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2008年金融危機のデジャブ?「パンデミック」で世界経済はどこに向かうのか

登録:2020-03-16 07:36 修正:2020-03-16 08:30
人や物流など、世界経済の基盤を揺さぶる 
「超大型複合経済危機」への懸念の声も 
 
負債危機が爆発する可能性は低いものの 
中国経済の影響にG7・中東が絡んで破壊力大きく 
通貨政策の余力が減り、国際協力も失踪 
 
果敢な財政で需要を拡充するのが課題 
不平等の緩和と包容成長の基調を生かすべき
「33年ぶりの最悪の一日」。1987年のブラックマンデー以後、33年ぶりの最悪の一日だった今月12日(現地時間)、ニューヨーク証券取引所である職員がモニターを見ている/EPA・聯合ニュース

 「イタリアの金融システムは英語を使わないため、何の問題もありません」

 2008年9月、158年の歴史を誇る投資銀行リーマン・ブラザーズが一瞬にして破産した時、口達者のイタリア財務長官の目にはすべてが「米国でのハプニング」として映っていたようだ。しかし、金融市場という血管と神経網を通じて、小さな火種が世界経済を飲み込む超大型火魔と化すまで、1カ月もかからなかった。グローバル金融危機の始まりだった。翌年の2009年、米国(-2.5%)や日本(-5.4%)、ユーロ圏(-4.5%)など、主要国が受け取った経済成績表は一様にマイナスとなり、結局、世界経済は逆成長(-1.7%)の泥沼に陥った。

 2020年初頭、中国湖北省武漢から飛んできた新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のニュースも、世界の人々にとってはしばらくの間、「中国の不幸」にすぎなかった。それから2カ月、世界の風景はすっかり変わってしまった。ウイルスが中国とアジアを越えてすべての大陸に広がり、世界保健機関(WHO)は「パンデミック」(世界的な大流行)を公式宣言しており、ドナルド・トランプ米大統領は30日間「欧州から米国への旅行禁止」という史上初のカードを取り出した。世界金融市場がショックに陥りあえいでいる世界経済の基盤が、一つ二つと破壊されつつある。果たして2008年の悪夢は繰り返されるだろうか。それとも、約10年前の金融危機よりさらに強力な「パーフェクトストーム(超大型複合経済危機)」の泥沼に、世界経済ははまっていくのだろうか。

■「アンノウン」+「アンタッチャブル」の危機

 金融市場の不安と衝撃はさておいても、コロナパンデミックの初期の影響は随所で見られる。今後の景気を予測できる中国の2月の購買担当者景気指数(PMI)は、2005年に統計を取り始めて以来、最低値を記録した。2008年の金融危機当時より低い数値だ。今月に入り、欧州の主要国や米国まで直撃を受けたことを考えると、世界経済の実物部門に及ぼすショックは安易に予断できないほどだ。経済協力開発機構(OECD)は、今年の世界経済成長率を2.9%から2.4%に下方修正したのに続き、場合によっては成長率が1.5%にまで落ち込むと見込んでいる。

 2008年の金融危機は、「何が分からないのか分からない」危機と言われた。数多くの最先端派生金融商品が金融市場という血筋や神経網に乗って広がってはいたものの、いざ商品に隠れている危険性の実体がはっきりしていなかったためだ。正確な特性と感染経路が分からないウイルスが急速に広がっていく今の姿とあまりにも似ている。問題は、現在の状況が一歩進んでいることにある。金融市場を急いで安定させ、危機の火種が実物部門に飛び火しないようにするのが2008年の対処法だったが、現在の最優先課題は断然“防疫”だ。冷静に言えば、経済を超える領域であり、政府や中央銀行など経済政策当局の対応は危機治療ではなく、支援作業に過ぎない。文字通り「アンノウン」(未知の)に加えて「アンタッチャブル」(手をつけられない)危機であるわけだ。

■2008年と2020年、変化した環境の影響

 もちろん、投機に近い債券が集まっている米国のハイイールド(利回りの高い)債権市場で、対国債比スプレッド(加算金利)は2008年の金融危機当時の水準を下回っている。「免疫力が最も低い」債権の危険度という観点で、危機の兆候を真っ先に感知する最前線のアンテナともいうべきクレジット市場は、金融危機の現実化の可能性をまだ低く見ているという意味だ。このような事情には、2008年とは大きく異なるマクロ経済環境が一役買っている。米国の中央中銀は2008年の金融危機の2~3年前に利上げを開始した。事実上、金融危機の事前ドラマだった。負債返済能力の低い家計がサブプライムモーゲージ(低所得者向けの住宅ローン)という“引き金”に触れて、金融機関の破産へと繋がり、爆発したのが2008年の金融危機だった。世界的に低金利体制の今は、短期間に金融危機へと爆発する負債圧力は相対的に低いとも言える。

今月13日、有価証券とコスダック市場ではサイドカーとサーキットブレーカーが同時に発動された。この日KOSPIは前日より62.89下がった1771.44で取引を終えた。同日午後、ソウル汝矣島のKB国民銀行のディーリングルームの様子=パク・ジョンシク記者//ハンギョレ新聞社

 にもかかわらず、2008年とは環境が異なるため、かえって懸念される部分も少なくない。まず挙げられるのは何といっても中国の影響だ。2008年当時、直撃を受けたのは大西洋を挟んだ米国と欧州だった。世界経済のもう一つの軸だった中国は、2008年と2009年それぞれ9.7%、9.4%成長し、火魔から一歩離れていた。世界経済が早いテンポで回復に転じる“風穴”の役割を果たしたのは言うまでもない。ところが、現在目の前に広がっている状況は(2008年当時とは)全く異なる。中国はコロナパンデミックの発源地であり、米国や日本、欧州の主要国など主要7カ国(G7)はもとより、中東地域も超強力ウイルスに感染した状態だ。全世界の産業バリューチェーンの崩壊と限界企業の倒産で、実物部門の傷が金融部門にまで飛び火し、金融市場が再び実物部門の危機を増幅させる、真のグローバル複合経済危機の可能性を排除できないのもそのためだ。

 政策環境の変化も大きい。金融危機当時、各国は急いで金利を大幅に引き下げ、金融市場に“実弾(お金)”を注ぎ込んだ。米国は連邦基金金利を0.25%まで引き下げ、韓国だけでも1年間で基準金利が5.25%から2%へと下がった。米国や英国では最初から、量的緩和(QE)という名の下で年間国内総生産(GDP)の4分の1前後の金を3回にわたって供給する非伝統的な解決策も登場した。それに比べ、金利がすでに十分に低い今、通貨政策の余地は大きく減っている。事実上マイナス金利状態の日本と欧州の場合は特にそうだ。取り出せるカードが以前より少ないということだ。結局は財政を供給して政府が直接資金をつぎ込む(Let's get fiscal)財政政策が切に求められるだけでなく、危機に対抗して財政政策がより重荷を担わなければならないという意味でもある。

 それだけではない。紆余曲折の末、世界経済が金融危機のトンネルから抜け出すのには、国際社会の協力が大きな力となった。この点で、2020年の状況は、2008年当時よりかなり後退したと言わざるを得ない。その間、ブレグジットは欧州連合を揺さぶり、ポピュリズムはいたるところで勢力を伸ばし、米中貿易紛争の溝は深まった。ウイルスという原初的な恐怖の前で、各国政府は国境を封鎖し、それぞれ生き残りを図っている。調整された政治的対応がいつになく切実な(Let's get political)今、世界経済が享受できる“信頼資本”が大きく減ったのは、コロナパンデミックに苦しむ2020年の世界経済にとっては大きな不幸だ。

■パンデミックとJノミクス…韓国経済の行方は?

 今年、世界経済の成長と貿易の回復に支えられ、韓国経済の成長にも拍車がかかると予想していた韓国政府は予想外の超大型暗礁に乗り上げた。世界経済がコロナ発同時不況に陥った場合、今年の成長率が政府の展望値(2.4%)を大きく下回る可能性もある。政府も急いで11兆7000億ウォン(約1兆200億円)規模の「新型コロナに対応するための補正予算案」を発表したが、事態の深刻性に比べ、財政投入規模が不十分であるのが事実だ。コロナパンデミックは文在寅(ムン・ジェイン)政府発足以来、最も強力な“外部衝撃”だ。文在寅政府の経済政策、「Jノミクス」の政策基調とコロナパンデミック危機対応の間に“衝突”はないのか、もし衝突が起きれば、いかに解決していくかがカギとなる。

 2008年の金融危機は輸出中心の成長戦略を掲げた李明博(イ・ミョンバク)政府発足初年度に訪れた。ウォン安が進み、輸出大手企業に有利な環境を整えるのは、最初から「MBノミクス」の柱だった。金融危機でウォン安が進むにつれ、韓国経済は自然に輸出に支えられた景気回復の道に入った。皮肉にも、主要4河川事業などの大規模な建設投資が、危機対応の過程で景気刺激の効果を出した側面も無視できない。実際、2009年の韓国の国内総生産における景気刺激額の規模は3.9%で、米国(2%)や英国(1.4%)、日本(2.4%)に比べ、かなり高い。もちろん、政府の政策基調と調和(!)を成した危機対応策が、不平等の悪化と環境破壊など、長い間韓国社会に深い傷と後遺症を残したことは明らかだ。

 コロナパンデミックの真只中、文在寅政府が置かれている状況は極めて複雑だ。迅速な危機対応を掲げて“兎にも角にも景気浮揚”に乗り出せば、これまでの政策基調との混乱を招くだけでなく、危機対応も困難になり、政策基調まで揺さぶられる可能性もあるからだ。その代表的な事例が金利問題だ。政府は2017年の発足後、19回にわたって不動産対策を打ち出し、不動産市場安定への意志を示してきた。金融市場や輸出、内需など経済すべての領域の不安定性が極大化した状況で、政府と中央銀行の悩みは深まるばかりだ。政府が今すぐ切り出すべきカードは、果敢な財政執行による需要基盤の拡大と経済主体の心理回復だ。即効性のある現金支給を拡大したり、付加価値税額の一時免除のような措置のほか、困難に直面している自営業者などを対象にした融資保証の拡大など、様々な金融政策も考えられる。もちろん最も重要なのは規模よりは内容、“いくら”よりは“いかに”だ。コロナパンデミックの影響は階層別に異なるからだ。不平等の緩和と包容成長という政策基調も生かしつつ、目前に迫った危機対応にも成功する道だ。

チェ・ウソン・ハンギョレ経済社会研究院研究委員(お問い合わせ japan@hani.co.kr)
https://www.hani.co.kr/arti/economy/economy_general/932662.html韓国語原文入力:2020-03-15 21:16
訳H.J

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