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[ニュース分析]「国民」掲げた政界進出への布石…辞任した検察総長、大統領目指すか

登録:2021-03-05 06:38 修正:2021-03-05 08:58
ユン・ソクヨル検察総長の電撃辞任の背景と展望 
「検察の捜査権の完全な剥奪」批判し 
「大邱、故郷に来たよう」 
3日間、緻密に注目集め 
権力に立ち向かうイメージで辞任劇の効果高める
今月4日に辞任したユン・ソクヨル検察総長が、ソウル瑞草区の最高検察庁で職員たちと挨拶を交わした後、記者団の質問に答えている=キム・ヘユン記者//ハンギョレ新聞社

 ユン・ソクヨル検察総長が4日に電撃的に辞任した表面的な理由は、与党が推進中の「重大犯罪捜査庁」(捜査庁)の新設だ。不正腐敗に対応することが国家と政府の憲法上の義務なのに、捜査庁を設置して「検察の捜査権を完全に剥奪すれば、検察が破壊され、反腐敗システムが崩壊する」という主張だ。この延長線上で彼は辞意を表明し、「国を支えてきた憲法精神と法治システムが破壊されている。その被害は国民に降りかかる」として、与党を強く批判した。

 しかし、今回の辞任に政務的判断が大きく作用したという見方もある。「大統領選挙への出馬」には直接触れなかったが、今後ユン総長の政治的資産であり、トレードマークとなる「法治主義」を守るために「権力に立ち向かった公職者」というイメージを強く印象づけることができる格好のタイミングだったからだ。彼はこれまで政界進出の可能性を否定しておらず、その間に野党を中心に「ユン・ソクヨル待望論」が十分に熟した。

法曹界「辞任以外の道を選ぶのは難しかっただろう」

 検察内部では、ユン総長が今回の捜査庁をめぐる対立局面で、辞任以外にほかの道を選ぶのは難しかっただろうとみている。検察内部では捜査権と起訴権の分離のための捜査庁の設置を事実上の検察解体と受け止めている状況を考慮すれば、検察のトップが(辞任を)決断せざるを得なかったということだ。検事長出身のある弁護士は「与党が関連立法に向けて足早に動いており、捜査庁に対する検事たちの実名批判が続く状況で、総長が選べる道は辞意表明しかなかっただろう」とし、「じっとしていれば、『組職が解体されるのに、総長は何をしているのか』という批判を受け、だからといって前面に出て戦うことも公職者としての負担が大きい。これまで中途辞任した歴代総長を見ても分かるように、検察総長というのはそういうポストだ」と述べた。

事実上の政界進出を宣言

 ユン総長は同日、辞意を表明し、政界進出については具体的に触れなかった。しかし彼は「検察でやるべきことはここまで」だとし、「今後もどんな位置であろうと、自由民主主義を守り、国民を保護するために力を尽くす」と述べ、事実上政界に進む意思を表明した。昨年10月、国会国政監査場で「(退任後)社会と国民のためにどのように奉仕するか考えてみる」と答え、「それには政治も含まれているのか」という問いに、「それは私からは申し上げられない」と即答を避けた態度から、一歩踏み込んだものだ。

 徹底的に準備されたものとみられるユン総長のこの3日の動きも、結局、政治的な注目度を最大限引き上げて退任しようとする計算された行動とみられる。今月2日のメディアインタビューで与党の捜査庁新設方針を強く批判し、翌日にはメディアの関心の中で大邱(テグ)高検と地検を訪問し、「検捜完剥(検察の捜査権の完全な剥奪)」に対して「腐敗完パン(腐敗が完全にはびこる)」という用意してきた表現を使ってさらなる攻勢をかけた後、同日辞意を表明したという一連の過程に筋書きが見えるからだ。特に彼が3日、「保守の心臓」の朴槿恵(パク・クネ)大統領の捜査関連で、政権への反対世論の高い大邱(テグ)を訪問し、「故郷に来たようだ」と発言したことについても、保守層の支持を狙ったものという見方がある。

今月4日辞任したユン・ソクヨル検察総長が同日午後、ソウル瑞草区瑞草洞の最高検察庁を後にしている。文在寅大統領は、ユン総長の辞意表明から1時間後、直ちに辞任を受け入れた=キム・ミョンジン記者//ハンギョレ新聞社

政界進出はいつ決心したのか

 法曹界では、ユン総長の政界進出と大統領選出馬に関して、これまで見通しが分かれていた。否定的な意見を持つ人々は、最近政界入門したアン・デヒ元最高検察庁中央捜査部長やファン・ギョアン元法務部長官の失敗事例を挙げ、「ユン総長は骨の髄まで検察主義者だ。組織と後輩を保護するために与党と対立するだけで、結局政治はしないだろう」とみていた。

 一方、ユン総長と親しい関係者の中には「ユン総長はもともと社会や経済分野に広く関心があった。総長になってしばらく経ってからは政治をしたい雰囲気がはっきりと現れていた」と証言する人もいた。彼と頻繁に連絡を取っている知人も、約1年前から「明らかに変わった。政治をすることは既成事実と見て良い」と話した。

 ユン総長がどのような契機で政界進出に関心を持ったかは定かではないが、昨年続いたチュ・ミエ前法務部長官と対立する過程で、心が固まったのは確かだ。彼の参謀に分類されるある検察幹部は「惨めなほど手足を切り落とした人事が決定的だった」とし、「昨年の総長を孤立させる人事と監察、捜査指揮権の発動などを経て直接乗り出さなければならないと決心したようだ」と伝えた。ただ、ユン総長をよく知るある後輩検事は「政治に長くかかわるかどうかは分からない。ユン総長の性格からして、一糸乱れぬ検察と違い、利害関係が複雑な政界で生き残るのは容易ではないだろう」と述べた。

キム・ギョンウク記者(お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/society/society_general/985487.html韓国語原文入力:2021-03-05 02:13
訳H.J

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