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[コラム]「一人がいい」という韓国、その少子化対策

登録:2024-01-24 00:36 修正:2024-01-24 08:37
ファンボ・ヨン|論説委員
国民の力のハン・ドンフン非常対策委員長が18日、江南区の中小企業「ヒューレイポジティブ」で、総選挙第1号公約の少子化対策「仕事・家族みな幸せ」を発表している/聯合ニュース

 合計特殊出生率が0.78人にまで墜落したという統計が発表された時、人口学者たちも大きく動揺した。かつて、ドイツ統一から5年後の1994年、旧東ドイツ地域の出生率は0.77人だった。既存の国家システムが崩壊し、極端な不確実性の支配する時期でなければ出てきそうにない出生率が、2022年の韓国社会に出てきたわけだ。ソウル大学保健大学院のチョ・ヨンテ教授は自著『人口 未来 共存』で「人類の歴史を通じて、伝染病のまん延や戦争、体制の崩壊に直面しない限り、1未満の出生率は人口学ではほとんどあり得ない数字だと考えられていた。それがあり得るということを韓国は示している」と述べている。

 実際に韓国の出生率は2018年(0.98人)に1.0人を下回ってからというもの、なかなか上昇に転じない。経済協力開発機構(OECD)加盟国のうち、1.0人を下回っている国は韓国だけだ。このままでは今後50年間で人口が30%減少し、人口構造も急激に高齢化するだろうという暗い見通しが示されている。ニューヨーク・タイムズがコラムで「韓国の出生率は、14世紀のペストが欧州にもたらした人口減少を上回る水準」と述べたほどだ。

 4月の総選挙を前に与野党は18日、少子化対策を主要公約として打ち出した。二大政党が国家的議題の解決を共に図るというのは勇気づけられるものだと言える。政策の実効性を高めるために苦悩した跡も見られる。父親の1カ月の出産休暇の義務付け(国民の力)や、申請さえすれば自動的に育児休職が取れる制度の導入(国民の力、共に民主党)が代表的な例だ。女性にのしかかる「ワンオペ育児」の負担や、育児休職を使いたくても顔色をうかがわなければならない現実を考慮した措置だ。子育ての経済的負担を軽減するために「結婚・出産支援金」のような破格の現金支援公約(民主党)も登場した。

 にもかかわらず世論は冷やかだ。なぜだろうか。

 現在の人口規模を維持しうる出生率は2.1人だ。それに満たなければ「少子化社会」、1.3人未満は「超少子化社会」とみなされる。「少産」を奨励した家族計画事業(1996年終了)が30年以上も続いている間に、韓国は少子化社会に突入(1983年)してしまった。続いて2002年に超少子化社会となり、出生率が1.08人にまで低下した2005年になってようやく、政府はあわてて「少子高齢社会基本計画」の樹立に乗り出した。保育インフラが劣悪ながら整備され、各省庁は百貨店式の対策を先を争って打ち出した。少なくとも2015年までは、出生率が上下動を繰り返しはしたものの、それ以上は悪化しないように思われた。

 しかし出生率はその後、右肩下がりだ。数百兆ウォンの予算を投じても政策の実効性が上がらないため、問題の本質に触れるべきだという指摘が政府の内外にあふれた。こうして政府の対策基調は、少しずつではあるが一歩一歩前進してきた。朴槿恵(パク・クネ)政権は青年層に対する雇用や住居の支援を少子化対策として打ち出した。文在寅(ムン・ジェイン)政権は初めて性平等というキーワードを用いた。単なる出産奨励にとどまらず、女性の暮らしの問題に関心を持たなければならない、との自覚からだった。

共に民主党のイ・ジェミョン代表が18日、少子化総合対策発表会で発言している/聯合ニュース

 だが、今回の与野党の公約を見てみると、政界の少子化問題に対する認識は一歩も進展していない。長時間労働を誘発する政策も撤回せずに働く親の育児負担を軽減したところで、子どもを産む気がないのに第一子、第二子、第三子を産むたびに現金支援を増やしたところで、微動だにしないだろう。何が必要なのかも分からないまま、青年たちの手に直ちに何かを握らせなければならないという性急さばかりが先走っている格好だ。「トイレに行く気がまったくない人のためにトイレに行く道を作り、表示板を作り、休憩所を作り、トイレを大理石と宝石で飾っている」(イ・グァンフ政治学博士)のと同じだ。制度と現実の隙間が大きいのに、依然として制度ばかりを磨き上げればよいと考えているのか。

 最近、家具ブランド「イケア」が38カ国の消費者に対して実施した調査の結果(2023ライフアットホーム)は意味深長だ。韓国は「家で一人でいる時が楽しい」と答えた人の割合が世界1位、「家で家族と一緒に笑うと楽しいと感じる」は最下位だった。競争において個人単位で生き残らなければならない自己責任時代の孤独がにじみ出ている。韓国女性政策研究院のキム・ウンジ研究委員は「結婚や子どもを持つことは、労働者としての生存を脅かす危険な事件だ、と青年たちには認識される。社会が女性の新たな役割に適応すれば、新たな家族のバランスが出現して出生率が回復するという西欧社会の教訓を振り返るべき時に来ている」と強調する。

 であれば、もはや「少子化対策」という用語が韓国社会に必要なのかも疑問だ。単に生きやすい社会を作るためのビジョンを提示すれば済む話なのではないか。

//ハンギョレ新聞社

ファンボ・ヨン|論説委員 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1125572.html韓国語原文入力:2024-01-23 15:35
訳D.K

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