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[インタビュー]加湿器殺菌剤は「茶の間のセウォル号」 被害者は最小で29万人  

登録:2016-05-12 06:45 修正:2016-05-12 07:03
被害者家族を代弁してきたチェ・イェヨン環境保健市民センター所長

2011年疾病管理本部の調査「国民の 18.1%が使用」
被害減らす機会を数回逃す … 「国家は何のために存在するのか」

 加湿器殺菌剤事件で最も恐ろしいのは、被害規模の不確実性である。 1994年、当時ユゴン(現在のSKケミカル)が加湿器殺菌剤を初めて開発してから2011年末に加湿器殺菌剤市販が中断されるまで、該当製品を使った人のうち何人くらいが被害に遭って亡くなっていったのか分からない。 事件発生後5年間、被害家族たちと一緒にこの問題に対応して来た環境保健市民センターのチェ・イェヨン所長(51)は、2日にソウル市貞洞(チョンドン)の事務室で会った時と3日のハンギョレとの電話インタビューを通して、「加湿器殺菌剤を使って被害を被った人々は最小で29万人、最大で227万人と推算される。しかしこれまでに被害を届け出た人は1528人で、最小値の1%にもならない。被害者は一体どこへ行ってしまったのか」と問題提起をした。

 被害規模推算の根拠は次の通り。2011年疾病管理本部の調査の結果、国民の18.1%が加湿器殺菌剤を使ったと答えた。 当時韓国の人口は4941万人なので使用者は894万人にあたる。 問題のオキシー・レキット・ベンキーザーが湖西大に委託研究を依頼した結果、加湿器殺菌剤実験で60回中2回は毒性成分が高濃度で測定された。894万人の60分の2は 29万人に当たる。

 227万人も誇張された数値ではない。ソウル大保健大学院職業環境健康研究室が去年12月に実施した世論調査では、国民の22%(1087万人)が加湿器殺菌剤の使用経験があり、このうち20.9%(227万人)は健康被害の経験があると回答した。 幸か不幸か、加湿器殺菌剤被害に対する国民的関心が爆発した先月から、環境保健市民センターには日に100件を超える被害届の電話が殺到している。

 チェ所長は、韓国社会が加湿器殺菌剤の被害規模を大きく減らすことができる機会を数回にわたって逃したと見ている。 最初の機会は1994年にユゴンが加湿器殺菌剤成分を開発した時だ。この時点で安全性検討をまともにすべきだった。 二度目の機会は、加湿器殺菌剤市場の80%ほどを占めたオキシー側が2001年に、製品成分を問題のポリヘキサメチレングアニジン(PHMG)と塩化エトキシエチルグアニジン(PGH)に替えた時だ。 この時点でもやはり、人体への有害性を確かめてみるべきだった。 三度目は2006~2007年である。 ソウル市内の小児科に子供たちが呼吸困難症状で運ばれてきて、まともな処置も受けられずに死亡していった時期、保健福祉部疾病管理本部がウイルス関連調査だけを行なって「連関性なし」とするのでなく化学薬品の関連性に対しても疑いをもったなら、被害規模を減らすことができた。

 四度目の機会もあった。 2011年 8月31日、政府が疫学調査結果を発表した時だ。この時点にでも問題の加湿器殺菌剤製品名を公表していたなら、それだけ被害を減らすことができた。 さらには、有害性評価を委託されたソウル大と湖西大の研究チームがまともな結果を出したとしたら、2012年に被害者がオキシーなど会社側を告訴した時に検察と警察が手をこまねいてばかりいないで、まともな捜査を迅速に行なっていたとしたら、被害者の苦痛が今のように大きくはならなかったはずだ。

 それで、告訴後3年以上ずるずる引き延ばしたあげく、今になってようやくチームを立ち上げ捜査に乗り出した検察の歩みを眺めるチェ所長の目は不安でいっぱいだ。 彼は「捜査をぐずぐず引き延ばしている間に被害者の30%以上が問題提起できる公訴時効を越えてしまったし、同じく加湿器殺菌製品を販売したエギョングループに対しては捜査すらしていない。また肺以外の部位に対する有害性については検討すらしていないようだ」と指摘した。

 これまで明らかになった環境部と保健福祉部疾病管理本部の無責任な対応とともに、国家の存在意義についてまた別の疑問符を投げかけざるを得ない理由だ。 「今回の事件をきっかけに、国家の存在意義に疑問を投げざるを得ない。 いったい韓国の公務員は誰のために働くのか。セウォル号とまったく同じ質問を投げることになる。加湿器殺菌剤事件が“茶の間のセウォル号“と言われるのは決してレトリックではない」。

 チェ所長はハンギョレ新聞社と同い年である公害追放運動連合が1988年に結成された時から始まって、1994年環境運動連合の専従を経て2010年環境保健市民センター所長となった。 翌年露わになった加湿器殺菌剤事件をしっかとつかみ、人々の無反応に近い反応にも屈しないで 5年以上粘り強く闘って来た。 彼は最近マスコミのインタビュー要請に目がまわるほど忙しい。「加湿器殺菌剤被害家族の集まり」と一緒に会社と国家を相手とする民・刑事上訴訟提起はもちろん、オキシー製品不買運動にも深く関与している。

 チェ所長は被害家族たちと共に、これまで有害性の確認された10個の製品の製造・販社会社19社の前職現職役職員 256人を告訴・告発し環境運動連合などとともにオキシ製品不買運動などを展開して来た。チェ所長は4日、英国ロンドンに発つ。 オキシー・レキット・ベンキーザー本社の株主総会が子供の日の5日に開かれるからだ。ちょうど1年前にもロンドンのレキット・ベンキーザー本社を抗議訪問した事があるチェ所長は、加湿器殺菌剤で亡くなったキム・スンジュン君の父親キム・ドクチョン氏などと共にレキット・ベンキーザー本社前で記者会見を開いて企業の非道徳性を広く知らせる一方、本社役員をロンドン検察庁に告発する計画だ。

 チェ所長は今回の事件を通して露わになった多国籍企業の「意図的二重基準」の問題も提起するつもりだ。「ヨーロッパは既に1998年に企業がバイオサイド(殺生成分) 製品を販売する時には事前に安全性を立証するよう定めたが、韓国にはそんなものはない。 レキット・ベンキーザー社が2001年オキシーを買収した当時、英国本社とは異なる二重の基準を適用したのだ。 ヨーロッパではオキシーの『ニュー加湿器当番』みたいな製品は売ることができないわけだ」

 チェ所長は幾多の犠牲を払っている今回の事件から韓国社会が得るべき教訓はと尋ねると。意外に素朴な答えを出した。 「おおげさな話は要りません。どうか、スプレー製品を使わないでください。これはみんな空気中に撒布される製品じゃないですか。 使用者が呼吸器を通して飲み込むという話です。でも、スプレー製品の中で人体に有害でないという安全性の確認された製品は一つもありません。 加湿器殺菌剤問題が明らかになった5年間に、類似の被害を出し得る製品に対する安全処置も全くなされない国が韓国です」

チョン・ジョンフィ記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

韓国語原文入力: 2016-05-03 16:15

https://www.hani.co.kr/arti/society/environment/742294.html  訳A.K

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