農民ペク・ナムギ氏が亡くなってから20日以上が過ぎたが、解剖検査問題が争点に浮上し、遺族たちはいまだ葬儀すら営まめずにいる。警察は遺族の非妥協的な態度を批判しているが、遺族と闘争本部側は解剖検査で死因を他の要因にしようとする意図があるのではないかという疑念を持っている。遺族側の国家機関に対する不信感が深まったのは、検察、警察、与党の国会議員らが、これまで形だけの捜査や死因をめぐる焦点ぼかしなどを図ったことによるものと指摘されている。行き詰まった状況を解決するためには、このような国家機関と政界の態度から変えなければならないという声があがっているのも、そのためだ。共に民主党のパク・ジュミン議員は17日、「国家機関と政界の態度が原因で遺族と対策本部が一段と強硬になっている。警察と交渉してみる余地がない。残念でならない」と話した。
1.動画があるにもかかわらず、300日以上も死因がわからないという検察
ペク氏の死亡原因の捜査に消極的だった検察は、遺族に政府に対する不信感を抱かせた主犯だ。昨年11月14日の民衆総決起集会の現場で、ペク氏が警察の放水銃を撃たれて倒れたことを受け、遺族らは4日後、当時カン・シンミョン警察庁長とク・ウンス・ソウル警察庁長など警察幹部7人を殺人未遂などの疑いで検察に告発した。しかし、検察の捜査は300日以上にわたり、極めて遅々としていた。告発から7カ月目の今年6月に、現場指揮官だった当時の第4機動団長をはじめとする4人を一度呼んで調査しただけだ。ペク氏が死亡してから、やっとク・ウンス元ソウル警察庁長を非公開で呼んで被告発人調査を行った。
検察のこのような態度は、集会を主導した容疑で裁判で5年の実刑を言い渡され、服役しているハン・サンギュン民主労総委員長に対する態度と明らかに異なる。検察は集会から1カ月も経たない昨年12月11日、ハン氏を拘束起訴した。遺族が「公権力が選択的に動いている。検察には公正性を期待できない」として特別検事制の導入を求めるのも、そのためだ。
警察も検察同様に不信感を煽っている。イ・チョルソン警察庁長は先月26日の記者懇談会で、「農民ペク・ナムギ氏が当初病院に入院した時は、頭皮の下に出血(くも膜下出血)があったとされているが、主治医は腎不全(腎臓機能の弱化)による心臓停止で病死したと明らかにした」としながら、死因が不明確だとして、解剖検査が必要だと主張した。ペク氏は、外部からの衝撃による脳出血で入院し、長期間の入院過程で2次的に急性腎不全など、複数の病気を患った。遺族たちは、イ庁長のこのような発言が警察の首長として負うべき法的・道義的責任を回避しようとする意図によるものだとして、強く批判した。
2.今になって赤い雨合羽説を流布する与党議員
ペク・ナムキ氏が放水銃に撃たれて死亡したのではないという「赤い甘合羽説」は、国家の責任を転嫁する代表的な責任回避論だ。与党議員たちまで乗り出してこのような主張を展開しており、政府に対する遺族の不信感は一層深まっている。
極右インターネット・コミュニティの日刊ベスト貯蔵所(イルベ)で初めて流布されたとされる「赤い雨合羽説」は、昨年11月のキム・スナム検察総長の人事聴聞会で、セヌリ党のキム・ジンテ、キム・ドウプ議員が言及し、広く知られるようになった。最近、セヌリ党のナ・ギョンウォン議員も国会国政監査で改めて赤い雨合羽説に言及した。
しかし、この主張は警察さえも公式に否定しているものだ。警察は5月、ペク氏遺族が警察に対して起こした民事訴訟担当裁判部に答弁書を提出した。その際に、警察は「ペク氏は放水銃によって倒れた」と明らかにした。「赤い雨合羽を着た男性が加撃した可能性もあるため、警察には責任がない」という主張は一回もしていない。
さらに、17日、キム・ジョンフン・ソウル地方警察庁長は記者懇談会で、警察が昨年12月に「赤い雨合羽」の男性を集会と示威に関する法律違反などの嫌疑で調査する際、加撃説については全く調査していないと、初めて明らかにした。当時はすでに一部の国会議員らがこの男性に対する捜査の必要性を提起していたが、警察は当初から「赤い雨合羽」を死亡原因の一つとして真剣に検討しなかったことを自ら認めたことになる。
しかし、ペク氏が死亡すると、警察は「赤い雨合羽」を死亡原因の一つとして言及し始めた。ペク氏の遺体に対する解剖検査令状が一度棄却されると、警察は二回目の令状を申請し、「赤い雨合羽説」を司法解剖が必要な理由として明記したという。捜査機関のある関係者は「放水銃と死の間に一つの事件を挟むことで、直接死因である放水銃を間接的な死因にしようとする試み」だと批判した。
3.「病死」と言い張るソウル大病院の主治医
ソウル大学病院は、火に油を注いだ。ペク・ナムギ氏の主治医は、ペク氏の死亡診断書を書く際に、死因を「病死」と記載した。死に至らしめたた最初の原因が病気ではなく外部要因ならば、死亡の種類を「外因性」と書かなければならないという大韓医師協会の「診断書作成・交付指針」に反したことになる。ソウル大医学部の学部生や同門の医師らが「死亡診断書は間違っている」という声明を発表し、国民健康保険公団理事長と健康保険審査評価院長も「ペク氏の死亡は外因死」という意見を明らかにした。大韓医師協会も異例的に死亡診断書が間違っているという立場を示した。しかし、主治医であるペク・ソンハ科長は、遺族らの死亡診断書の訂正要請に応じていない。ペク科長は、「家族たちが積極的な延命治療に同意しなかったため、ペク氏が死亡した」として、責任を遺族に転嫁している。法廷でペク氏の死因を明らかにする際に、死亡診断書は参照資料にすぎず、決定的な資料ではない。しかし、朴槿恵(パク・クネ)大統領の主治医出身医師が院長を務める病院が、ペク氏の死因を「病死」と言い張る死亡診断書を固守しており、遺族たちは一層国に対する不信感を募らせている。
4.対立の解決を困難にする極端な遺族嫌悪
遺族嫌悪発言は、対立を極端まで突き進めている。主治医のペク教授が「遺族が延命治療に反対して死亡した。したがって病死」と明らかにした後、国会議員や保守団体代表などはペク氏死亡の責任を遺族に押し付けている。セヌリ党のキム・ジンテ議員はこの4日、フェイスブックに「(家族の要請で)積極的な治療を行ったなら、(ペク氏は)死亡しなかっただろう」とし、「その娘は父親が死亡した日にバリにいて、フェイスブックに『今夜キャンドルを灯してください。父を守ってください』と書いた」と露骨な非難を浴びせた。ウェブトゥーン作家のユン・ソイン氏も今月4日、自由経済院の一コマ漫画で「父は集中治療室のベッドに、私は休養地リゾートのサンベッドに」というメッセージと共に、ペク・ミンジュファ(民主花)と見える女性が浜辺でビキニを着て「父を返してください、×のような国」とフェイスブックに書く姿を描いた。チャン・ギジョン自由青年連合代表が、遺族を不作為による殺人罪で検察に告発するとフェイスブックを通じて明らかにする場面もあった。遺族の弁護人団は、先週11日、チャン代表とユン・ソイン氏を虚偽事実の適示による名誉毀損で告訴した。共に民主党のピョ・チャンウォン議員は「遺族を加害者に仕立て上げようとするこのような行動が続いているため、仲裁が困難を極めている」として、「闘争本部は来月12日、民衆総決起を強く進めている。警察も車壁や放水銃を動員すると見られる。その前に政府が謝罪し、特検を受け入れて遺族側と平和に解決してほしいが、それは難しそうだ」と話した。