ドナルド・トランプ米大統領が就任5カ月間で行ったことを振り返ってみよう。解決した問題はなく、いずれもさらに複雑になった。
トランプ大統領による就任当日の行政命令で始まった移民取り締まりは、ロサンゼルスで州兵と海兵隊の投入によって市民との対決へと突き進んだ。民主・革新陣営の反「ウォーク」(WOKE・社会的不平等に対する目覚め)運動に対する反対措置は、ハーバード大など大学との闘いへと広がった。関税戦争は、国内では裁判所に、海外では中国に阻まれている。トランプ大統領が世界を相手に賦課した相互関税は、裁判所の決定にその効力が左右される状況だ。
トランプ大統領は相互関税を課した後、中国の習近平国家主席が(自分に)電話して交渉を要請しなければならないと、まるでストーカーのように言い続けた。喧嘩を売っておいて、相手に交渉を哀願したのだ。互いに課した関税を猶予したジュネーブ貿易合意が守られていないと言って米国は再び先に攻撃を仕掛けたが、トランプ大統領はソーシャルメディアで「習主席が好きだが、彼は非常に気難しく、交渉が極めて困難な相手だ」と哀訴嘆願しなければならなかった。
米国は半導体など先端技術の輸出制限で、中国はレアアースの輸出制限で相手を圧迫したが、先に一歩引いたのは米国の方だった。米国の自動車メーカーなどが車を作ることができないと訴え、関連生産ラインを中国側に移す動きまで現れたためだ。中国は以前とは違い、米国の先端技術の輸出制限に対する免疫力が高まった。
時間は米国の味方ではない。トランプ大統領が相互関税を猶予した決定的な理由は、市場がドル、株価、米国債の三重暴落というパニックに近い状況に陥ったためだ。相互関税を再賦課した場合、市場は間違いなくより厳しい反応を示すだろう。相互関税の猶予期間の終了は7月初めだが、交渉が妥結したのは英国だけだ。
トランプ大統領は関税交渉をきっかけに、同盟国など相手国に防衛費負担増などの要求事項も結び付けて一気に妥結する戦略を立てていた。しかし、関税交渉では中国のペースに巻き込まれており、他の国々は米中交渉が妥結するのを見てから決めるとして、交渉を先延ばしにしている。トランプ大統領は関税戦争にむしろ足を引っ張られる格好だ。
このため、トランプ大統領の「天下三分の計」の世界戦略もいつ稼動するか分からない。トランプ大統領は、国際秩序維持の負担を負う覇権国から、自国の国益をあからさまに確保する最高列強へと、国際社会における米国の地位を再定立することを目指した。その代わりに、中国やロシアにも勢力圏を認めようとしている。19世紀の列強体制への帰還だが、米国が圧倒的優位を持つ列強体制だ。その構想を実現するためには、中国の浮上を抑えなければならない。過剰展開された米国の国力を取り戻し、インド太平洋側に集中しなければならない。
就任したら24時間でウクライナ戦争を終わらせる、というトランプ大統領の公言はその始まりだ。戦争を終わらせればこそ、ウクライナに縛られている米国の足かせを解くことができる。また、ロシアとの妥協は中国への牽制効果もある。中東からも手を引かなければならない。ガザ戦争を終息させ、イランと核問題を妥結しなければならない。
しかし、米ロが合意した領土の放棄やNATO加盟の不可など、従来の条件にウクライナと欧州は抵抗している。ロシアは、それらの条件が受け入れられていないとし、戦争を拡大している。第2回イスタンブール平和会談前日の今月1日、ウクライナはロシア本土の核戦力空軍基地4カ所を攻撃しており、平和交渉はしばらくは進まない見通しだ。トランプ大統領は報復があるだろうというウラジーミル・プーチン大統領の電話会談内容を伝えることで、当分はロシアによるウクライナ攻撃を黙認することを示唆した。
中東でもイスラエルは休戦要求を一蹴し、ガザを完全占領してパレスチナ住民を追い出すために戦争を拡大している。イランとの核交渉は、イランのウラン濃縮問題をめぐり、なかなか妥協を見出せずにいる。米国のマイク・ハッカビー駐イスラエル大使は、米国はもはやパレスチナ独立を全面的に支持しておらず、パレスチナ国家を建設したいなら、アラブ諸国が土地を(パレスチナ人たちに)与えるべきだと述べた。イスラエルの前では大きく出られないのがトランプ大統領の実状だ。このため、ガザで戦争が終わらず、パレスチナ住民が追い出される事態が発生し、イランとイスラエル間の戦争が勃発する可能性もある。
トランプ大統領はウクライナと中東で戦争を終え、ロシアと妥協し、インド太平洋に帰還し、中国との対決と妥協を目指した。ロシアと妥協すれば、公言してきた金正恩(キム・ジョンウン)北朝鮮国務委員長との直接交渉の道も開かれるだろう。トランプ大統領はインド太平洋に帰還できるだろうか。トランプ政権は歴代のどの政権よりも重い体を引きずり、かろうじて一歩を踏み出している。李在明(イ・ジェミョン)政権が米国との交渉で前提としなければならない点だ。時間はトランプ大統領の味方ではない。