北朝鮮の外交を総括する外務相が「米国通」のリ・ヨンホから「対南ライン」のリ・ソングォン祖国平和統一委員会(祖平統)委員長に変わったことが確認された。北朝鮮が外交の両軸である労働党国際部長と外務相を電撃的に交代させ、対南業務を総括してきた人物を異例にも外交トップに任命した、“破格の人事”である。
北朝鮮が最近、北朝鮮駐在の外国大使館にリ・ソングォン外相の任命を通知したと、複数の外交、対北朝鮮消息筋が19日に伝えた。これに先立ち、リ・ヨンホ外務相の「ゴッドファーザー」とも言うべきリ・スヨン党国際担当副委員長もすべての職から解任され、後任にキム・ヒョンジュン元ロシア大使が任命されたことが確認された。北朝鮮外交の主導権が外務省から対南ラインに移動するシグナルと見られる。昨年2月末、ハノイの朝米首脳会談決裂の責任をキム・ヨンチョル労働党副委員長-リ・ソングォンなど対南ラインに問うたが、今回はハノイ会談以降対米外交において成果が得られなかった責任を、リ・スヨン-リ・ヨンホに代表される外交ラインに取らせたものと言える。
軍出身のリ・ソングォンは、キム・ヨンチョル党副委員長が軍で活動していた時代から、ともに南北軍事会談に関与してきた最側近だ。2016年、キム・ヨンチョルが労働党で対南事業の総括を任されたことを受け、リ・ソングォンも軍服を脱いで祖平統委員長に昇進した。彼は南北高官級会談の北朝鮮側団長として活動するなど、対南分野で主に活動しており、外交関連の経歴はない。2018年9月の南北首脳会談当時、平壌(ピョンヤン)を訪れた企業オーナーらに「冷麺がのどを通るのか」と“暴言”を吐いたとして、話題になった。
2018年から朝米・南北外交を主導したキム・ヨンチョル党副委員長は「ハノイでのノーディール」以降、党統一戦線部長から退いており、彼の最側近と呼ばれたリ・ソングォンも地方で「革命化教育」を受けたという。リ・ソングォンは昨年4月、最高人民会議以降、公式席上に姿を現さなかったが、8カ月後の先月末、労働党全員会議に参加した姿が確認された後、外務相に跳躍した。
対南強硬派のイメージが強いリ・ソングォンが北朝鮮外交を指揮することになったのは、米国との「長期対立」に備え、対米強硬メッセージを浮き彫りにする狙いがあるものと分析される。北朝鮮は全員会議で対米交渉の扉を完全に閉じてはいないが、「米国が対北朝鮮敵視政策を撤回しない限り、朝米対話には乗り出さない」という立場を明らかにした。北朝鮮が今年の米大統領選挙などを考慮し、当面は朝米交渉の進展よりも“持久戦”に焦点を合わせた戦略を選んだものとみられる。
一方、北朝鮮がキム・ヨンチョル-リ・ソングォンラインの復権を通じて昨年リ・スヨン-リ・ヨンホ-チェ・ソンヒ(第1外務次官)ラインが進めてきた米国一辺倒の外交から脱却し、外交の多角化に乗り出すものと予想される。北朝鮮の状況に詳しい消息筋は「リ・スヨン-リ・ヨンホ-チェ・ソンヒの外交ラインが昨年、南北関係を無視して対米外交にオールインしたが、結果が良くなかった」とし、「北朝鮮の動きをもう少し見守らなければならないが、対南ラインのリ・ソングォンを外務相に任命したのは、南北関係を無視できないという判断の結果と見られる」と述べた。ハノイでの朝米首脳会談が物別れに終わった後、北朝鮮外務省ラインは、米国が北朝鮮の安全と発展権を保障する「新たな計算法」を示さない限り交渉に応じないとして、対米強硬路線を採択し、南北関係に背を向けたが、成果はなかった。国家安保戦略研究院のチェ・ヨンファン安保戦略研究室長は、「北朝鮮が米大統領選の局面で朝米交渉の進展が難しいと判断したなら、迂回路を見出さなければならない」とし、「中国とロシアのほか、南北関係でも進展を生み出そうとするだろう」と見通した。
今年に入り、韓国政府が南北関係を進展させ、南-北-米の好循環に繋げる意志を見せている中、北朝鮮も昨年の“米国一辺倒”外交から脱却しようとするシグナルを送った形であり、いかなる化学反応が生まれるかに注目が集まっている。文在寅(ムン・ジェイン)大統領が南北関係進展の意志を強調している中、北朝鮮もリ・ソングォン新外務相を主軸とする対南ラインが対南関係で突破口をつくり上げようとするならば、立ち止まった南北関係にも変化が生まれる可能性がある。
外交経験のないリ・ソングォン新外務相の任命後、外務省と対南ラインの後続人事も注目される。党中央委員会委員のリ・ソングォンは、政治局委員だった前任者のリ・ヨンホに比べて政治的地位が低い。党中央委委員であり、国務委員会の委員として政治的地位がリ・ソングォンより高いチェ・ソンヒ第1外務次官の役割がどうなるかに関心が集中している。