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韓国軍ベトナム民間人虐殺、数多くの被害者「たち」に謝罪するには

登録:2023-02-11 04:12 修正:2023-02-11 07:47
被害者の個別訴訟には多くの壁 
未発掘事件含め徹底した真相調査が「しょく罪」の始まり
2015年4月6日、国会正論館でベトナム虐殺被害者のグエン・ティ・タンさん(当時55)が会見を行い、当時の民間人虐殺の状況などを説明している=キム・ギョンホ先任記者//ハンギョレ新聞社

 「(勝訴判決が出るまで)多くの魂が私を助けてくれたと思う」

 ベトナム戦争で韓国軍が民間人を虐殺したことが55年かかってようやく裁判所で認められた2023年2月7日、韓国政府を相手取って国家賠償訴訟を起こしていた虐殺生存者のグエン・ティ・タンさん(63)は、韓ベ平和財団のク・スジョン理事にこのように思いを語ったという。判決は自分1人だけの勝利ではなく、すべての犠牲者の勝利だという意味だ。法廷に立ったのはグエン・ティ・タンさんだけだが、法廷に来ていない数多くの被害者に対しても韓国政府がしょく罪する方法はあるのだろうか。

裁判所がベトナム戦争当時の韓国軍の民間人虐殺に対する国家賠償責任を認めた2月7日、ソウル瑞草区のソウル中央地裁前で原告のグエン・ティ・タンさんがオンラインでつないで記者会見を行っている=キム・ミョンジン記者//ハンギョレ新聞社

さらなる訴訟で権利救済? 「フォンニィ・フォンニャット事件は異例」

 グエン・ティ・タンさんの勝訴が報じられると、他の被害者たちも訴訟を起こすかにメディアの関心が集中した。グエン・ティ・タンさんが住んでいたフォンニィ・フォンニャット村だけでも犠牲者は74人にのぼる。しかし、ベトナムの被害者を支援する市民社会団体は、戦争犯罪の被害者がそれぞれ訴訟を起こすのは難しく、国を相手取った訴訟だけが正解ではないと判断している。「フォンニィ・フォンニャット事件のように多くの証拠がある虐殺事件は異例。通常、村を焦土化し、虐殺の痕跡すら消そうとするのが虐殺の特徴だからだ」。ク・スジョン理事は言う。

 フォンニィ・フォンニャット事件は韓国軍によるベトナム民間人虐殺事件の中でも証拠資料が特に多い事件だ。生存者のグエン・ティ・タンさんと事件を目撃した叔父のグエン・ドゥク・チョイさんが、韓国を訪問して銃撃前後の状況を具体的に説明しており、当時作戦を遂行した参戦軍人のリュ・ジンソン氏も虐殺を法廷で証言している。虐殺についての住民たちの証言と写真が掲載されたベトナムのクアンナム省ディエンバン県文化通信庁の資料集や、在ベトナム米軍司令部の監察報告書もある。「他の諸事件も被害者の証言が全くないわけではないが、フォンニィ・フォンニャット事件ほどではない。今回の勝訴は、20年あまりにわたる市民社会の努力が積み重なった結果です」(ク・スジョン理事)

 戦争犯罪の被害者が個別に訴訟を起こしても、勝訴できるかは未知数だ。現在進行中の日本軍「慰安婦」の損害賠償訴訟と強制動員被害者の損害賠償訴訟が代表的な例だ。裁判所の判断は割れている。「慰安婦」訴訟では、被害事実は同じなのに、一審で原告が勝訴したのは一つの事件のみで、その他の事件は却下された。強制動員訴訟は最高裁が「被害者には賠償請求権がある」と判断したにもかかわらず、下級審が消滅時効を適用し、賠償責任はないとの判決を下して物議を醸した。

 聖公会大学のカン・ソンヒョン教授は「また訴訟となれば、ある被害者は状況によっては立証に失敗する可能性があり、ある被害者はそもそも訴訟を起こせない可能性もある。同じ死なのに、あるものは良民虐殺と認められ、あるものはそうならないという格差が生じる」と語った。また「この判決は『韓国とベトナムの政府はこの問題に向き合うべきだ』という意味だと理解し、今後は体系的な真相調査へと踏み出さなければならない」と付け加えた。

2001年、当時41歳のグエン・ティ・タンさん。グエン・ティ・タンさんは「自宅の避難壕(ごう)の上から手榴弾を手に私をにらんでいたあの日のあの男のせいで、韓国の男を見るだけで動悸が激しくなる」と証言した=コ・ギョンテ提供//ハンギョレ新聞社

特別法制定、過去事委による真相調査なども可能

 ベトナム戦争の虐殺被害者を長く支援してきた市民社会団体のメンバーたちも、国レベルの正確な真相調査を韓国の「しょく罪」の出発点として提示する。

 現在、ベトナム戦争での韓国軍による民間人虐殺事件は、被害者の規模の推計すら困難になっている。2000年にク・スジョン理事が済州人権学術会議で発表した民間人虐殺事件は80件あまり、犠牲者は9000人あまりだった。その後、韓ベ平和財団が20年にわたって発掘した被害者や、「ハンギョレ21」の現地取材報道などが加わり、2020年8月に改めて集計すると、事件は130件あまり、犠牲者は1万人あまりにまで増えた。フォンニィ・フォンニャット村(74人)を除いても、ハミ(135人)、ビンホア(430人)、フクミ(4人)、ホアンチョウ(22人)、フクルット(4人)など、数多くの村で民間人虐殺があったという証言と資料が得られた。韓ベ平和財団は、まだ発掘できていない被害者の方が多いと考えている。

 グエン・ティ・タンさんの訴訟弁護団のイム・ジェソン弁護士は、国はまず真相調査をきちんと行うべきだと述べる。これまでは民間団体がつてをたどって被害者を探し出していたに過ぎず、体系的で広範な国レベルの調査は行われていない。「盧武鉉(ノ・ムヒョン)大統領が済州4・3事件について謝罪しえたのは、金大中(キム・デジュン)大統領時代にすでに真相調査を決めていたからだ。国が謝罪するためには、その前にまず実態調査を行わなければならない。被害者が20年近く問題提起しているのに、政府は無視してばかりいてならない」

 国会では共に民主党のカン・ミンジョン議員が、ベトナム戦争での民間虐殺被害の真相調査を行い、総合報告書を出すなどの内容を盛り込んだ「ベトナム戦争時期の大韓民国の軍隊による民間人被害事件の調査に関する特別法」を代表発議する予定だ。同様の法案が2020年に正義党のキム・ジョンデ議員によって代表発議されているが、廃案となっている。

 裁判や国会を通さずに真相調査を行うという道もある。韓国軍による民間人虐殺が起きた「ハミ村」の生存者と遺族5人は2022年4月、真実・和解のための過去事整理委員会(過去事委)に真相究明を申請した。しかし委員会は10カ月が過ぎた今に至っても調査を開始するかどうかを「検討」ばかりしている。真相調査を開始するには過去事委の全員会議での可決が必要になるが、まだ案件として上程すらされていないのだ。過去事委は「事案が特殊なため、検討には時間がかかる」と述べているが、委員会の内外では外交的・政治的な負担がかかるからだと推測されている。

 2月7日の判決後、外交部は「韓国-ベトナム政府は両国関係が未来志向的にいっそう発展していけるよう、諸般の懸案について緊密に意思疎通している」、国防部は「控訴するかどうかについては法務部と議論して決める」と述べるにとどまっている。

2017年2月20日にベトナム中部のクアンナム省ディエンバン県ハミ村で行われた、ハミ虐殺事件の犠牲者のための49周忌の祭祀と慰霊祭の様子。香炉に多くの線香が手向けられている=コ・ギョンテ//ハンギョレ新聞社

「過ぎ去ったこと、参戦国の恩恵」論理を乗り越えるべき

 「参戦軍人も国によって動員されたわけだが、戦争を遂行した後は悪魔になる。兵士個人に加害者の立場を押し付けてばかりいないで、韓国がなぜその戦争に参戦し、それがどのような結果を残したのか、動員された32万人の韓国軍兵士の戦争経験はどのようなものだったのか、社会は耳を傾けるべきだ」。「ベトナム戦争問題の公正な解決のための市民社会ネットワーク」で研究活動を担うシム・アジョンさんは語る。

 歴史問題の解決において政治と制度と同じくらい重要なのが共同体の反省だ。シムさんが参戦軍人個人の省察にとどまらず「参戦国」韓国の経験全般を振り返る公論の場を設けようとしている理由はここにある。シムさんは近いうちにグエン・ティ・タンさんの事件の判決文を市民と共に読む会も立ち上げようと考えている。

 「(虐殺事件は)1960年代の過ぎ去った話のように聞こえるかもしれないが、私たちは今も『ベトナム戦争に参戦して稼いだ金で京釜高速道路を作った』というふうに、誤った戦争への参戦の恩恵を平気で語る時代に生きている。今はそのようなことを改めて考える時間が必要だ」(シム・アジョンさん)

シン・ダウン記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://h21.hani.co.kr/arti/society/society_general/53361.html韓国語原文入力:2023-02-09 12:20
訳D.K

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