3月23日に開かれたガールズグループ「NewJeans」のコンサート「コンプレックスコン香港」の取材のために訪問した香港への出張は、記者生活で忘れられない瞬間になりそうだ。当初はコンサートの取材のための出張だったが、コンサートの終わりにメンバーが「活動中止」を宣言し、真夜中に大騒ぎが起きた。会場を抜け出してメッセンジャーアプリのカカオトークで速報記事を送り、ホテルにあわてて走り、早朝に記事を書き終えた。国外出張中にこのように緊迫した状況が発生することは珍しい。
韓国に戻る飛行機の中で、今回のNewJeans騒動を振り返った。どこから始まったのだろうか。どのようになっていくのだろうか。考えれば考えるほど、NewJeansを取り巻く状況は本当に奇妙だと考えるようになった。問題は単純だが、あまりにも過熱しているからだ。
まずは問題の発端からだ。今から1年前の昨年4月22日、HYBE(ハイブ)は、ADOR(アドア)のミン・ヒジン前代表が経営権を奪おうとしているとして、監査に着手した。HYBEによるミン・ヒジン前代表の解任を進める試みは、裁判所によっていったんは止められた。同年5月、ソウル中央地裁民事合議50部(キム・サンフン部長判事)は、自身を解任するためのHYBEによる議決権行使を阻止するよう求めるミン前代表の仮処分申立てを受け入れた。HYBEが提示した証拠からは背任を断定できないという理由によるものだった。ミン前代表は代表職復帰後の2回目の記者会見で、和解を提案した。ミン前代表は「全員がともにNewJeansの未来を考えよう」と述べた。しかし、最終的にADORは取締役会を通じて、別の方法でミン前代表の解任を押し切った。ミン前代表は「一方的解任」だと反発し、会社を去った。
この時点までは、NewJeansは対立の当事者ではなかった。しかし同年11月13日、NewJeansのメンバーたちはユーチューブでのライブ配信を通じて、ミン前代表の復帰などの是正事項を要求し、前面に出てきた。ADORはメンバーたちの要求を受け入れなかった。これに対してNewJeansは同月28日、緊急会見を通じて専属契約解除の通知をおこない、今年2月には「NJZ」という新しいグループ名を発表し、独自活動に乗りだす。これを阻止するよう求めるADORの仮処分を、3月21日に裁判所が容認した。
事件の流れだけをみると、今でも紛争中の事案であることがわかる。単純化してみると、所属歌手が提起した是正要求を会社が受け入れないため、専属契約解除を宣言した事件にすぎない。これに対して裁判所の1段階目の判断が出ただけの状況だ。NewJeansは、活動禁止の仮処分の容認後、裁判所に異議申立てをし、これを裁判所が受け入れなければ、即時抗告を通じて上級審の判断を仰ぐものとみられる。これは誰もが法律で保障された手続きだ。法廷闘争で敗れる側が責任を負うだけのことだ。この過程で発生しうる世論の悪化も、本人が耐えなければならないものだ。
しかし、世論があまりにも過熱しているという印象を拭い去ることはできない。HYBEが理事会に所属している韓国音楽コンテンツ協会などの大衆音楽製作団体は、仮処分決定を前にして大規模な記者会見を行い、場外世論戦を繰り広げた。NewJeansのファンたちも3万人に達する嘆願書を提出して対抗した。関連記事を書いていて「ここまで騒ぐことなのか」と嘆いたのは一度や二度ではない。
過熱した雰囲気を助長しているのはメディアだ。特に、「NewJeans」のキーワードがあまりにもポータルサイトで人気があるため、小さな問題の一つひとつも逃さずに報道をしている。この過程で、ファクトチェックや反論権の保障という報道の基本倫理が無視されるケースが多い。
代表的な事例が、最近の米国の時事週刊誌「タイム」によるNewJeansのインタビュー記事を扱う報道だ。インタビュー全体の脈絡は省略して、「革命家」や「失望」のような刺激的なキーワードに集中する報道がなされた。インタビュー記事の全文を読めば、メンバーたちはK-POP産業の構造的な問題を指摘しており、これが一日で変わるとは思えないと語っている。さらに、このような現実が現在の韓国であり、厳しい闘いではあるが、自分たちの闘いは誇らしいと述べた。
K-POP産業の構造的な弊害は多くのメディアで指摘されてきたテーマであり、社会的な問題になって久しい。目をつぶっているのは企画会社やこれを代弁する関連団体、そして、これらを保護する一部のメディアだけだ。最近になり児童搾取で物議を醸したオーディション番組「アンダーフィフティーン(UNDER15)」のような事例も、結局のところは、未成年のときから集団生活などの厳格な訓練を通じてデビューをさせる、K-POPが有する構造的な問題に起因するとみなせる。
しかし、突如としてNewJeansのインタビューは、「嫌韓」というレッテルを貼られることになる。ある弁護士のユーチューバーがSNSに「裁判所さえ無視し、韓国全体を悲惨な社会としておとしめ、嫌韓発言を口にするまでに至った」という内容を投稿すると、瞬く間に広がっていったのだ。
ユーチューバーがSNSで主張した意見は個人の自由だ。しかし、このユーチューバーの発言を大きく取り扱い、あたかもNewJeansが嫌韓的な言動をしたかのように報道する行為は、基本的な報道倫理さえ守れていないものだ。このような報道に公共放送である韓国放送(KBS)まで飛び込んだことは、現在の度を越した芸能ジャーナリズムの非常識な現状を示していると言える。
3月28日は俳優のキム・セロンさんが亡くなってから40日目になる。死者の魂が完全にあの世に行くことになるという四十九日の法要の日まで9日間残っている。彼女の死が社会的な衝撃として残っている状況のもとで、キム・セロンさんを苦しめ続けたというサイバーレッカー(アクセス数稼ぎを目的に、社会的問題に関する攻撃的・煽情的な動画を投稿するユーチューバー)のユーチューブ動画とこれを広めた報道が、彼女の死に大きな影響を及ぼしたという遺族の証言が続いている。
キム・セロンさんの死が投げかけた社会の衝撃とそのメッセージを、よく考えなければならない。現在のNewJeansを取り巻く過熱した世論とメディア報道は奇妙だ。落ち着かなければならない。