非核化と平和体制を議論するための朝米間実務交渉が今月中旬に始まると、マイク・ポンペオ米国務長官が明らかにした。前日、金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長とドナルド・トランプ大統領の歴史的な板門店での会談で対話再開の動力を得た両側が交渉準備を急いでいる。2月にハノイで衝突した朝米が、既存の態度からどこまで柔軟な姿勢を見せるかに再び成否がかかった。
まず、今回の板門店会談を契機に、北朝鮮の対米交渉主体が統一戦線部から外務省に変わったことが確認された。ポンペオ長官は30日のトランプ大統領と金委員長の板門店会談の後、烏山(オサン)空軍基地で記者たちと会い「私たちは外務省を私たちのカウンターパートとして持つことになるだろう」と話した。
これと関連して、前日板門店の「自由の家」で開かれた朝米首脳会談にはリ・ヨンホ外相が一人で同席した。トランプ大統領の29日の「板門店会合提案」のツイートに声明で肯定的な返事をしたチェ・ソンヒ外務省第1副長官も板門店に姿を見せた。ハノイでの第2回朝米首脳会談まで対米交渉を担当したキム・ヨンチョル労働党中央委副委員長やキム・ヒョクチョル対米特別代表の姿は見られなかった。北朝鮮の交渉チームが「リ・ヨンホ-チェ・ソンヒ」を中心に組まれる可能性が高く見える。
米国はこれまでと同様に、ポンペオ長官とスティーブン・ビーガン国務省北朝鮮政策特別代表が交渉の責任を負う。ポンペオ長官は「トランプ大統領は常に私に責任を任せた」として「ビーガンが実務を率いるだろう」と話した。前日、トランプ大統領も「ポンペオ-ビーガン」ラインを維持する意向を明らかにした。
ポンペオ長官は、トランプ大統領と金委員長が各自の交渉チームを適宜選択することに同意したと付け加えた。これまで北朝鮮は、外務省局長談話などを通してポンペオ長官を非難してきたが、今回の板門店会談で“選手交替”問題は弱まったと見られる。
ただし、ビーガン代表のカウンターパートがチェ副相になるのか、第3の人物になるかは不確かだ。ポンペオ長官は詳しい説明を省略して、「外務省から正確に誰になるかは分からないが、二、三人のうちの一人になるようだ」と話した。
実務交渉の開始時期と関連してポンペオ長官は「おそらく今後2~3週間以内、すなわち7月中旬頃になると推測する」として「交渉場所はまだ決まっていないが、チームが集まって意見交換を始めるだろう」と話した。朝米は、平壌、ワシントン、ニューヨークなどを行き来して実務交渉を行うと観測される。トランプ大統領は「ハノイ・ノーディール」を反面教師として、実務交渉でがっちり確かめた後に首脳会談に臨むものと見られる。
実務交渉の目標は、昨年6月のシンガポール首脳会談で合意した、朝米関係改善▽朝鮮半島非核化▽平和体制構築の履行方案を用意することだ。このために北朝鮮と米国が実務交渉で最初に整理する部分は、非核化の定義とロードマップに関する“大きな絵”(全体像)だ。
米国側では、ビーガン特別代表が1月に公式化した“同時的・並行的”なアプローチを最近再確認した。一方、北朝鮮側は「段階的・同時的」アプローチを好む。2月のハノイ首脳会談でも間隙を狭められなかった部分だ。米国は、非核化の最終段階(エンド・ステート)を含む包括的合意を前提としたシンガポール共同声明の同時・並行履行を望んでいるが、北朝鮮側は信頼構築の程度に応じて段階的に合意し“行動対行動”で履行するという立場だった。
国家安保戦略研究院のキム・ヨンジュン研究委員は「両側の根本的な違いは、エンド・ステートを確定してから始めるか、開いておいた状態で履行するかということ」とし「このような全体像で北朝鮮が曖昧な立場を持って出てくるならば、開始段階から米国は多くの譲歩を(北朝鮮に)要求することになるだろう」と見通した。シンガポール共同声明で合意した「完全な非核化」の最終段階に対して、北側が何らかの形で確認しなければならないという分析だ。
中核となる争点は、寧辺(ヨンビョン)核施設を中心とした非核化と、それに対する相応の措置としての対北朝鮮制裁解除問題だ。ハノイで北朝鮮は寧辺核施設の廃棄と民生分野の核心制裁解除を対等交換することを要求したが、米国は「寧辺だけではだめだ」として、すべての核プログラムの廃棄と全面的制裁解除という「ビッグディール」を主張した。今後の交渉で進展を見るには、北朝鮮が寧辺核施設の他に“プラスアルファ”を出すか、米国が寧辺廃棄の見返りに「一部制裁解除」を提示しなければならない構造だ。
だが、北朝鮮と米国の既存の立場に具体的変化が起きたと見られる兆候はまだない。30日の韓米首脳会談で文在寅(ムン・ジェイン)大統領は「寧辺核団地が完全に廃棄されれば、後戻りできない実質的非核化の入口になるだろう」と話したが、トランプ大統領は「それは一つの段階だ。重要な段階であることも、そうでないこともありうる」として温度差を見せた。米国は、対北朝鮮制裁を最後まで握っておくべき交渉カードと感じている。トランプ大統領はまた「急がない。包括的な良い合意をしなければならない」と強調した。
ただし、米国が最近柔軟な態度を表わして、北朝鮮も板門店会談を通して“ハノイ・ショック”を薄める契機を用意しただけに、両側が接点を見出しにかかる可能性があるという観測もある。トランプ大統領は、30日に金委員長と会談した後、「制裁は続く」としつつも「交渉途中のある時点には変化が生じることがある」と余地を残した。米海軍分析センターのケン・ガウス国際関係局長はハンギョレに「トランプ大統領が(板門店会談で) “非核化”という単語を使わなかった。これは、非核化だけを前面に出すより若干柔軟なアプローチが必要だという方向に米国が戦略を変えた信号でありうる」として「交渉の進展はトランプと金正恩がどんな譲歩をするかにかかっている」と話した。