本文に移動

韓国裁判所、情報機関による証拠ねつ造事件の被害者の起訴に「公訴権の乱用」

登録:2016-09-01 22:49 修正:2016-09-02 07:31
ユ・ウソン氏「国家情報院職員の証拠ねつ造」告訴した直後 
検察、起訴猶予した4年前の容疑を理由に起訴 
裁判所「検察の起訴に何らかの意図があった」と指摘 
検察が報復として起訴したことを事実上認める
大法院が昨年10月、ユ・ウソン氏の国家保安法違反の疑いについて無罪を言い渡した直後、ユ氏が大法院の法廷を後にしている=キム・テヒョン記者//ハンギョレ新聞社

 「国家情報院職員による証拠ねつ造事件」の被害者のユ・ウソン氏(36)が、北朝鮮送金事件の2審で、原審より300万ウォン(約28万円)少ない罰金刑を言い渡された。裁判所は、検察が4年前に起訴猶予処分を下したユ氏の外国為替取引法違反の容疑に対し、今回起訴に踏み切ったのには「何らかの意図があった」として、違法との判断を示した。国情院職員の証拠ねつ造を告訴したユ氏への報復として、検察がユ氏を起訴したことを裁判所が認めたのだ。

 ソウル高裁刑事5部(部長判事ユン・ジュン)は1日、外国為替取引法違反と偽計公務執行妨害の容疑で起訴されたユ被告の控訴審で、「外国為替取引法違反については公訴棄却して、偽計による公務執行妨害の部分だけは原審の判断を維持する」として、原審を破棄して罰金700万ウォン(約65万円)を言い渡した。

 ソウル高裁は外国為替取引法違反部分を公訴棄却とし、「検事が今回の事件を起訴したのは、通常の適正な訴追裁量権の行使とは言い難く、何らかの意図があるとみられるため、公訴権を恣意的に行使したものとして、違法と判断できる」として、検察を批判した。

 ユ氏は、脱北者の対北朝鮮送金を仲介する、いわゆる「プロドン」事業を通じて13億ウォン(約1億2千万円)を北朝鮮に不法搬出した疑い(外国為替取引法違反)で、2014年5月に起訴された。また、国籍を偽って韓国の公務員試験を受けており、脱北者定着金を不当に受け取った容疑(偽計による公務執行妨害)もかけられていた。

 2009年9月に同事件を捜査したソウル東部地検は「ユ被告が初犯であり、預金口座を貸しただけで加担の程度が軽微であり、犯行を深く反省している」として、翌年3月に起訴猶予処分を下した。検察は、被疑者が犯行を犯したとしても、その程度が軽微であるか、初犯の場合は裁判にかけずに起訴猶予処分を下してきた。

 しかし、当時、ソウル中央地検刑事2部(部長イ・ドゥボン)は起訴猶予処分を下してから4年後の2014年、ユ氏を同じ容疑で起訴した。ユ氏と彼を弁護した民主社会のための弁護士会(民弁)のチャン・ギョンウク弁護士などが「国情院職員たちがユ氏の出入国記録を偽造した」事実を中国当局の確認の下で明らかにし、彼らと担当検事を告訴した直後だった。検察は「過去に起訴猶予した事案だが、ユ氏が北朝鮮送金に直接加担した情況が今回さらに見つかった。起訴猶予した当時よりも金額が5000万ウォン(約460万円)ほど増えた」として、保守団体代表の告発を受け入れ、ユ氏を起訴したのだ。これに対し、当時ユ氏の代理人を務めたキム・ヨンミン弁護士は「スパイ事件証拠改ねつ造が明らかになってから、検察が急に起訴猶予処分を下した事件を捜査し始めた。報復のための起訴で、公訴権の乱用」だと批判した。

 これに先立ち、国民参加裁判(裁判人制度による裁判)で行なわれた1審で、外国為替取引法違反の容疑に対し、陪審員7人のうち4人が「検察の公訴権の乱用」との判断を下した。しかし、裁判を担当したソウル中央地裁刑事24部(裁判長ユ・ナムグン)は「検察の公訴権の乱用ではない」として、陪審員たちと異なる結論を下した。1審裁判所は「検事が起訴猶予処分を下してから時効満了の前に起訴したとしても、基礎事実が変わって起訴する必要性が発生した場合は、恣意的な起訴とは言えない」と判断した。これにより、ユ氏は外国為替取引法違反と偽計公務執行妨害とも有罪の判決を受け、罰金1000万ウォン(約92万円)を言い渡された。

 しかし、2審裁判所は外国為替取引法違反を起訴したのは、検察が一定の意図を持って権限を乱用したものだと判断した。裁判所は「従来の事件の被疑事実と現在の公訴事実の間に、新たに公訴を提起するだけの意味のある事情の変更がない」としたうえで、「ユ氏に対する新しい告発は、検察事務規則に則って却下されるべきだった」と指摘した。さらに、「これによってユ氏が実質的な不利益を被ったことが明らかであり、同事件に対する起訴は訴追裁量権を著しく逸脱した場合に該当すると認められる」との判断を示した

 これに先立ち、ユ氏は昨年10月、国家保安法上のスパイなどの容疑で起訴された「ソウル市公務員スパイ事件」でスパイや特殊潜入・脱出、便宜提供など国家保安法違反のすべての容疑に対し、大法院(最高裁判所)で無罪が確定した。ただし、中国国籍という事実を隠し、北朝鮮離脱住民であるかのように政府をだまし、不法に支援金を受け取り、大韓民国のパスポートまで発給してもらった容疑(北朝鮮離脱住民保護法違反など)に対しては、有罪が認められ、懲役1年に執行猶予2年、追徴金2565万ウォン(約240万円)が確定した。

キム・ジフン記者(お問い合わせ japan@hani.co.kr )

韓国語原文入力: 2016-09-01 12:56

https://www.hani.co.kr/arti/society/society_general/759598.html訳H.J

関連記事