北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長が30日、ドナルド・トランプ米大統領の「電撃的面会」の要請に応じたのは、再会の時期や形式、名分まで揃ったという政治的計算によるものとみられる。国際社会には、ハノイ会談で合意が見送られたにもかかわらず、自身の非核化意志が変わっていないことを再確認する一方、国内的にはトランプ大統領との“信頼”を誇示する効果もプラス要因だ。
まず、金委員長がトランプ大統領の招待に応じたのは、年内に米国と非核化-国交正常化交渉の進展を見なければならないという現実的な必要性が作用したものと見られる。金委員長は、今年4月の施政方針演説で、「今年末」まで「米国の勇断」を待つと述べてから、米国国側に「新たな計算法」を求めてきた。その一方で、朝ロ、朝中首脳会談を通じて、「非核化意志」とともに「対話による解決」を強調し、米国との対話再開の時点を慎重に打診してきた。
これに加え、最近米国側が相次いで発信した宥和メッセージも、金委員長が行動を起こすのに肯定的に働いたものと見られる。スティーブン・ビーガン米国務省北朝鮮政策特別代表は先月19日(現地時間)、「柔軟なアプローチの必要性」に言及した後、28日には「同時的・並行的」アプローチを再度確認した。ク・ガブ北韓大学院大学教授は「朝米いずれも年内に成果を出さなければならない」とし、「ビーガン特別代表がサインを送ったことで、双方が同時的・並行的アプローチまたは包括的・段階的アプローチに対する一定のコンセンサスを得られたといえる」と述べた。今秋、2020年米大統領選挙政局が本格化すれば、交渉を再開するきっかけを掴むことが困難になるだろうという見通しも影響したものと見られる。
なにより「トップダウン」の首脳外交を好む金委員長の立場として、トランプ大統領との会同が、中断した朝米交渉を再開する最もいい出発点と判断した可能性が高い。金委員長がこの日の電撃的な出会いについて「(トランプ大統領との)すばらしい関係」のおかげで実現したと述べたのも同じ脈絡と言える。また、トランプ大統領が金委員長に会いに行く形だったため、成果なしで終わったハノイ会談で国内政治的に困難にさらされた金委員長の対面を保てるというメリットも働いたものとみられる。統一研究院のホン・ミン北朝鮮研究室長は「トランプ大統領が金委員長に会うためにDMZ(非武装地帯)に来るということ自体が名分になる」とし、「(北朝鮮)内部に(米国と非核化交渉をめぐる)疑念があるなら、それを払拭し、朝米首脳間の信頼関係を再び想起させることができるため実益が大きい」と述べた。
金委員長が同日午後、板門店(パンムンジョム)南側地域の自由の家で明らかにした公式的な理由は、「今後さらに良い方向に我々(朝米)が変わっていくことができるということを、多くの人に示す面会であるという点で肯定的に捉えた」ためだ。