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[週刊ハンギョレ21]「愛国キリスト教」はなぜこうも差し出がましいのか

登録:2014-11-27 06:50 修正:2014-11-27 18:46
セウォル号を経て同性愛に
今月20日に開かれたソウル市民人権憲章の最後の公聴会は「司会者を変えろ!」と叫ぶ人たちの実力行使で討論なしで終了した。公聴会を阻止した一人が会場の床に横たわっている。チョン・ヨンイル記者//ハンギョレ新聞社

「性少数者差別禁止」に反対、ソウル人権憲章公聴会阻止
福祉・教育分野も露骨な「弱者嫌悪」の声上げ

 知り合いではない。利害関係もない。なのに熱い。

 2014年6月、ソウルクィア文化祭パレードに立ちはだかり、8月、韓国の男性同性愛者の人権運動団体「チングサイ」(友達の間柄)の20周年記念行事で衝突を起こし、11月、ソウル市民の人権憲章公聴会を議論も始まらないうちに終了させた。時々「アーメン」を叫ぶ彼らが中心となって行ったことだ。2007年差別禁止法制定に始まった保守キリスト教の同性愛反対の動きはますます激しくなっている。

 新しい現象だ。世界が繋がっているのなら、何事にも無関係ではいられないかもしれないが、自分と直接利害関係がないことに、これほどまで熱い情熱が湧いたことがあるだろうか。一度熱した情熱は容易に冷めない。ソウル市民人権憲章を巡る騒ぎは長く続く未来の始まりに近い。一線を超えると問題が生じる。神様の意志でも、アラーの名前でも、仏陀の言葉でも一線を超えると、誰かが涙する。 /編集者

 この日は、トランスジェンダー追悼の日だった。

 11月20日、ソウル市民人権憲章制定ための公聴会が開かれる予定の日だった。午後の日差しが初冬のソウルを包んでいた。西小門(ソソムン)ソウル市庁別館に向かう道を、少なからぬ人々が足早く歩いていた。この日の午後1時40分、別館4階講堂はすでに人で埋め尽くされ、叫び声が充満していた。

 「司会者変えろ!」「司会者変えなさい!」

 ソウル市民人権憲章公聴会の開催予定時刻まで後20分だった。司会者を変更しろとの声に次のような声も加わった。

 「国家保安法撤廃を主張する人は、ダメ!」「同性愛を支持する司会者変えて!」

 講堂を埋めた300人余りの人たちは「同性愛同性婚助長する偽人権OUT!」などの立て札を掲げ、時より手を叩きながらさらに声を上げていった。司会者が出てくる前に演壇は拒否の声に占拠された。講壇の一角で「開始すらできないか?」と叫ぶ声が断末魔のように聞こえてきたが、すぐ「司会者変えろ!」の掛け声に消されてしまった。公聴会に出席した性少数者の人権活動家10人余りはそんな孤独な戦いを繰り広げていた。彼らに向かって「汚い同性愛者は出ていけ!」と叫ぶ人もいた。12月10日、世界人権宣言記念日に宣布される予定のソウル市民人権憲章に「性少数者差別禁止」条項を挿入するか否かをめぐって起きた出来事だった。警察はいたが、ホールの外で手をこまねいて見ていた。ソウル市の関係者はどこにいるのか姿が見えなかった。

同性愛合法化=聖書の違法化

ソウル市民人権憲章の最後の公聴会を阻止する人たちの前で茫然と立ち尽くしている司会者のパク・レグン人権財団「人」常任理事。チョン・ヨンイル記者//ハンギョレ新聞社

 「韓国の教会は現在、非常に危険な状況にあります。差別禁止法が通過するときに、積極的に阻止しなかったアメリカとイギリスの教会は無惨に踏みにじられており、今痛切に後悔をしています。...同性愛が合法化すると、聖書は、違法な本となり...聖書の御言葉と信仰の自由を守るために憤然と立ち上がって反対の意思を全世界に知らしめる必要があります。...この時点で沈黙は罪です。...光と塩になるというのは、対価を支払っても、聖書の真理を語り、書き記し、自分の人生で表現することです。さあ皆一緒に集まりましょう!」

 このような携帯メールやカカオトークのメッセージを見て集まった人々でいっぱいの空間に、司会者のパク•レグン人権財団 「人」常任理事が現れた。彼は公聴会を進行しようとしたが、マイクを取ることさえ難しかった。演壇に上がってきて、面前で「パク・レグン氏、同性愛を支持する方じゃない?」と追及し続ける中年の男がいた。マイクを奪って投げる人、「出て行け」と叫ぶ声。公聴会の進行を阻止しようとする人々によって演壇は修羅場と化した。その場で同性愛は十字架になった。否定しないと罪人になる、まるで日本植民地時代にクリスチャンが強要された「踏み絵」のように。上で紹介した携帯メールには聖書が引用されていた。「神に従いなさい。そして、悪魔に立ち向かいなさい。そうすれば、あなたがたから逃げ去ります」(ヤコブ4:7)。同性愛に反対していない人々の後頭部に向かって「悪魔たち」と言い捨てる声も聞こえた。

 この日だけではなかった。木曜日には公聴会を阻止し、月曜日には屋外集会、火曜日には国会フォーラムが相次いで開かれた。11月17日、ソウル駅では、民族福音化運動本部、エステル祈り運動などが主催した「同性愛差別禁止法」の反対集会が開かれた。平日の午後1時に開かれた集会に1千人を超える人々が集まった。1部は市民団体の集会、2部は礼拝の順に進められたこの集会で、民族福音化運動本部総裁のイ・テヒ牧師は「共産主義やイスラムよりも恐ろしいのが同性愛」と述べた。彼の説教の題名は、「同性愛は滅びるべき大きな罪悪」だった。この日の行事では、イ・ヨンヒ エステル祈り運動の代表が「パク・ウォンスン市長は、ソウル市民人権憲章を制定し、同性愛を擁護、助長、拡散しようとするのか?」と題した声明を読み上げた。彼の率いるエステル祈りの運動は、同性愛反対に熱心な団体だ。

北朝鮮宣教と同性愛反対の出会い

 「バイトする時間に出てきたのに!」。ソウル市庁別館講堂の周囲を行き来しながら、「同性愛ダメ!」を叫んでいた女性の言葉だ。性少数者たちが集まっている方を指さして、隣の人に「あの人たちが同性愛者だって」と不思議そうに話す彼女のアクセントには、北朝鮮なまりが出ていた。エステル祈り運動は、北朝鮮宣教を熱心に行っている団体だ。「聖なる国、北朝鮮救援、統一韓国、宣教韓国」のために祈る超教派の祈り運動です。...ますます蔓延するわいせつ、堕胎、同性愛を防ぎ、神聖な大韓民国を立て直すために祈る神聖な運動です」。このように同性愛反対に熱心なキリスト教団体の活動は、同性愛反対に限られない。北朝鮮宣教と同性愛反対は彼らの信仰の中でこのように出会う。2000年代後半、国家人権委員会の前でデモを行っていた彼らの主要なスローガンには「北朝鮮の人権を無視して同性愛を擁護する人権委は解体せよ!」があったから、今更のことでもない。

火曜日の11月18日、ソウル汝矣島(ヨイド)国会議員会館では、「第1回脱同性愛人権フォーラム」が開かれた。「キリスト教の信仰を通じて同性愛からの抜け出すことができる」と主張する人々の集まりが「国会」で開かれたものである。自ら同性愛者だったというイ・ヨナ牧師(ホーリーライフ代表)が主導する流れである。この日のフォーラムを主催したホーリーライフ、健康な社会のための国民連帯、選民ネットワークなどは仮称「脱同性愛人権キリスト教協議会」発起人の会を開いた。もはや性少数者差別禁止に関連する法律や条例を阻止することを超えて、自分たちが望む法を作成しようとする動きにまで繋がっている。

 再びソウル市庁別館講堂、公聴会の進行を巡って一触即発の危機感が漂う中、公聴会を進行しようとする人々がいるところに向かって老年の男性が吐き捨てるように言った。「×穴野郎!」。興奮した瞬間に発した言葉は、彼だけの考えではなかった。同性愛反対の論理は、単純な「同性愛=罪」の主張を越えて同性愛が広がると、税金が無駄になるという主張につながる。11月17日ソウル駅での集会を知らせるエステル祈り運動のホームページのバナーには、「同性愛者の増加→エイズ拡散→100%国民の血税→税金爆弾」というフレーズが浮かんでいた。「感染者に提供される薬価のために血税が無駄になる」のような経済論理が強調されるのである。公聴会が開かれたこの日も、「私の税金!」を叫ぶ人々がいた。セウォル号特別法に反対する特恵論理がここでも働いている。

「血税」心配している愛国キリスト教団体

今年7月、ソウル汝矣島の国会前でイエス財団イム・ヨハン牧師がセウォル号特別法反対のデモをしている。イム牧師は同性愛反対にも熱心だ。パク・スンファ記者//ハンギョレ新聞社

 「セウォル号主催側なの?」。セウォル号追悼リボンをつけていた性少数者が聞いた言葉だ。「削除されるのは、議論ではなく、人権です」と書かれたプラカードを持っていた彼にそのように追及した人は一人ではなかった。「国を亡ぼす」との声が少なからず聞こえたこの日、公聴会の阻止を主導した人物の中にイム・ヨハン牧師がいる。イエス財団代表の彼は7月、ソウル汝矣島の国会前で「国会は、セウォル号特別法の拙速な立法を即刻中断しろ」とのプラカードを持って1人デモを行った。7月16日、檀園(タンウォン)高校2年生の生存者学生40人余りが、国会で座り込みをしている遺族を訪ねて京畿道安山(アンサン)から国会まで歩いてきた日、学生らに出くわしたこともあった。このように自称愛国キリスト教勢力の「反対」は同性愛に限らない。

 6月7日、ソウル新村(シンチョン)一帯で開かれたクィア文化祭パレードに保守キリスト教団体と大韓民国父母連合が立ちはだかった。一見すらすらと読める文章だけど、少し考えてみると奇妙な点がある。キリスト教団体の同性愛反対はともかく大韓民国父母連合まで出てくるにはぎこちないところがあるのではないか?彼らが連帯した背景には、軍刑法の問題がある。同性の間で合意された性交も処罰する旧軍刑法第92条5項に憲法裁判所の合憲決定が出る前、大韓民国父母連合は「軍刑法が改正されれば、国防力が弱体化する」と主張して同性愛反対に乗り出した。2011年の学生人権条例反対運動を通じて保守教育団体との連携も強化された。このように、すでに人的に絡んでいた保守とキリスト教右翼の絆はさらに深まった。

 「選ばれし民族!先進民族!善良な民族!」。ソウル市民人権憲章などに性少数者差別禁止項目を挿入することに反対する団体の一つである、選民ネットワークのホームページのトップページに出で来るスローガンだ。貧しい国から急速な経済開発を成し遂げた韓国は、神様の祝福を受けた国であり、韓民族は選民だということだ。このような誇らしい成功はプロテスタント信者である李承晩(イ・スンマン)初代大統領から始まったという論理がある。選民ネットワークは、「李承晩大統領の銅像が光化門(クァンファムン)広場に建立されることを国民の皆さんに請願します」との声明を発表した。選民を自認して社会が浄化されることを求めている人達の声明書の内容はこうだ。「ゴミのような無償給食を中止し、庶民層の青少年の『一日2食』を保証するための正しい給食制度を実施しろ!」「憲法裁判所は、統合進歩党解散審判を迅速に進めて!」。しばらくの間、同性愛反対を叫んでいた彼らがだてに「従北ゲイ」という言葉を持ち出しているわけではない。

 11月20日午後2時30分、まだわめき声が聞こえる中、ソウル市は辛うじて公聴会の終了を宣言した。しかし、講堂を埋め尽くした人々はその場から動かなかった。ソウル市庁前で予定されて集会が開かれるまで、ホールに残って発言を続けた。署名用紙を自主的に作成しソウル市民人権憲章反対署名運動を行ったという話やパク・ウォンスン ソウル市長を糾弾する言葉が続いた。誰かの提案で、彼らは「愛国歌」(韓国の国家)を歌った。立ち上がって愛国歌を歌っていた人達が席に座った。しかし、4時に予定された集会までまだ時間が残っていた。誰かが「愛国歌4番まで歌いましょう」と叫んだ。「同性愛反対!」という掛け声に「アーメン」と答え、「公聴会が失敗に終わりました」と言うと、「ハレルヤ」と答える彼らのもう一つの面だった。

アーメン、ハレルヤそして愛国歌

 「コメント使役お願いします」。ソウル市民人権憲章公聴会のような重要な日程が終わった後に送られるメッセージである。ポータルサイトに上がってきた記事に同性愛反対の立場のコメントを書いてほしいということである。主に信徒らのネットワークで広がるこのような携帯メールは、強力な力を発揮する。ソウル市庁のような機関のホームページに抗議文を書き上げ、関連部署に抗議の電話をすることも欠かせない。鳴り止まない抗議の電話によって差別禁止法の制定が失敗に終り、集会申告が取りやめになる状況が起こる。同性愛反対メディアであるkhTVの動画「同性愛の実態を正確に伝えるべきだ」で、イ・ヨンヒエステル祈り運動代表はこう言った。

今年6月7日、ソウル新村一帯で開かれたクィオ文化祝祭パレード行事を阻もうとするキリスト教徒たち。イ・ジョングン記者//ハンギョレ新聞社

 「金日成主体思想派、主思派といいますよね。反国家的なことを図る人達が同性愛を異常に多く支持すしています。彼らは宣伝戦に長けています。インターネット、SNS ...聖書の価値を尊重する人々は、このようなことに非常に弱いのです。...今はスマートフォン、インターネットの時代と言えますが、これらで勝たなかったら、負けてしまいます」。このようにイ・ヨンヒ代表とアン・ヒファン明るいインターネット世界作り運動本部共同代表などはインターネット活用を強調し、ネットワークを効率的に活用する勢力となった。オンラインのコミュニケーションを通じて、オフラインでこれほど強力な力を発揮する集団はあまり見当たらない。

 2007年の差別禁止法反対運動は、主に韓国キリスト教総連合会(韓基総)を中心に行われた。韓基総は差別禁止法の反対声明を出し、大教会の牧師たちも反対運動に名を連ねた。しかし、それ以降の様相は少し異なる。教会連合体よりは小さな団体を中心に反対運動が活発になった。キム・ジノ第3時代キリスト教研究所研究室長は「韓国教会が危機に直面した2000年代以降、韓基総の積極的な反共主義は奇妙な反響を呼んだ」とし「危機の原因を内部ではなく、外部の敵から探す流れができた」と述べた。このような流れは、「従北攻勢」にとどまらなかった。韓国教会の新しい苦難として同性愛を考えている人も出できた。

 同性愛反対論理の基底には家族の価値、青少年保護がある。1970〜80年代に始まったアメリカの保守的イデオロギーである家族の価値が21世紀の韓国で再現されているのである。しかし、今は性少数者の権利を認める国際人権規範の時代だ。パン・キムン国連事務総長は、2012年3月7日、「性的指向とジェンダーアイデンティティについての議論」でこう言った。「レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダーに言います。あなた達は一人ではありません。...今日、私はあなた側に立ちます。そして、すべての国と人々にあなたの側に一緒に立ってくれることを要請します」。

 それに世界の各国でも同性婚の合法化が進められている。このような現実に対して、彼らは韓国だけは違うべきだと主張する。イ・ヨンヒ代表はkhTVの動画で「既に同性愛が認められた国を見て、私たちは間違えることなく、良い国にしていかなければならないと思います」と語った。米国、西欧志向が強かった韓国のキリスト教が同性愛反対の論理を強化するために、米国、西欧の現実を批判しているのである。このような価値が愛国と結合する時、同性愛、従北、兵役拒否は社会を混乱に陥れる敵となる。

忘れられない軽蔑の眼差し

 11月20日、ソウル市庁講堂で10人の性少数者は、非難の嵐にさらされていた。ソウル市が主催したイベントに参加した性少数者の市民に対してソウル市は十分な保護責任を果たさなかった。ソウル市民人権憲章を性少数者だけの問題にとどめた韓国の進歩勢力もそこにはいなかった。韓国キリスト教の他の意見を示すクリスチャンもなかった。誰もいなかった。民主党をはじめとする政界は、人権の原則と得票の現実との間で葛藤しながらも、結局現実の側に立ってきた。今バク・ウォンスンのソウル市もそのような試験台に上がっている。

 ソウル市庁別館前の道では公聴会が終わると、三々五々家に帰る人々が見えた。同性愛反対を叫ぶ彼らと何度も対峙してきたクァク・イギョン同性愛者人権連帯労働権チーム長は、「道で出会ったら、やさしい隣人に見えた人達」としながら、「キム執事」のような呼称が似合う彼らがみせた軽蔑の眼差しを忘れることができない」と述べた。

特別取材班(お問い合わせ japan@hani.co.kr )

韓国語原文入力:2014/11/26 10:43

https://www.hani.co.kr/arti/society/rights/666210.html 訳H.J(6597字)

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