナチス・ドイツは、覇権の空白のもとで自給的な経済圏と勢力圏の分割を狙った。「アウタルキー」(自給自足)と「レーベンスラウム」(生存圏)の構築を試みた。東欧に広がり、ウクライナまでを含む大ドイツ圏を構想した。これについて英国やフランスなどと妥協しようとした。そのような自給自足的な生存圏において、ユダヤ人などの劣等な住民と民族を排除し、ゲルマン民族の純粋な生存の場を作ろうとした。ナチスは、このための第一歩であるポーランドを英国とフランスが容認しなかったため、最終的に第2次大戦を引き起こした。

 現在の状況も似ている。冷戦崩壊後に米国が規律してきた自由主義の国際秩序は、崩壊の危機に直面している。既存の覇権国である米国が、自身が作った秩序を壊し、空白を生み出している。自国の市場開放と海外への関与などに基づく多国間主義と自由貿易を破壊している。米国は覇権国が担うべき義務を放棄し、利益だけを得ようとしている。

 米国はもはや覇権国ではなく、最強の列強、一番の列強を目指している。同盟国に高率の関税や投資・防衛費負担を強要し、帝国の属国にしようとしている。一方、中国やロシアには妥協と交渉の態度を一貫して示している。ドナルド・トランプ大統領の米国は、中国とロシアとは勢力圏を画定しようとしている。それでいてトランプ大統領の米国は、現在全世界に展開している国力を撤収し、アメリカ大陸に集中しようとしている。グリーンランド、カナダ、パナマ運河を米国領にしたいというトランプ大統領の言葉は、虚言ではない。

 勢い盛んだった中国との対決の意志も、台湾防衛の確約も、ひそかに後退させている。近く発表される第2次トランプ政権で初となる国家防衛戦略(NDS)は、バラク・オバマ政権以降の米国の対外戦略の最優先事項である中国抑止と封じ込めを後退させ、本土と西半球の防衛を最優先にするものだという。最近になりトランプ政権は、カリブ海の公海上でベネズエラの船舶を攻撃し、軍事態勢を増強し、中南米諸国を訓戒している。トランプ大統領の米国は、同盟国を相手に恐喝し、製造業復興などを通じて自給自足的な生存圏を構築しようとしている。アメリカ大陸全域が自分たちの排他的勢力圏であることを、より確固たるものにしようとしている。

 ウクライナにまで拡張された自給自足的な生存圏である大ドイツ圏という、純粋なゲルマン民族の生存の場を夢見たナチス・ドイツは、ユダヤ人をはじめ、社会主義者、カトリック教徒などを社会から排除して追放した。トランプ大統領の米国も、米国全域を排他的勢力圏にする自給自足的な生存圏を構築しようとしている。その過程で、移民や社会のマイノリティーに対する取り締まりが始まった。州兵などの軍隊まで動員されている。法と憲法を蹂躪(じゅうりん)し、大統領の権限が拡大している。ヒトラーはミュンヘンのビアホールでの暴動を、トランプは議事堂襲撃を偉大な蜂起として美化する。

 表現の自由という名目で、ヘイトと差別を拡散して正当化したチャーリー・カーク氏の死をきっかけに、米国社会は移民やマイノリティーを超え政治的反対者にまで取り締まりと弾圧の手を広げている。カーク氏の追悼式では、人種主義政治とキリスト教が融合した新たな政教一致体制が初披露された。

 その土台となるMAGA(米国を再び偉大に)は、反中絶や反LGBTなどの社会保守主義、減税と規制緩和のジャングル資本主義、自国の市場を絶対視する保護主義などの経済的民族主義、既存の住民とその文化を優越視する土着主義(ネイティビズム)、クー・クラックス・クラン(KKK)などに代表される人種主義である白人民族主義、キリスト教に社会のアイデンティティを見出す福音主義であるキリスト教原理主義という、この6つのイデオロギーの寄せ集めだ。

 一言で言えば白人人種主義だ。1930年代の欧州で勃興したファシズムだ。さらに大きな問題は、1930年代のファシズムが敗戦国で勃興したのに対し、今回は、覇権国かつ最大最強の国である米国でファシズムが広がっていることだ。

//ハンギョレ新聞社

チョン・ウィギル|国際部先任記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1220531.html韓国語原文入力:2025-09-24 19:45
訳M.S

関連記事