6月4日に発足する韓国の新政権が向き合う最大のジレンマの一つは、在韓米軍になるだろう。最近、トランプ政権の内外から出ている要求は、大きく三つある。一つ目は防衛費分担金をはじめとする米国による韓国防衛費の増額だ。これは、ドナルド・トランプ大統領の長年の持論だ。二つ目は在韓米軍の縮小だ。これについて最近、米国のウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は、トランプ政権が在韓米軍28500人のうち4500人を、グアムをはじめとするインド太平洋の他の地域に移転する案を検討していると報じた。三つ目は在韓米軍の役割変更だ。在韓米軍の戦略的柔軟性は、2000年代初頭以降、米国が常に追求してきたことであり、最近、在韓米軍のザビエル・ブランソン司令官が韓国について「日本と中国本土の間に浮かんでいる島、あるいは固定された空母」と言い、改めて注目されている。
しかし、在韓米軍の縮小と役割変更は相容れない組み合わせだ。これは米国内の異論からも確認できる。国防総省のエルブリッジ・コルビー国防次官(政策担当)をはじめとする一部の人々は、中国を効果的にけん制するためには、在韓米軍を縮小し、グアムなどに移転するほうが望ましいと判断している。しかしブランソン将軍は、対中けん制のうえでも中国に最も近い在韓米軍の戦力を維持・強化するほうがより有効だと主張する。「われわれが前方に配置されることによって、事実上、敵の『接近阻止・領域拒否』(A2/AD)の領域内で、そして彼らの心理的空間内で作戦することになる」ということだ。
在韓米軍の司令官として縮小の議論を打ち消すために、在韓米軍の対中けん制の役割を強調したのだ。
このような米国内の反対意見がどのように調整されるかについては、コルビー次官の主導で作成中の「国防戦略指針」が公開されないと分からないだろう。しかし、私たちが注目すべき点がある。方法は違うが、米国内では異口同音に、米国の主要戦略は中国、特に両岸紛争の対応に備えることだということに集中しており、縮小であれ維持・強化であれ、在韓米軍の変動もこのような脈絡で行われる公算が高いということだ。これは、トランプ政権が韓国の新政権を相手に、防衛費分担金の引き上げ要求はもちろん、在韓米軍の役割変更と縮小を同時に切り出し、二者択一の圧力をかける可能性があることを示唆する。
これは、韓国にとっては大きなジレンマとして作用することになるだろう。戦略的柔軟性を受け入れれば望まない戦争に巻き込まれる懸念も強まり、尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権期に悪化の一途をたどっていた韓中関係の回復にも大きな障害となってしまう。逆に米国が縮小を推進すれば、「安全保障空白論」とあわせて保守陣営はその責任を韓国政府に転嫁し、政争の手段とするだろう。このような時こそ、国益中心の判断が重要だ。在韓米軍の規模・役割・分担金は現状維持が望ましいと思われるかもしれないが、現実的に可能だとは考えられない。そこで筆者は、縮小も受け入れる準備をするほうが良いと考える。縮小を防ぐために分担金を引き上げて米軍の役割変更も受け入れるほうが、莫大な国益損失に当たると考えるからだ。
ところで、私たちの思考と視野は、「より大きな韓国」を目指す必要がある。これまでは米国による議題にとらわれて来た。21世紀以降、すべての米国の政権が戦略的柔軟性を追求した背景には、台湾有事の際には在韓米軍投入のオプションを持つということが核心にある。そして韓国は、これを認めるべきかどうかについて悩んできた。このように「米国の範囲」にとらわれると、ジレンマを解決できる道はさらに狭まってしまう。そこで私たちは、二つの点を理解しなければならない。一つ目は、在韓米軍の役割変更の試みは米国の中国封じ込め戦略の一部だということだ。二つ目は、台湾有事の際には、在韓米軍が投入されるかどうかとそのレベルに影響を受けるとはいえ、韓国もまた重大な危機に直面せざるをえないということだ。したがって、「より大きな韓国」は、台湾海峡をはじめとする東アジアの安定と平和を増進するためにどのような方法がより望ましいのかについて、米国をはじめとする国際社会と「大きな枠組み」から真剣に激しく討論できなければならないということだ。
米国が同盟国とともにこれまで、そして今後追求しようとする方向は、軍備増強と同盟強化による「中国封じ込め一辺倒」だ。封じ込めの趣旨は、中国が武力による台湾統一を試みる場合、中国が支払うことになる代価の大きさを理解させ、これを阻止するところに焦点を合わせている。しかし、この手法は順機能より逆機能のほうが大きい。中国はこれを台湾独立の扇動の意図とみなし、より強硬な態度を取っている。台湾に対する武力の示威を日常化する一方、外部勢力に対しても、介入の代価は非常に大きなものになると脅している。その結果、軍拡競争と軍事的緊張が激化し、台湾海峡の危機指数も高まり続けた。これは、一方では民生と気候変動の対応に用いるべき大切な資源の浪費を招き、もう一方では偶発的な衝突と戦争拡大のリスクを高めている。
いまこそ、このような「悪循環の泥沼」から抜け出さなければならない。政府と民間を問わず、韓国も役割を探らなければならない。全世界的に台湾海峡の未来について警告と懸念の声は高いが、代案の動きは見当たらないのだから、なおさらだ。
韓国は東アジアの一員として、国際社会に議論を提案できる議題は、多岐にわたり検討できるはずだ。筆者が求めたいのは「恐怖の共有」だ。台湾海峡の危機が高まり続けている現状は「一方的な恐怖」の産物だ。一方的な恐怖は、相手を脅威として認識し、敵対的な言動や軍事態勢を強化する理由として作用する。しかし、恐怖は相手が存在するゲームだ。どちらか一方の恐怖が相手に対する敵対感として表れれば、その相手も同様に敵対的な言動で応酬する傾向が強まるということだ。
これに対して「共有された恐怖」は、共感と連帯を生じる基礎になりえる。自分も怖いが相手も怖がっていることを知ることになれば、自制の美徳とコミュニケーションの可能性が高まるためだ。そのため、われわれは恐怖の共有を「同盟の連鎖」に対抗する議論に昇華させる必要がある。いかなる理由であれ、両岸戦争が勃発して米国が介入すれば、第1次世界大戦と同様に、関連国が同盟の鎖に巻き込まれ、戦火が「同盟の風」に乗って、東アジア全体に広がる可能性がある。米国の同盟国である韓国・日本・オーストラリア・フィリピンが、中国の同盟国である朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮)と朝鮮の同盟国であるロシアが介入・関与する可能性があるためだ。
このような恐ろしいシナリオは、恐怖の方程式を再構成する必要があることを物語る。冷戦時代からも、その含意を見出すことができる。敵対的競争心に陶酔して軍備競争に没頭した米国とソ連が、各種の軍備統制・軍縮条約に合意し、冷戦終結に合意できたのは、「核戦争はすべてを絶滅できる」という恐怖の共有が本質的な背景にあったためだ。
韓国は両岸関係の第三者であり関与してはならないという考えだけでは不十分だ。韓国は米国の同盟国だから米国を助けるべきだとする考えは危険極まりない。両岸戦争が勃発した場合、朝鮮の挑発の可能性にだけ焦点を合わせるという見方は、まさに朝鮮が感じている恐怖を無視しているものだ。したがって韓国は、台湾問題を取り巻く「敵対的かつ不安な現状維持」を「平和的かつ安定した現状維持」に変えるよう、声を上げなければならない。軍備統制と信頼構築を通じて、軍事的・戦略的安定を模索する方法を見出そうと提案しなければならない。恐怖の自覚と共有は、その出発点になりえるだろう。