中東呼吸器症候群(MERS)が再び朝鮮半島にやってきた。2015年、38人の命を奪ったMERSの国内流入が確認されると、9日、政府は緊急関係長官会議を開き、MERS確診者と接触した全ての人に対して集中管理に乗り出すことにした。感染病専門家たちはMERS潜伏期を考えるとき、今後2週間ほど2次感染を防ぐことが重要と強調した。
疾病管理本部は8日、ソウルに居住する61歳のAさんがMERS患者と確診されたと発表した。国内にMERS確定患者が発生したのは3年ぶりだ。
Aさんは8月16日から9月6日までにクウェートに滞在し、6日夜10時35分、エミレーツ航空EK860便に搭乗した。これに先立ち8月28日には下痢などの症状でクウェート現地の病院を訪れた。下痢が6回続くなどおさまらなくなり、彼は知り合いのサムスンソウル病院の医師に電話で助けを要請したりもした。
Aさんは7日午前1時10分、経由地のドバイに到着した後、2時間が経った後の午前3時47分にEK322便に乗り、同日午後4時51分に仁川国際空港を通じて入国した。この時、Aさんと接触した航空機乗務員3人、Aさんの座席の前後3列に乗った乗客10人、車椅子サポーターなどは「密接接触者」に分類され、自宅隔離されている。「密接接触者」はAさんと2メートル以内の距離で緊密に接触した人たちだ。Aさんは航空機2階のビジネス席を利用しており、密接接触者が少なかった。
Aさんは、飛行機から乗務員に車椅子をお願いし、車椅子に乗ったまま午後5時13分に仁川空港検疫所を通過した。検疫官はAさんに「今も下痢の症状があるか」「服用中の薬があるか」などを尋ねた。Aさんは10日前に下痢症状があったが、咳・痰など呼吸器症状はなく、薬も服用していないと「健康状態質問書」に申告した。検疫官が直接体温を測ったところ、36.3度だった。検疫官は体温が正常だったため、疑いのある患者に分類せず、その後に発熱などの症状が現れれば直接病院に行かずにコールセンター(1339)に申告したり、保健所に連絡することを教育した後、検疫を終えた。
MERSはコロナウイルスの一種で、主に発熱と咳・呼吸困難などの症状が現れる。しかし、たまにAさんのように下痢や嘔吐の症状を見せる場合もある。空港の検疫でAさんを見逃したという指摘があることに対して、2015年に大韓予防医学会MERS委員長を務めたキ・モラン国立がんセンター予防医学科教授は「消化器症状や筋肉痛などの初期症状を見せる場合がたまにあるため、Aさんのような非特異症状をすべて検疫で見つけ出すシステムはほとんど不可能だ」と話した。
午後5時38分、Aさんは空港を出た。出迎えに来た妻と一緒にリムジンタクシーに乗った。ところがAさんが向かった先は家ではなく、ソウル江南区にあるサムスンソウル病院だった。知人である医者に電話をかけ、脱水症状などを訴えた。この日夕方7時22分、Aさんはサムスンソウル病院に到着した。サムスンソウル病院は2015年にMERSの2次流行の震源地となった後、応急室、外部に別途隔離診療室を設けている。発熱・呼吸器疾患者はすべて応急室に移る前に、ここで感染病症状の有無を確認をされなければならない。Aさんは知り合いの案内を受けて隔離診療室の中の音圧病室にとどまった。他の患者たちもいたが、直接接触はなかったという。病院に到着した時に37.6度だった体温は夕方8時37分には38.3度まで上がった。
夜9時34分、サムスンソウル病院は保健当局にAさんをMERSの疑いのある患者と申告した。その後、Aさんはソウル江南区保健所の陰圧隔離救急車に乗り、ソウル鍾路区大学路にあるソウル大学病院に移送された。ソウル大学病院に国が指定した隔離病床があるからだ。運転手と患者の間の空間は隔離されていた。ソウル大学病院には、この日午前零時を超えて到着した。Aさんを診療したサムスンソウル病院の医療陣4人も、密接接触者に分類された。その後、ソウル市保健環境研究院は8日午後4時、MERS陽性と確認した。
Aさんの感染経路はまだ疫学調査中だ。MERSの潜伏期間は最少2日、最大14日だ。このためクウェートで感染した可能性が高い。クウェートはMERSが発生した13カ国の一つではあるが、2016年8月以降2年間患者が発生しなかった。このため、疾病管理本部が検疫法上検疫が必ず必要だと判断している「MERS汚染地域」にも含まれていなかった。疾病管理本部の関係者は「Aさんが飛行機を乗り換えたドバイがMERSの汚染地域に該当するため、検疫を疎かにすることはなかった」と話した。
9日現在、「密接接触者」に分類され自宅に隔離された人数は22人だ。航空機に同乗した乗客など「日常接触者」440人に対しては、地方自治団体に名簿を通報した後、潜伏期14日間は管轄の保健所が定期的に有線電話、携帯ショートメールなどを通じて連絡を行う予定だ。ただし、まだAさんの移動経路を閉鎖循環テレビジョン(防犯カメラ)などを通じて疫学調査中であるため、今後接触者数はさらに増える可能性もある。
MERS拡散の有無は今後2週間が峠だ。MERSの潜伏期が最大14日だからだ。2015年に比べてAさんが接触した人の数は多くはないが、予想しなかったところで防疫システムの監視網に穴が開く場合もある。空港や病院でAさんと接触した人たちの場合、AさんがMERS陽性と確診された8日午後4時まで、短くは1時間、長くは24時間以上隔離されていない状態だったので、2次感染の懸念も排除できない。林大学江南聖心病院のイ・ジェガプ翰感染内科教授は、「密接接触した管理を徹底的にしつつ、飛行機の他の乗客など万が一にでも見逃した接触者がいないかを徹底的に見なければならない」と強調した。
Aさんの診療を担当したソウル大学病院のキム・ナムジュン感染内科教授は「現在重篤な状態ではないが、微熱があり、完治判定を下すには少なくとも2週間程度かかるものと見ている」とし、「20日頃まで他の感染者が出なければ、韓国内での伝播はないと見ることができるだろう」と話した。