一部の北朝鮮離脱住民(脱北民)団体の対北朝鮮ビラまき(5月31日、金浦)を契機に南北当局が4日、久しぶりに“攻防”繰り広げた。
北朝鮮では、金正恩(キム・ジョンウン)委員長の実妹で最側近のキム・ヨジョン朝鮮労働党中央委員会第1副部長が乗り出した。キム第1副部長は個人談話で、脱北民団体の対北朝鮮ビラまきを「最高尊厳にまで触れた跳梁跋扈」だとし、「悪事を働くよりも、それを見て見ぬふりしたり、見逃す方が憎たらしいもの」だと述べた。「敵対行為の禁止」を明示した2018年4月27日の板門店(パンムンジョム)宣言と9・19軍事合意書を想起させ、「法律でも作り、しっかり取り締まらなければならない」と、韓国当局に求めた。
韓国政府は「キム・ヨジョン談話」に対し、公式であれ非公式であれ「遺憾」を表明しなかった。むしろ、法律制定による対北朝鮮ビラの取締りの意志を強調した。短期的には警察官職務執行法と「海洋廃棄物及び海洋汚染堆積物管理法」などを援用して北朝鮮へのビラまきを取り締まり、中長期的には立法を通じて取り締まりの明確な法律的根拠を作るという方針を公式発表した。予想を上回る前向きな対応基調だ。大統領府関係者は記者団に対し、「対北朝鮮ビラは百害あって一利なし」だとし、「安保を脅かす行為だ」とまで述べた。
政府のこのような対応には理由がある。「キム・ヨジョン談話」の指摘がなくても、対北朝鮮ビラは、文在寅(ムン・ジェイン)大統領と金正恩委員長の合意に反するものであるからだ。2018年4・27板門店宣言は「5月1日から軍事境界線一帯で拡声器放送とビラまきを含むすべての敵対行為を中止し、その手段を撤廃し、今後非武装地帯を実質的な平和地帯にすることにした」(2条1項)と明示した。「板門店宣言履行のための軍事分野合意書」(9・19軍事合意)も「南北は地上と海上、空中をはじめとするすべての空間で軍事的緊張と衝突の根源となる、相手に対する一切の敵対行為を全面中止する」(1条序文)と宣言している。
板門店宣言以前にも、脱北者団体によるビラまきは歴代政府の悩みの種だった。2014年10月、ある脱北者団体が京畿道漣川(ヨンチョン)でビラ風船を飛ばしたのに対し、北朝鮮側が高射銃を発射して軍事的緊張が高まり、国境地域の住民と脱北者団体が対立したのが代表的な事例だ。政府が警察を前面に出して取り締まりを図ったことに対し、脱北民団体は損害賠償訴訟を起こした。朴槿恵(パク・クネ)政府時代の2016年、最高裁(大法院)は北朝鮮へのビラまきが「表現の自由」領域にあるとしながらも、国境地域危険発生などを理由に、警察などの制止が正当だと判決した。
文在寅政府は4・27板門店宣言によって「敵対行為の中止」が始まった2018年5月1日「対北朝鮮ビラマキ関連の政府の立場」を発表し、「ビラまきの中止は軍事的緊張緩和、国境地域住民の安全、社会的軋轢の防止のために重要だ」とし、立法など、関連対策を内部で検討してきた。統一部当局者は、南北首脳が4・27板門店宣言で「非武装地帯の実質的平和地帯化」に合意した事実を想起させ、「非武装地帯の平和地帯化への合意を具体化できるよう様々な措置を法律で規定し、対北朝鮮ビラ問題に対する立法的措置を取る案を検討してきた」と述べた。
しかし政府は、「対北朝鮮ビラの取り締まり」だけを目標にした法律整備や立法ではないという点を強調した。「非武装地の帯平和地帯化」にむけて検討・推進中の新法案に「対北ビラの取り締まり」条項を加えるという話だ。表現の自由をめぐる議論と保守層の反発を念頭に置いた“現実政治的考慮”も含まれているのだ。
元政府高官は「政府が立法による対北ビラ統制方針を明らかにしたのは南北関係にとって肯定的」だとしながらも、「膠着した南北関係を改善するためには、平壌総合病院の建設を糸口にした保健医療協力など、より果敢なアプローチが必要だ」と述べた。