北朝鮮のキム・ゲグァン外務省顧問は、「朝米間に再び対話が成立するためには、米国が我々の要求事項に全面的に納得する条件でこそ可能だ」と述べた。キム・ゲグァン顧問は11日午後、「朝鮮中央通信」に公開した個人名義の談話で「もう二度と我々が米国にだまされて時間を無駄にすることはないだろう」とし、このように語った。
キム顧問は談話で、ドナルド・トランプ米大統領が金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長に宛てた誕生日を祝う親書と、訪米したチョン・ウィヨン国家安保室長に会って文在寅(ムン・ジェイン)大統領に向けて北朝鮮に「必ず伝えてくれと頼んだ内容」を受け取った事実を確認した。キム顧問の談話は、トランプ大統領の親書に対する金委員長の“間接的な返信”と言える。朝鮮労働党中央委員会第7期第5回全員会議(12月28~31日、以下「12月の全員会議」)後、北朝鮮高官の初の対米談話だ。
キム顧問は談話で、「国務委員長とトランプ大統領の関係が悪くないのは事実だ」としながらも、「金正恩委員長がトランプ大統領に良い感情を持っていたとしても、“個人的”な感情でなければならず、国を代表して国益を代弁されるものとして、そのような私的な感情に基づいて国事を論じることはないだろう」と強調した。さらに「我々は米国との交渉テーブルで1年半以上だまされ、時間を無駄にした」とし、「我々が米国との対話に復帰する可能性があるのではないかと期待感を持ったり、そのような雰囲気を作ろうとするのは愚かな考え」だと述べた。トランプの親書に金委員長が交渉への復帰で応えることを期待してはならないということだ。
キム顧問は「人民が経験する苦労を少しでも減らそうと、一部の国連制裁(の解除)と主要な核施設(の閉鎖)の交換を提案したベトナムのような交渉は二度としない」と釘を刺した。2019年2月27~28日、ベトナムのハノイで開かれた第2回朝米首脳会談の際、金委員長が提案した「寧辺(ヨンビョン)の核施設の完全かつ永久的廃棄処分と国連制裁11件のうち5件の民需経済・人民生活に支障を来す項目の優先解除の交換」の交渉案はもはや有効ではないという主張だ。
これは一部メディアや専門家の分析とは異なり、金委員長が追加の非核化措置と一部制裁の緩和・解除交渉を排斥するという意味ではない。例えば、キム顧問は「我々の要求事項に全面的に納得する条件」なら、「朝米対話が成立する」と述べた。北朝鮮の要求事項はすでに知られている。昨年10月5日、ストックホルムでの朝米実務協議直後、キム・ミョンギル外務省巡回大使は自らの要望で開いた会見で、「安全を脅かし、発展を阻害するあらゆる障害物の除去」を求めた。金委員長は「12月の全員会議」で、韓米軍事演習(+韓国における米国の先端兵器の搬入)と制裁処置を米国の「制度圧殺野望」に挙げた。
キム顧問の談話で北朝鮮は、米国が韓米軍事演習の中止と制裁緩和・解除に関する明確かつ進展した方針を打ち出せば、対話と交渉が可能だという方針を示したものと見られる。ただし、キム顧問は「我々は、米国がそうする準備ができておらず、それができないことをよく知っている」と付け加えた。スティーブン・ビーガン米国務省北朝鮮政策特別代表がストックホルムの交渉で、6・12朝米共同声明4項目の履行に向けた構想を6時間にわたって説明しながらも、韓米軍事演習の中止と制裁の緩和・解除問題については何も語らかった事実と、トランプ大統領が「弾劾局面」から抜け出せずにいる米国内政治状況を念頭に置いた言及といえる。
キム顧問は「我々は我が道を行く」と強調した。金委員長が「12月の全員会議」で打ち出した「自力更生と制裁との長期対決」を前提とした「経済を基本戦線とした正面突破戦」にまず集中するという意味だ。
ただし、キム顧問は朝鮮半島情勢の進路と関連し、談話のキーワードといえる「要求事項」と「我が道」を具体的に説明しなかった。意図的に曖昧な表現法を取ったことに留意する必要がある。韓国の元高官は「キム・ゲグァン談話は北朝鮮の要求の最大値を示したもの」だとし、「正面突破戦というプランBの稼動局面で、プランAの交渉状況を想定したマジノ線(最低線)を明らかにすることはできなかっただろう」と指摘した。
5日、平壌(ピョンヤン)市を皮切りに、数日間北朝鮮の各地で続いた「12月の全員会議」方針を貫くための「決起大会」の写真・動画に、“反米スローガン”の横断幕やプラカードが全く登場しなかったことに注目する必要があるのもそのためだ。キム顧問が談話で米国を直接非難せず、“交渉の扉”も完全に閉ざしていないことも、この延長線上にある。元高官は「現在としては、南北米の間の接点がないだけに、一部制裁緩和の内容が盛り込まれた決議案草案を国連安保理に回覧した中ロの構想など、“他の経路”を活用する必要がある」と語った。
キム顧問は、韓国が「トランプの要請」を伝えたことと関連し、「南朝鮮当局は朝米首脳の間に特別な連絡通路が別にあるとことをまだ知らないようだ」とし、「出しゃばり」であり「お節介」であるため、「自重した方がいいだろう」と皮肉った。ただし、南北関係そのものについては言及しなかった。南北関係関連の言及が全くなかった「12月の全員会議」の“無視しながらも余地を残す”基調の延長線上にあるものと見られる。
大統領府を含め、韓国政府は12日、公式の反応を示さなかった。文在寅大統領は14日に行われる年頭記者会見で、「南北協力をさらに増進させていく現実的な方策を模索する必要性がより一層切実になった」という新年の辞(7日)の基調に基づき、南北関係の改善と朝米交渉の再開・進展の構想を明らかにしたものと予想される。