ホームエバーの労働者解雇を扱った映画
現実とまったく同じ姿に涙を流す
勤務7年目の労組支部長チョン氏
「息子くらいの年齢の管理職に反省文を書かせられ」
10年目の労組支部長オ氏
「労組設立のとき、本当に怖かったです」
7年目の労組支部長チェ氏
「人間的な扱いを受けて働きたい」
スクリーンの外の労働者たちが映画の中の労働者たちと一緒に泣いた。「一本の映画がどうしてこんなに、私の人生をそっくりそのまま語ることができるんでしょう」。 大型マート勤務9年目のレジ担当 キム・ヒョソン氏(35)が、涙まじりに話した。22日午後、ソウル広津区紫陽洞(カンジング・チャヤンドン)のロッテシネマ建国大学入口館で開かれた映画『カート』の試写会を訪れた観客たちは、とまどった表情で、涙をボロボロこぼしている人々の脇を通り過ぎていった。
「今日私は解雇された」というコピーの入った映画『カート』は、「ザ・マート」という大型マートで働いていて突然解雇された非正規職労働者たちの闘いや労働組合設立の過程を描いている。2007年にイーランドグループから整理解雇されたホームエバーの労働者たちの、510日におよぶ長期ストがシナリオの基になっている。 昨年3月の労組結成後、1年6か月目の今月初めに賃金引き上げ案の暫定合意を引き出した民主労総サービス連盟ホームプラス労組の組合員5人にとって、映画は現実そのものだった。
映画の中の労働者たちは、一方的な整理解雇通知を受けた後、労組を作る。キム氏たちが実際所属するホームプラス労組は、ソウル永登浦(ヨンドゥンポ)店の社内映画サークルで会ったPT(パートタイムの非正規職)が集まって、互いの哀歓を分かち合う中で始まった。人格的に無視されがちな環境は彼女たちを一層強固に結び付けた。映画の中の台詞のように、単純労働をする“透明人間”扱いを受けながら、彼女たちが期待できたのは、年に100~150ウォン上がる時給が全てだったという。
ホームプラスで働いて7年目の、労組永登浦支部長チョン・ミファ氏(53)は「息子くらいの若い管理職がおばさんたちを軍隊式に扱った。一言で簡単に解雇されたりもしたが、今でもこんなところがあるのかと思った」と言って、初めてマートの仕事を始めたときを思い起こした。 映画の中でも、ザ・マートの30代正規職男性管理職たちは、ミスをした40~50代のパートタイム女性らを廊下の真ん中に置かれた“考える椅子”に座らせて反省文を書かせる。ザ・マートの職員たちが休む空間のあちこちには「私たちは常に乙です」(訳注:甲が強者、乙が弱者を表現している)と書かれたステッカーが貼られている。彼女たちはリップスティックの色も髪の色も、自分の好きにはできない。
勤務4年目になるレジ担当のソウル地域本部長キム・ジンスク氏(35)は「顧客が腹を立てたら、こちらに誤りがなくても、とにかく謝らなければならなかった。食事中に呼び出されて『申し訳ありません』と言わなければならなかった。余りにも屈辱的だった」と語った。映画の中の“ヘミ”も職員休憩室までやって来た“サンジンの母さん”(「質の悪い<韓国語でチンサン>客」を指すマート職員間の隠語。サンジンはチンサンを逆さにしたもの)の前にひざまずいて許しを請う。
キム・ジンスク氏は「このままでは、ただ切られて終わりではないかという思いから、同僚9人と労組を作った」という。長く困難な戦いの始まりだった。延長勤労手当てを求めて訴訟を起こした。法に基づいて団体交渉を要求しても無視された。返ってくるのは懲戒処分だった。 店舗単位で順繰りにストをやった。そんなふうに闘って闘って、現在はホームプラスの全労働者1万2000人余のうち、2500人余りが組合員になった。
10年目になるレジ担当のオ・ギョンボク氏(49・仁川(インチョン)の間石(カンソク)支部長)は、ザ・マートの正規職出身の労組委員長がスト87日目に投げかけた言葉が切々と感じられたと言った。「『雨垂れが果たして岩に穴をあけることができるだろうか』この台詞同様、昨年初めて労組を設立した時、その大きな会社を相手に私たちがうまくやれるか、本当に怖かったです」
永登浦支店のチョン支部長は、今年1月の初めてのストライキが忘れられないと話した。 「組合員たちはストライキに大きな負担を感じていました。売り場を回りながら『姉さんたち、ストに入りました。出てきて下さい』と言っても、みんなためらって出てこないんです。そのうち、一人の姉さん(訳注:韓国では、血縁の兄弟姉妹でなくても実の姉妹のように呼び合うのが普通)が『レジを閉めて!』と言って飛び出すと、他の人たちも一斉に立ち上がって出てきたんです。売り場の外に出てきて抱き合って泣きました。」 会社の弾圧を恐れて、労組に加入した事を隠さなければならなかった組合員たちが、お互いの存在を初めて確認した瞬間だった。
経歴7年のレジ担当で7月に水原霊通(スウォン・ヨントン)支部長になったチェ・サンミ氏(49)は「タクシーから降りる時や、家で電話を切る時も、無意識に『お客様ありがとうございます』と言ってしまうほどストレスを受けている。何よりも、人間的な扱いを受けて働きたい」と語った。