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[インタビュー]「北朝鮮の非核化過程は段階的になるしかない」

登録:2018-05-24 21:16 修正:2018-05-25 10:35
田中均・日本総合研究所国際戦略研究所理事長
日本総合研究所国際戦略研究所の田中均理事長が15日、東京・赤坂の事務室で朝米首脳会談の展望について話している=東京/チョ・ギウォン特派員//ハンギョレ新聞社

「北朝鮮はリビアと違い非核化に時間がかかる 
北朝鮮の会談再考は戦術的発言だが 
失敗すれば一挙に軍事的緊張高まる 
朝米首脳会談は非核化の入り口的なものになるだろう 
非核化の細部事項の合意が主要なポイント 
日朝交渉は朝米会談の成功にかかっている」

 日本外務省の代表的な戦略家だった田中均・日本総合研究所国際戦略研究所理事長は、史上初の米朝首脳会談は「失敗する可能性は低い」と見通した。田中理事長は「今回の会談は北朝鮮の非核化の入り口の段階になる可能性が高い」と述べた。そして「非核化についてどこまで詳細が合意できるかが重要だ」と指摘した。

 外務省でアジア大洋州局長と外務審議官(次官補)を歴任した田中氏は、2002年9月の小泉純一郎首相の訪朝と平壌宣言を主導した人物で、現実主義的外交観を持っている。

 インタビューは5月15日、東京・赤坂にある日本総合研究所国際戦略研究所にある事務所で行なった。また17日、電子メールで追加インタビューが行なわれた。

- 6月12日に予定されている米朝首脳会談の展望は。

 米国にとっても北朝鮮にとっても、この会談が失敗だったと言うことはできないと思う。米国側から見れば、トランプ大統領はロシアゲートなどで国内政治の状況が極めて厳しくなっている。トランプ大統領は米朝首脳会談を大きな外交成果だと考える気持ちがあるので、これを失敗に終わらせる可能性はかなり低い。

 北朝鮮は過去、非核化を約束しながら実際に非核化にはならなかった。非核化を国際的に約束したことは何回かあったが、それは現実にならなかった。今回失敗したら後がなくなる。後がなくなるという意味は、北朝鮮が最も恐れる米国の軍事行動だ。もしもこの会談が失敗だという風にレッテル貼られると、米国が軍事行動を取る蓋然性が高くなる。それは北朝鮮もなんとしても避けたいことだ。両方の事情を見れば、失敗となる可能性は低い。

 大きく成功ということが可能かについては、これからの議論において非核化を一挙にすることができるかどうかだ。もし非核化が一挙にできる状況であったならば、首脳会談の場所は板門店を選ぶと思う。偉大で歴史的な成果だということになる。シンガポールを選んだので、一挙に非核化に到達するよりも、非核化に向けて確かな入り口に来たという印象を残す首脳会談になるのではないか。

 最も重要なところは、非核化の展望と、北朝鮮側から見れば非核化の条件だ。非核化の展望は核とミサイル両方の廃棄だ。ミサイルについてはどの範囲のミサイルという議論になりうる。核の廃棄についてはまず申告しなければならない。核弾頭の存在するかどうか、核兵器を作る施設、濃縮ウランとプルトニウム抽出装置を含め、かなり膨大な装置を申告し、どのように検証していくかだ。申告が正しいかどうか検証した上で、どういう形で廃棄するかだ。常識に考えればそれは相当な時間がかかる。どのようなスケジュールでどのような検証で行なうかを、今回には合意しなきゃならない。今回の会談が非核化の入り口にあったとしても、北朝鮮に非核化の意思があるということについて判断の材料になるため、そういう詳細が必要になる。どこまで詳細が合意できるのかが一つの大きなポイントになる。

 もう一つのポイントは、北朝鮮は見返りを要求するだろう。北朝鮮は自分たちの体制のサバイバルのために核開発してきた。だから核を放棄するためには、自分たちの体制を保障するような見返りが必要だということだ。ポンぺオ国務長官が「体制を保障する」と言ったが、本当に北朝鮮が求めるのは体制保障するという言葉ではなく、現実の体制保障の枠組みだ。その中身は平和体制、今の休戦協定を平和条約化することや、米朝の国交正常化、日朝の国交正常化、米国が攻撃しないという何らかの保障などだ。果たしてどこまで応じることができるかということ。そして経済制裁をどういう段階で解除していくのかも課題だ。

 この首脳会談は成功だという見方がされると思う。ただ、不透明な要素はある。まず、米国の中には実務家がいない。そして、中国も不透明な要素だ。北朝鮮がこれまで対話に出てきたのは、中国の力が大きかった。今の中国の状態は、米国との関係が非常に厳しくなってきたことを踏まえ、北朝鮮の問題について元から米国と協力するムードはない。これを見越した北朝鮮は中国にすり寄った。40日の間に金正恩(キム・ジョンウン)北朝鮮国務委員長は中国を訪問し、北朝鮮の幹部が中国を訪れているという話もある。米国との関係、特に非核化の速度などについて、中国の支援を得たいという北朝鮮の気持ちは相当強い。同時に中国の関係を強化することによって、失敗した時についての保険を中国にかけるという意識もある。中国がどのように動くかが、不透明な要素だ。

- 北朝鮮は最近、米朝首脳会談の開催を再考するかもしれないと言っている。

 これは戦術的なものだと思う。米韓合同演習そのものというより、北朝鮮の一方的な非核化を求める米国強硬派のアプローチを牽制したものと見ることができる。もし首脳会談が開かれぬまま頓挫すれば、従来以上の対立に繋がると考えられ、避けなければならない。

- 中単距離ミサイルが米朝首脳会談では議論にならないという危惧が日本と韓国には一部ある。

 単距離ミサイルを規制するはレジームない。単距離ミサイルは日本も持っている。北朝鮮だけが単距離ミサイルを持ってはいけないというのはなかなかならない。中長距離・中距離ミサイルを規制しようというレジームはすでにある。果たしてミサイルをどの程度規制するのかは議論が残る。日本のミサイルは北朝鮮に届かないから、北朝鮮のミサイルを制限することはあるかもしれない。韓国のミサイルは北朝鮮に届く。防衛の問題で一方的な問題ではない。

 問題は核弾頭だ。まず、北朝鮮の核廃棄ということがより中心的な課題になるべきだ。ミサイルの問題はその後考えてもいい。一定の軍縮のようなものが必要ではないか。

- 非核化の方法についてさまざまに議論されているが、どんな方法が現実的か。

 現実的には、包括的な非核化が一番入り口の段階できちんと確約されると思う。その確約ができるだけ嘘ではないと信頼性を持たせるために、具体的に詳細を合意する必要がある。2020年までに核兵器を廃棄するという議論もあるが、現実的な問題がある。リビアの場合は初期的な段階だった。検証も廃棄も用意したが、果たして北朝鮮はどの程度の核開発をしたか分からない。そのため、それ次第で現実的な見通しが変わるかもしれない。それなりの時間がかかる。それを持って段階的かどうかをいうかは別だが、いずれにせよ段階的にならざるを得ない。「分かりました」と言って一日で廃棄することはできない。安全性の問題もあるから、一定の時間がかかる。何をもって包括的か段階的かというか分からないが、北朝鮮が自分たちは慎重に「いつでも核開発に戻れるような仕組みで非核化をする」という考え方だとすれば「ノー」だ。目には目を、歯には歯をという非核化で動いた段階でそれぞれ見返りをもらいたいということだとすれば、これもたぶん「ノー」だ。

 もちろんどのような見返りを検討するかの約束はできると思う。平和条約を組むために協議をはじめるとか、米朝・日朝国交正常化をするために具体的な協議をすることなどができる。それはそれなりに時間がかかることだ。入り口の段階ではきちんと包括的な約束することが必要だ。今までの合意は、2005年の6カ国協議の合意もそうだっが、言葉だけだった。非核化の具体的な段取りや検証や詳細論には一切及んでいなかった。今度は単に「非核化します」ということではなく、どういう形で非核化するか、具体論が必要だと思う。

- 2005年と今は状況がずいぶん変わったのか。

 変わったと思う。両方も最後の段階に来た。2005年は北朝鮮はまだ一回の核実験もしなかった。あれから今日に至るまで6回核実験をやり、弾道ミサイル実験を行なった。それだけに安全保障上の問題が韓国にも日本にもアメリカにも大きくなった。

 それから、中国が本格的に経済制裁に参加した。中国も北朝鮮が核を持つことは阻止したいという判断がある。

 もう一つはトランプ大統領だ。トランプ大統領は公職の経験がなく、彼自身の手法は衝動的だ。私は2002年に北朝鮮と交渉したが、あの時北朝鮮を駆り立てたのは米国は非常に怖いということだった。やはり北朝鮮が行動を起こす一番の原因は、米国の力だ。トランプ大統領の場合、何をするか分からないという不透明性がある。それが北朝鮮を脅かす。今回失敗すれば、一気に軍事的な緊張に至る可能性がある。

- 安倍首相が最近、日朝首脳会談の可能性についてたびたび言及している。日朝首脳会談の展望は。

 日本は明らかに外交の中心にはいない。北朝鮮は韓国へのアプローチから始め、米朝首脳会談につなげ、中国を味方にするために接近した。日本の要素は何もない。安倍首相自身はこれまで北朝鮮との問題を政治課題の中心に置いた。そういう意味で、日本が今の外交の中心にないことに対する打開策のような意識があると思う。

 私は必然的に米朝首脳会談がうまくいき、非核化の方向に行けば、必ず日朝協議はならざるを得ないと思う。日本なくして米国が見返りを全部与えるとか、韓国が全部与えるというなら別だが、それはできない。非核化から日本も利益を得るから、日本も当然見返りを考えなければならない。それは平壌宣言(2002年に平壌で発表された日朝両国政府による共同宣言。国交正常化を早期に実現させるため、あらゆる努力を傾注すると記されている)にも書かれている。日本としては、経済的な協力を約束している。

 

 当然、日本は慌てなくても外交の中に入ってくる。それには非核化がうまく行かないといけない。拉致問題も同じだ。拉致問題だけ切り離して先に日朝間で話が進むとは到底思えない。拉致問題も結局日本が北朝鮮に何をするかによる部分がある。まず米朝首脳会談がうまくいかないと、現実的には日本の出番はない。焦る必要もない。ある時は北朝鮮を激し「圧力、圧力」と言い続け、ある時突然日朝会談と言うのは、私の趣味ではない。

- 米朝首脳会談で非核化の入り口に合意したら、日本は日朝首脳会談を行うと思うか。

 日朝首脳会談について交渉することはないと思う。日朝首脳会談はどこかの段階で必要になるとしても、やらなきゃいけないのはこれからの拉致についての具体的な事務的な話だ。北朝鮮の調査の結果はどうだったのか、日朝合同で拉致被害者を調査することなどだ。今の日本の世論は、日朝首脳会談をすれば結果が出てくるという意識がある。もちろん私はいま政府の中にはいないので分からないが、そういう意味では日本の場合はあまり材料がない。地道な外交努力が必要だ。

- 拉致問題について、安倍首相は被害者全員即時帰国を主張している。しかしハードルが高いという見方もあるが。

 まず事実関係を明らかにする必要がある。安倍首相が全員生きている確信を持っているわけではないと思う。亡くなった人がいるとしたら、なぜ亡くなったのかを納得できる説明がないと、なかなか前に進まない。

- 拉致問題について一番望ましい解決策は。

 事実関係が明確にされることだ。それがすべてだ。事実関係が明確化され、当然のことだが生きている人は日本に帰されなければならない。死んだ人を生き返えらせよというの無理なので、なぜ亡くなったのかを含めて徹底的に調査が行われることが必要だ。

 北朝鮮だけの調査は不十分だ。日朝合同の調査が必要だが、それも核と同じ話だ。それを解決する決意確約のようなものが必要だ。

東京/チョ・ギウォン特派員 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/international/japan/846133.html韓国語原文入力:2018-05-25 00:31

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