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クルドのオジャランはわれわれの時代のマンデラだ【寄稿】

登録:2025-06-06 08:48 修正:2025-06-06 10:16
スラヴォイ・ジジェク|リュブリャナ大学(スロベニア)、慶煕大学ES教授
2月27日(現地時間)、トルコ南東部の都市ディヤルバクルで、若者たちが投獄されているクルド労働者党(PKK)の設立者アブドラ・オジャラン氏の写真を掲げ、クルド系政党の人民平等民主党(DEM)がオジャラン氏の獄中メッセージを公開する様子を生中継で見るために集まっている/AP・聯合ニュース

 私たちが生きているこんにちの暗闇のなかで、最近、希望を与えてくれる重要なある事件が起きた。5月12日、クルド労働者党(PKK)が、指導者のアブドラ・オジャランの獄中からの指示に応じ、組織の解散を宣言したことだ。PKKは1978年にオジャランによって設立された後、クルド人が住むトルコ南東部、イラク北部、シリア北東部、イラン西部をまたぐクルド人地域で活動してきた。初期のころはクルド人の独立国家樹立を追求したが、1990年代以後は、トルコ国内のクルド人の自治権と政治的・文化的な権利の向上に目標を改めた。オジャランは20年以上にわたり収監されながらも、監獄でフェミニズムと哲学に接し、PKKの活動を現代的な左派運動に変容させた。

 このような変化は、トルコだけでなく、トルコ外のクルド人共同体にも影響を与えた。2022年、クルド人女性のマフサ・アミニがヒジャブを正しく着用していなかったという理由で警官に殴られ死亡した事件をきっかけに広がったイランのデモが、その象徴的な事例だ。このデモは、「女性、生命、自由」というスローガンのもとで、性差別、宗教原理主義、政治的弾圧に対抗する様々な闘争を有機的に結合させた。女性解放の闘争がまさにすべての人の解放だという認識を男性たちとも共有し、クルド人に対する抑圧がまさにすべての人の自由を制限することだという事実を、民族に関係なく皆が理解した。欧米の左派が夢見るだけだったことを実現したのだ。

 西洋的な偏見でみれば、このようなことがクルド人地域で起きたという事実は、驚くべきことだと思われるだろう。クルド人はいまもなお、部族間戦争、迷信、残酷な紛争のイメージにまみれた野蛮な他者と認識されているからだ。しかし、こんにちのクルド社会の実際の姿は、このような固定観念とは大きく異なる。クルド人たちは現代的で、宗教的原理主義とは距離を置き、世俗主義を追求する。女性の人権でも先進的だ。

 これまでクルド人は、周辺国家の地政学的な利害関係によって絶え間ない苦しみを受けてきた。サダム・フセイン時代にはイラクがクルド人を相手に大規模な爆撃と毒ガスによる虐殺を行った。数年前にはトルコがテロ団体の撃退を口実にクルド人地域に侵攻し、ドナルド・トランプはそれまでイスラム国(ISIS)との戦闘で米国を積極的に助けてきたクルド人を裏切り、トルコの侵攻を黙認した。このような状況でも、クルド人は優れた組織力と共同体の運営能力をみせた。クルド人たちは、イラク北部の自治地域を、整備された制度を備えるイラク内で唯一の安全な地域に発展させ、シリア北部のロジャバ自治区でもユートピアに近い社会を構築した。

 一部の左派は、クルド人が米国の支援を受けていたという理由でクルド人を批判するが、大国の隙間に挟まれ身動きを取れない人たちに、反帝国主義の原則のためには自分たちを犠牲にしろと要求するのは非現実的だ。いま私たちがしなければならないことは、クルド人の抵抗を全面的に支持し、西欧の大国がクルド人と繰り広げる汚い政治ゲームを糾弾することだ。周辺国が新たな野蛮状態に陥るなかでも、クルド人は唯一希望を発信している。クルド人の闘争はクルド人だけのためのものではない。それは、私たち自身のためのものであり、どのような新しい世界秩序が登場しているかに関する問題だ。もしクルド人が無視されるのであれば、それは解放の遺産のなかで最も価値あるものの占める場所が失われた秩序が到来することを意味するだろう。

 オジャランがPKKの自主解散を呼び掛けたのは、平和のための闘争を実践したものであり、真に勇気ある行動だ。この点から、オジャランをクルド人のネルソン・マンデラと呼んでも過言ではないだろう。PKKの自主解散がどのような結果を生むかについては、全面的にトルコ政府にかかっているが、トルコ政府が真摯な対応をするかどうかは未知数だ。トルコ政府に対する国際社会の強力な圧力が切実に求められる局面にある。この圧力を作り出すことは、私たちすべての責任だ。

//ハンギョレ新聞社

スラヴォイ・ジジェク|リュブリャナ大学(スロベニア)、慶煕大学ES教授 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1200546.html韓国語原文入力:2025-06-01 18:42
訳M.S

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