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[寄稿] 日本の「ネット右翼」を見れば韓国の「イルベ」の未来が見えてくる

登録:2014-10-08 06:42 修正:2014-10-08 15:36
日本で差別的発言を分析してきた高史明氏の提言
セウォル号遺族“無賃乗車論”は
在日韓国人“特権論”と瓜二つ
弱者に向かった偏見・差別はすでにタブーではない
ネットで行き交う言葉をそのまま表に持ち出して嫌韓デモを始めた日本のように、最近のインターネットサイト「イルベ」の会員たちもソウル光化門広場で“カミングアウト”を強行した。ニューシス

日本ではここ数年、インターネット上におけるコリアンに対する差別的な投稿の内容がエスカレートしている。直接的な差別も多いが、なかには「在日コリアンは日本で特権を享受している」といった“変化球”的な誹謗中傷も少なくない。実は韓国のインターネット上でも女性や特定の地域の人に対して似たような攻撃をする現象があり、最近ではセウォル号沈没事故の遺族に対して「無賃乗車」をしているといったデマが流されている。Twitterに投稿されたコリアンに対する投稿を分析した日本の社会心理学者・高史明(たか ふみあき)氏は、マイノリティや弱者に対して「特権がある」とする差別はどの社会にも偏在するものだと指摘する。 編集者

 私は現在日本に存在する在日コリアンを相手にした偏見に対して研究している。

 私が在日コリアンへの偏見について関心を持ったのは、「高史明」という私の名前がコリアンの名前のように見えるため、クラスメイトや教師たちから繰り返し嫌がらせを受けた子ども時代の経験があるからだ。私が子どもだった、80年代~90年代には、コリアンが日本に居住するようになって既に半世紀も経っていたにも関わらず、コリアンへの侮蔑的態度はしばしば表出されていた。だから、近年日本で問題となり、世界的な関心事にもなっている在日コリアンへの偏見・差別が、近年にわかに姿を表したものであるという意見は、やや的外れである。民族偏見・差別はどんな集団もその対象になり得るが、多くの場合、差別の対象は偶然ではなく歴史的背景に基づいてターゲットにされてきたのだ。

 ただし、20世紀末においては、コリアンへの偏見はしばしば表出されるものだったとしても、そうすることは社会的に好ましくないことであるという規範が、(偏見を向けられるコリアンにとっては不十分であったとしても)ある程度までは受け入れられていたように思われる。少なくとも、分別のある大人は公の場ではそうした態度を表さないものだと、子どもながらに感じていた。

 状況が変わり始めたのは、2002年の日韓共催ワールドカップにおいて両国のサポーター間の確執が表面化した頃だろう。また同年、小泉純一郎元首相が北朝鮮を訪問し拉致事件の実体が明るみに出たのもきっかけとなった。この頃から、特に匿名掲示板の“2ちゃんねる”を中心に、コリアンに対する侮蔑的な意見の表明が目立つようになり、次第にインターネット上の様々なコミュニティに浸透していった。そして、インターネット上での偏見の氾濫にやや遅れて実社会も追随しはじめ、コリアンを中傷するようなジョークが日常会話に登場することも増えていった。 

アメリカにおける
黒人差別の例を見ると
 

  私がコリアンに対する偏見を研究し始めたのは、こうした背景を受けてのことで、2006年のことだった。

 私がまず注目したのは、在日コリアンは“特権”を持っているとの言説がインターネット上で広く見られたことであった。これが興味深いのは、アメリカにおける黒人に対するレイシズムの研究においても、「黒人は劣っている」といった露骨なレイシズムに代わって、「黒人は自分の努力不足を棚に上げて既に存在しない差別に対する文句を言い不当な特権を得ている」とする、新しいレイシズムが指摘されてきたからである。この背景には、ナチスの人種政策の反省と公民権運動という20世紀半ばに起きた2つの出来事により、露骨なレイシズムが社会的に容認されなくなったことがあると考えられている。

 この新しいレイシズムの相似物は、黒人だけではなく、女性や同性愛者についても見出されてきた。つまり、“在日特権”言説は、在日コリアンが現に特権を得ているという客観的事実に基づいて生じたというよりは、被差別マイノリティの地位が改善したときにそれへの反発として生じる、人間の一般的な心理を反映したものであると考えることができるのである。近年では韓国においても、朝鮮族が“特権”を持っているという言説が表れているとのことであるが、これは世界的に見ると、決して新しい現象ではないのである。

コリアンに関する投稿の
7割がネガティブな内容
 

 2008年から2011年にかけて実施したアンケート調査では、在日コリアンへのレイシズムにおいても、上述の「侮蔑的な偏見」と「特権があるという偏見」の2つの要素を分離することができ、またそれぞれが理論的に予測される効果を持つことが示された。

 ただし、これらの要素が実際にどの程度、どのような形で表出されているのかは、さらなる検討が必要である。そこで、2012年11月から2013年2月にかけて、「朝鮮人」「韓国人」などといった、コリアンに関する幾つかの検索語を用いてTwitter上の11万件ほどの投稿を収集し、分析した(これは当該期間中に行われた投稿のごく一部である)。この時期は、12年8月の李明博(イ・ミョンバク)元大統領の竹島上陸を受けて、日本で対韓強硬論がさらに強まっていた時期であり、また期間中の12月には日本において民主党政権が崩壊し、総選挙で超タカ派の安倍晋三首相率いる自民党が圧勝している。

 分析[高史明6]の結果、コリアンについての投稿の70%程度がコリアンに対してネガティブなものであり、またごく少数のアカウントがこれらの投稿の少なくない部分を占めていることが明らかになった。投稿数が上位の25アカウント(捕捉されたアカウントの0.06%)がネガティブな投稿全体に占めるシェアは、15%近くになる。これらはおそらくbotと呼ばれる定期的に自動で投稿を行うプログラムだが、平均的なユーザーに比べ遥かに多くのフォロワー(講読者)を獲得していた(多いものでは15,000アカウントを超えていた)。このような形でネットユーザーらが、日夜“浴びるように”レイシズム言説に接触する効果は、おそらくネットワークを介して伝播し、多くのユーザーに好ましくない影響をもたらしているであろう。

 次に投稿内容の分析だが、これには計量テキスト分析という手法を用いた。幾つかのテーマについて関連語を指定し、それらの語を含んでいる場合にはそのテーマに関する投稿であるとコーディングした。その結果、露骨な差別的表現が10.75%、特権があるといった隠微な偏見は12.20%の投稿に表出されていた。マスコミが“真実”を隠しているという不信感もしばしば表出されていたが、そうしたツイートの少なくない数が、2ちゃんねるもしくは“2ちゃんねるまとめブログ”(2ちゃんねるの投稿を取捨選択しブログ形式で投稿するサイト群のこと)を情報源としていた。特に、マスコミが在日コリアンの犯罪を“通名”(在日コリアンが用いる日本風の姓名)で報じることで、在日コリアンが不当な利益を得ているとする発言が多く見られた。マスコミが“コリアンに関する何らかの真実”を伝えていないと疑う一方で、マスコミ以上にバイアスのかかった“2ちゃんねる”などのメディアに依存するのはいささか滑稽ではあるが、これは日本だけでなく、韓国の2ちゃんねらーと言われるイルベチュン(韓国の匿名掲示板「日刊ベスト貯蔵所」のユーザー)においても見られる傾向だと聞いている。

  韓国においても注目されている歴史問題に関する発言も多く見られ、これらはしばしば、日本のコリアンに対する過去の加害行為を否定することで、生活保護や年金などの社会保障の面でのコリアンの権利を非難するものとして表れていた。

ネット世論に迎合する
政治家には要注意
 

 このようにネットにおける民族偏見の表出され方を研究したのだが、その一方で2014年の現在、強調しておかなければならないのは、既に日本におけるコリアンに対する偏見・差別の主戦場は、インターネットではなくなりつつあるということである。いや、確かに在日当事者にとって主戦場はもともとインターネットではなかったし、制度上の差別は長い間重要な問題でありつづけてきたのだが、一般の人が日常生活でコリアンに対する偏見・差別を表出するのを見かけることは、この1~2年でそれまで以上に急増した。本屋には韓国(および中国)を誹謗中傷する書籍のコーナーが設けられ、地上波のテレビでも日本を賛美し韓国などをこき下ろす番組がしばしば流されるようになった。慰安婦問題では、朝日新聞が過去の報道の一部に誤りがあったことを認めたことを受けた激しいバッシングが起こり、日本による慰安婦への加害性そのものを否定しようとする者も多い。

 ここには長年の間インターネット上で偏見が培養されてきた土壌と、与党に返り咲いた自民党が強固な信念を持つ安倍首相を中心に偏見・差別を肯定するスタンスを示していることとの融合が見られる。

 もし“イルベ”に手を焼く韓国が日本から教訓を得られるとすれば、インターネット上の暴力的な“世論”に迎合する政治家を選ぶことは、差別は社会的に好ましくないことであるという社会的規範を一気に崩壊させ、“実社会のインターネット化”を招くということであろう。

社会心理学者 高史明(たか ふみあき)神奈川大学非常勤講師

(お問い合わせ japan@hani.co.kr )

韓国語原文入力:2014.09.30 15:34

http://h21.hani.co.kr/arti/world/world_general/38009.html (3639字)

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