韓国最高裁(大法院)は2018年に日帝時代(日本の植民地時代)の強制動員被害者の損害賠償請求を認めた。20年近い訴訟の末に敗訴が確定したが、日本企業はこの判決に従わなかった。日本政府を信じたためだ。日本政府は一国の最高裁の判決を否定し、非難した。被害者の権利行使(強制執行)に対し、経済報復で警告した。日本政府のメッセージは簡潔だった。日本企業の資産が現金化され被害者に手元に入った場合は、韓国はさらに大きな攻撃に直面するだろうというものだ。
韓国外交部は4日、強制動員問題の解決策を議論するとして官民協議会を発足させた。「韓日関係改善のための解決策」と謳うその中身は、日本の予告された攻撃を避けられる案だ。さらに露骨に言えば、日本企業が強制執行されない案だ。それをなぜ韓国政府が作らなければならないのかという質問は、常識的で妥当だ。妥協すべきだと主張する側は言い分はこうだ。「日本の立場は非常に強硬だ。韓日関係の破綻は防がなければならない」
韓国政府が妥協案作りに公に乗り出した中、妥協の選択肢がどこからどこまでなのかを正確に確認しなければならない。「日本の謝罪の有無」と「損害賠償債権弁済の財源」を基準に、妥協案は6つにまとめられる。
まず謝罪問題。強制動員は個別企業の問題を越えて、帝国主義日本が侵略戦争に突き進み、組織的に行った植民地収奪犯罪だ。当然、日本政府と加害企業のいずれも被害者に謝罪しなければならないが、被害者は少なくとも日本企業の謝罪は行われるべきだと強く主張してきた。妥協案に日本企業の謝罪が含まれるかが第一の争点だ。
次に弁済財源の問題。日本企業の債務を代わりに履行(代位弁済)するために、弁済の財源をどう確保するかが争点になる。お金にも名前がある。誰が財源を負担するかは、誰が責任を負うかの問題であるからだ。3つの方法を仮定してみることができる。韓国側(韓国政府または韓国企業)がすべて負担する案(韓国全部負担案)、韓国全部負担案に判決と関連のない日本企業などが自発的に参加する案(日本自発的参加案)、日本の自発的参加案に三菱重工業など敗訴した日本企業まで参加する案(被告企業参加案)だ。判決の履行ではないが、後者に行くほど日本側の責任が明確になる構造だ。この3つの弁済の財源調達案に、日本企業が謝罪するかどうかによる場合の数を考えると、6つの案が出てくる。
韓国外交部は2019年6月、「訴訟当事者である日本企業を含む韓日両国企業の自発的拠出金」で財源を確保する案を公開的に提案した。謝罪は言及されなかった。謝罪のない「被告企業参加案」と言える。被害者側は当時、事前議論がなかったという手続き的問題と共に、謝罪の要求がない点を挙げ、強く抗議した。
2019年末に登場したムン・ヒサン案は、謝罪のない「日本の自発的参加案」だった。被告企業の負担が減ったという点で、先の外交部案より後退した案だった。日本政界の反応は好意的だったようだが、被害者側はもちろん韓国国内の支持も得られなかった。最近報道された「韓日企業300億ウォン(約31億円3千万円)代位弁済説」などもこの案に該当する。
一部の専門家らは、日本はいかなる責任も拒否するとみられるため、「韓国全部負担案」が唯一の案だと主張する。しかし、謝罪のない韓国全部負担案は、政府が司法府の判決を事実上無効にする措置だ。強制動員加害企業に一方的な免罪符を与える最悪の妥協案だ。
韓国政府が妥協の主体になった以上、被害者も説得しなければならない。敗訴した日本企業ではない第三者が被害者の債権を弁済するためには、被害者の同意が法律的に必ず必要だ。筆者は最近、強制動員訴訟に参加した被害者と遺族の方々に会う機会があった。二人の言葉を伝える。「私は若い頃、日本で本当に苦労した。ごめんなさい、申し訳なかったという言葉を必ず聞きたい」。「謝罪なしで終われば、亡くなった父親が裁判しながら闘った過程が全て無効になるのではないか。謝罪が必ず必要だ」
どんな妥協をするのか。韓日関係だけでなく、被害者のための妥協、外交と交渉になることを望む。「謝罪はないが、亡くなる前にこのお金でも早く受け取りなさい」と被害者に圧力をかける結末にならないことを、切に願う。