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韓国、検察総長辞任劇で広がる波紋…検察の捜査権廃止なるか

登録:2021-03-06 06:00 修正:2021-03-06 06:53
ユン総長「法治システムが破壊され」辞任強行 
与党「捜査と起訴の切り離しは先送りできない」
ユン・ソクヨル検察総長が2021年3月4日午後2時、ソウル瑞草区の最高検察庁前で辞意を表明している/聯合ニュース

 文在寅(ムン・ジェイン)政権と与党の共に民主党が捜査権と起訴権の切り離しを主な内容とする第2段階の検察改革の渦に巻き込まれた。検察の直接捜査機能を全面廃止する法律の制定を進める民主党の動きに対し、ユン・ソクヨル検察総長が職を投げ打って反発したためだ。

 3月4日午後2時、ユン総長はソウル瑞草区瑞草洞(ソチョドン)の最高検察庁で、「今日辞職するつもりだ。この国を支えてきた憲法精神や法治システムが破壊されている。その被害は国民に降りかかる」と述べた。最近、民主党が推進中の第2段階検察改革に全面反対の意思を明らかにしたのだ。文大統領はユン総長の発表から1時間後に辞意を受け入れた。

「ユン総長の辞任、国会立法過程に影響及ぼさない」

 民主党はユン総長の辞任と関係なく、第2段階検察改革はそのまま推進する方針を明らかにした。民主党検察改革特別委員のキム・ジョンミン最高委員は「ハンギョレ21」の電話インタビューで「国会で検察の意見を含め、多様な意見を聴取する。しかし、総長の辞任が国会立法過程に影響を及ぼすことはないだろう。執行者にすぎない検察総長の反対で立法ができなくなれば、大韓民国の民主主義は崩れる」と述べた。

 民主党が第2段階の検察改革に乗り出した理由は、第1段階の改革の実施にもかかわらず、検察が変わらなかったと判断したためだ。特に、ユン・ソクヨル検察総長を懲戒しようとしたチュ・ミエ法務部長官が事実上完敗して辞任したことで、民主党は危機感を募らせている。検察を人事権だけで統制するのに限界があるという点を思い知らされ、第2段階の法制度改革に舵を切ったのだ。キム・ジョンミン最高委員は「当初、文在寅大統領の公約では、捜査・起訴権限の切り離しが検察改革の主な内容だった。しかし、当時、国会議席や警察の肥大化などの理由で、中間段階の高位公職者犯罪捜査処と検察と警察の捜査権調整で妥協した。しかし一連の事態を経験しながら、国民と党内でより根本的な検察改革を求めるようになった」と、捜査権と起訴権の切り離しを進める背景を説明した。

 第2段階の検察改革は、2020年12月29日に民主党検察改革特別委員会の発足とともに本格的な軌道に乗った。検察改革特委は当初、捜査と起訴の分離法案を2021年6月までに国会で可決し、1年間の猶予期間を置いて施行するという予定表を明らかにした。また、別の重大犯罪捜査庁(捜査庁)を新設し、検察が担当する6大犯罪(腐敗、経済、選挙、防衛事業、公職者、大型事故)の捜査権をすべて委譲し、捜査庁は法務部所属とするという内容も付け加えた。

第2段階の改革は民主的刑事司法システムへの過程

 検察内部からの反発の声を受け、ユン・ソクヨル検察総長は3月2日、宣戦布告に乗り出した。ユン総長は「検察の捜査権の完全な剥奪は民主主義の後退であり、憲法精神の破壊だ。腐敗がはびこるだろう」と述べ、公開的に民主党を批判した。政府与党からは反撃が相次いだ。チョン・セギュン首相は「(ユン総長の)国民を扇動する発言については、非常に遺憾に思う。所信を述べたいなら、辞めて堂々と振る舞えばいい」と批判した。第2段階の検察改革に慎重な態度を見せてきた大統領府も「国会は検察改革に対する国民の意見を集約して立法権を行使する。検察は国会を尊重し、決められた手続きに沿って冷静に意見を示さなければならない」と警告した。結局、3月4日、ユン総長は突然辞意を表明した。

 捜査権と起訴権の切り離しをめぐり、与党と検察が正面衝突する理由は何か。捜査権と起訴権の切り離しは検察改革の核心議題に挙げられてきた。多くの先進国では捜査と起訴、裁判を別々の機関が担当するが、これは無理な捜査と起訴、裁判を防ぐための装置だ。しかし韓国では、1954年に刑事訴訟法を制定した時、親日附逆警察の横暴を防ぐため、検察に捜査権と捜査指揮権を与えた。特に、民主化直後の90年代初めから、検察の捜査が急増し、捜査と起訴の分離原則が崩壊した。検事の直接捜査には、権力層の不正腐敗処罰という順機能もあったが、検察の権力機関化という問題点を生んだ。

 捜査と起訴の切り離しという検察改革の方向は当然な流れだというのが、大方の専門家の見解だ。高麗大学法科大学院のキム・ソンテク教授は「ほとんどの国で捜査と起訴は厳格に分離されている。直接捜査をすれば(起訴を決定する時)捜査した事実に対して客観的な判断を下せない」と述べた。人権連帯のオ・チャンイク事務局長は、「過去30年間、検事が捜査、起訴、令状請求など、国家刑罰権を片手に、人権を左右してきた。第1段階の改革が検事の不正をけん制するものであるならば、第2段階の改革は民主的な刑事司法システムへと進む過程だ」と述べた。

 しかし、第2段階の検察改革の速度や時期については意見が分かれた。民主党検察改革特別委員会のファン・ウンハ議員は、直ちに立法を推進すべきだと主張する。「捜査と起訴の切り離しは大統領の公約だが、チョ・グク民情首席時代、警察に捜査権をすべて渡すことを悩んだ末、結局踏み切れなかった。大統領の注文どおり、捜査力量を維持し、施行された新しい法律を定着させながらも、いくらでも(捜査と起訴の切り離しを)進められる」。韓国放送通信大学法学部のチェ・ジョンハク教授は「現在、検察改革の要求が強く、民主党が国会で絶対多数の議席を占めており、検察改革を進めるのに良い機会だ。いま捜査と起訴の切り離しを先送りすれば、後に改革を進めるのは難しいだろう」と述べた。

イ・ナギョン民主党代表(中央)が2021年1月7日午前、ソウル永登浦区の国会で開かれた検察改革特別委員会第3回会議で、冒頭発言をしている=共同取材写真//ハンギョレ新聞社

検察の起訴独占とご都合主義はそのまま

 しかし、速度調整を求める声も高まっている。参与連帯のハ・テフン共同代表(高麗大学崩壊大学院教授)は「いくら国会議席の状況が良くても、改革は国民の共感を得て行わなければならない。2020年にチュ長官がユン総長を懲戒処分しようとして反撃に遭ったが、いま(改革を)推し進めるのは報復のように見えるかもしれない」と指摘した。イ・チョルヒ前民主党議員も「文在寅政権は捜査と起訴の切り離しを中長期課題と考えてきた。第1段階の検察改革が施行されて2カ月が経ったが、その結果も踏まえず、第2段階に入るのは良くない。今後も補欠選挙や全党大会、大統領選挙が続くのに、いつまで検察と争いばかりしているのか」と批判した。

 検察は6大犯罪など重大犯罪に対する検察の捜査権と起訴権の維持を求めている。ユン総長は3日、「中央日報」のインタビューで「捜査・起訴権を持つ反腐敗捜査庁、金融捜査庁、安保捜査庁を設置し、重大犯罪捜査力量を維持し、強化すべきだ。国政壟断事件や国家情報院選挙介入事件などは、捜査と起訴が別々だったなら、絶対に成功しなかった」と主張した。

 しかし、民主党は検察の捜査権廃止は不変の原則という立場だ。ユン・ホジュン検察改革特別委員長(国会法制司法委員長)は「反腐敗捜査などのため、検事が捜査と起訴をすべて引き受けるべきだという主張は受け入れられない。検事による直接捜査は正常とは言えない」と一蹴した。

 検察に残された6大犯罪を捜査庁に引き渡すことだけが、唯一の方法ではないという指摘もある。民主社会のための弁護士会のキム・ジミ検警改革小委員長(弁護士)は、「当初、捜査と起訴の切り離し案は、捜査機能を警察(国家捜査本部)に移管するものだった。その代わり、警察は捜査機能以外の大半を自治警察に渡さなければならない。しかし、今はまだ国家捜査本部も自治警察もまともにできていない。このような状態で、捜査庁の設置を推し進めていいのか、疑問に思う」と述べた。市民団体「税金泥棒を捕まえろ」のハ・スンス共同代表は「捜査と起訴を切り離しても検察の起訴独占とご都合主義はそのまま残る。米国の起訴陪審や日本の検察審査会のような方法で、市民の検察統制を強化する必要がある」と主張した。

「検事の直接捜査は非正常」

 大統領府の速度調整の要求、検察の反発、専門家の様々な意見の中で、民主党は道を探さなければならない。ユン・ホジュン委員長は「大統領府とは意見の相違がない。検察の反発は当然のことであり、考慮する。もう内容はほぼまとまった。これからは予告した日程に合わせるよりも、最善を尽くして意見を集約する計画だ。ただし、第2段階の検察改革を先送りするつもりはない」と述べた。

キム・ギュウォン先任記者(お問い合わせ japan@hani.co.kr)
https://www.hani.co.kr/arti/politics/politics_general/985586.html韓国語原文入力:2021-03-05 15:14
訳H.J

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